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エチオピアン・ディアスポラのアフロ・ポップ・シンガー ツェディ [東アフリカ]

Tsedi SEW.jpg

エチオピアのコンテンポラリー・ポップスというと、現地で人気の高いレゲエを含めて、
そこそこみんな上手いんだけど、飛び抜けた才能が見当たらないなあと思っていたら、
出てきましたね、頭一つどころか、二つも三つも抜けた人が。
それが、現在オークランドに暮らすアフリカン・デイアスポラの
若き女性シンガー・ソングライター、ツェデイことツェダル・テスファフン。

ケニヤで生まれ、エチオピアに育ち、アメリカへ渡ったというツェディ、
幼い頃はレゲエやヒップ・ホップに夢中だったそうですけれど、
十代後半からシンガー・ソングライターとして曲を作るようになってからは、
インディア・アリー、エリカ・バドゥ、ジル・スコット、
ローリン・ヒルに影響を受けたとのこと。
そう聞けば、ネオ・ソウルど真ん中という音楽性を感じさせますけれど、
本作で繰り広げられる音楽は、アフロビーツそのもの。

ナイジェリアのアフロビーツが、パン=アフリカン・ミュージックになったことを、
これほど強烈に意識させられるアルバムもありませんね。
その影響力の大きさを、あらためて認識させられましたね。

涼し気なスティールドラムのサンプリングがトロピカル・ムードを誘う
オープニングのレゲエから、従来のエチオピア産コンテンポラリー・ポップスのクオリティを
はるかに凌ぐプロダクションを聞かせます。
なるほどネオ・ソウルを通過した人だなと感じさせるソング・ライティングも巧みで、
耳に心地良いメロディを書ける人ですね。

あ、もちろん言うまでもなく、ここにエチオピアの伝統的な音楽要素はありません。
ディアスポラが生み出したグローバル・ポップだからこそ、
アフロビーツとの親和性の高さが示されているわけですからね。
いまのところデジタル・リリースはなく、エチオピアのみでCDリリースされており、
今後現地での評判がどのようになるのかにも、興味をそそられます。

Tsedi "SEW" Musixmatch no number (2019)
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エチオピア演歌のヴェテランのカムバック作 アサフ・ダバルキ [東アフリカ]

Asefu Debalkie  LTEGNABET.jpg

いや~、これまたアムハラ演歌の味わいを堪能できる快作ですね。
こぶし回しのキモチいいことといったら、ありませんよ。

かなりのヴェテランとおぼしきルックスの人ですが、
アサフ・ダバルキの名は初耳です。
この人のYouTube を観ると、かなり古そうな映像やカセットまで出てくるので、
70年代の黄金時代から歌ってきた人なのかもしれませんね。

テオドロス・タデセと一緒に歌っているヴィデオや、
ラス・バンドをバックに歌っているヴィデオもあるので、
アメリカへ渡って、ワシントンD.C.のエチオピアン・コミュニティで
活動してきたシンガーなのでしょう。
新作も在米エチオピアン・コミュニティのレーベル、ナホンからのリリースだし、
カムバック作という文字もみられるので、しばらくシーンから離れていたのかもしれません。

本作はそんなブランクを感じさせない歌声で、熟達したヴォーカルを聞かせます。
じっくりと歌うアムハラ演歌あり、
マシンコをフィーチャーしたハチロクのダンス・ナンバーあり、
いずれもアサフの練れたこぶし回しをたっぷり味わえるんですけれど、
哀愁を帯びたワシント(笛)をフィーチャーした民謡調の曲が、特にいいなあ。
声を張るとかすかにひび割れるあたりが、なんともいい味ですよねえ。

若手がコンテンポラリーなサウンドに寄って、ヴォーカルもメリスマを利かせない
スムースなスタイルがメインになっているので、
エチオピア演歌はヴェテランに頼らざるを得ません。

Asefu Debalkie "LTEGNABET" Platinum/Nahom no number (2019)
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アムハラ演歌の華 ハメルマル・アバテ [東アフリカ]

Hamelmal Abate  KEMSHA.jpg

姐さん、お帰りなさいましっ!
エチオピア演歌の女王ハメルマル・アバテ、6年ぶりの新作です。
13年の前作“YADELAL” も7年ぶりでしたけれど、待たせますねえ、この人は。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2013-11-28
待っただけのことはある、今作は会心の出来ですよ。
アスター・アウェケの新作と同時期の発売というのは、前回と同じですね。

いやぁ、それにしても、このこぶし回しの気持ち良さといったら!
背中がぞくぞくしますね。
今回一緒に若手の男性歌手のアルバムをたくさん買ったんですが、
どの人もライト・タッチの歌い方をするコンテポラリー・ポップ・タイプだったので、
ずっとそういうスムースなヴォーカルばっかり耳にしたあとで、
ハメルマル姐さんのど演歌なこぶしを聴くと、沁みる、沁みる。
5曲目‘Enetarek’ のサビで炸裂させるこぶしには、昇天しました。

今作もアバガス・キブレワーク・シオタのプロデュースは快調。
アレンジャーには、シオタ以外5人が起用されていて、
シオタがアレンジしたのは3曲のみ。
アディス・フェカドゥが6曲と一番多く担当しています。

前作は鍵盤代用のホーンでしたけれど、
今回はサックス奏者がクレジットされています。
ホーン・セクションは鍵盤ですけれど、そこに生のサックスが加わると、
がぜん圧が違ってきますね。

民謡調の曲ではアコーディオンを効果的に使っているほか、
マシンコやクラールも大々的にフィーチャー。
9曲目‘Say Mado’ではアコーディオンとマシンコの伴奏をメインに
情深い歌いぶりを聞かせ、ラスト・トラックの‘Yene Bite’では、
マシンコとクラールのみをバックに、ブルージーな味わいの泣き節を聞かせます。
シオタがこんなシブいアレンジをするのは、ちょっと意外でした。

全14曲収録時間78分超というヴォリュームに、捨て曲なし。
アップにスローに硬軟使い分け、前作をはるかに凌ぐ力作、
アムハラ演歌の華を輝かせた傑作です。

Hamelmal Abate "KEMSHA" Amel Production no number (2019)
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コンテンポラリー・エチオピアン・ポップを歌うオロモ人シンガー アブッシュ・ゼレケ [東アフリカ]

Abush Zeleke  HID ZEYIRAT.jpg

いまオロモ人にもっとも影響力のある歌手といわれるアブッシュ・ゼレケ。
R&B色の強いコンテンポラリー・サウンドの
エチオピアン・ポップを歌う歌手として、ただいま人気沸騰中。
新作では、オロモ色を強調しないエチオピア全方位のリスナー向けアルバムとなっていて、
カラフルなレパートリーが魅力。ダンスホール・レゲエの影響色濃いサウンドは、
イマドキのエチオピアのトレンドに沿ったものとなっています。楽曲もツブ揃いで、
アブッシュのスムースなヴォーカルは、イキの良さが感じられて、スッキリ爽やか。

オロモのアルバムというと、全編どすこい・ビートというのが多くて、
単調に感じることもあるんですけれど、本作はそれにはあてはまりません。
オロモの特徴的なリズムの曲は1曲のみで、
その曲だけオロモ語で歌っているようですね。
ほかはすべてアムハラ語で歌っていることに、
オロモ民族主義者から、早速批判されているそうです。

う~ん、なるほど、そういう急進的な民族主義者も多いから、
オロモのアルバムって、全編どすこい・ビートになっちゃうのか。
アブッシュ・ブレケは、そういう自民族中心主義には反対の立場を表明していて、
インタヴューなどでも、宗派を超えて融和することが大事だと主張しています。

そんなアブッシュの姿勢が、本作にもよく表れていて、
エチオピアのカラフルなフォークロアに、レゲエ/ラガやR&B、
ヒップ・ホップのセンスを兼ね備えた、
現代性に富んだポップスが生み出されているわけですね。

人力のドラムスやホーン・セクションの生音使いを強調したトラックと、
ヒップ・ホップ/ラガの打ち込みを活かしたダンス・トラックと、
くっきり使い分けたプロダクションが、いいバランスを保っています。
ギター、ベースの聞かせどころもしっかりあって、コーラス・アレンジの上手さなど、
アレンジ面でも若い才能が伸びてきたのを実感できる一枚です。

Abush Zeleke "HID ZEYIRAT" Hobinet Media no number (2019)
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クリチーバのショーロ ジュリアン・ボエミオ [ブラジル]

Julião Boêmio FEIJÃO NO DENTE.jpg

パラナのクリチーバ出身という、カヴァキーニョ奏者のソロ・アルバム。
クリチーバのショーロ・グループって、前に確か聴いたなあと棚を探したら、
あった、あった、ヴァリエダージス・コンテンポラネアス。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2012-05-27

コンテンポラリーなショーロの傑作でしたよねえ、このアルバム。
アミルトン・ジ・オランダのような
アーティスティックやプログレッシヴのヴェクトルでなく、
かといってジャコー・ド・バンドリン由来のシリアスな伝統派とも距離を置いていて、
ショーロが元来持っていたユーモアと娯楽性を持った音楽性が嬉しいグループでした。

クレジットを見たら、ジュリアン・ボエミオ、
このグループのカヴァキーニョ奏者じゃないですか。
なるほど、本作にもヴァリエダージス・コンテンポラネアスの音楽性が生かされています。

全14曲、すべてジュリアンの自作ショーロ。
1曲1曲すべて編成が違っていて、
カイピーラ・ギターにビリンバウまで登場する曲もあるなど、
ヴァラエティ豊かなアレンジが楽しめます。

参加したミュージシャンも大勢で、パンデイロ奏者だけでも、
エポカ・ジ・オウロのジョルジーニョ・ド・パンデイロにセルシーニョ・シルヴァ、
そしてマルコス・スザーノといった、そうそうたるメンバーが居並びます。
ヴァリエダージス・コンテンポラネアスのメンバーからは、
フルートとドラムスの二人が参加していますね。

おっと思ったのは、セルジオ・アルバッシが
クラロンとクラリネットの二重奏をしていたこと。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-08-26
そうか、セルジオ・アルバッシも、クリチーバの音楽家だったんですよね。
アルバッシが参加したその曲は、古風なマシーシで、
最近は若いショーロの音楽家が、マシーシをよく演奏するようになった気がするのは、
ぼくだけかしらん。

本作の1曲目とラストがマシーシで、
あれ、これって、トリオ・ジューリオのアルバムもそうでしたよね。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2019-01-21
偶然かも知れないけれど、古典ショーロ・ファンには嬉しい傾向だなあ。

そして、ジュリアンのカヴァキーニョ・プレイはといえば、もう名人芸クラス。
余裕シャクシャクで、さらりと高度なテクニックも聞かせながら、
テクニック先行とならない豊かな音楽性の発揮が、本作を傑作に仕上げています。

Julião Boêmio "FEIJÃO NO DENTE" Fonomidia FONOCD3154 (2016)
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やるせなく美しすぎる遺作 ラシッド・タハ [中東・マグレブ]

Rachid Taha  JE SUIS AFRICAIN.jpg

昨年9月12日、あと6日で還暦を迎えるはずだったラシッド・タハは、
天国からの唐突な呼び出しで、突然この世を去ってしまいました。
心臓発作だったというその訃報は、同い年のぼくにとって大きなショックでした。

もっとも、驚きの一方で、やっぱりという思いも、実はあったんです。
何年か前、ラ・キャラヴァン・パスのミュージック・ヴィデオに客演しているタハを観て、
その具合の悪そうな姿に、タハはもうダメなんじゃないのと思っていたのでした。
ベロンベロンに酔っぱらって、立ち姿もフラフラで、まるでアル中患者のようでした。

そんな姿を目撃していたので、突然の訃報も、酒の飲み過ぎで
内臓もボロボロだったんだろうなどと、勝手に決め込んでしまっていたのでした。
ところが、実はタハはもう二十年来、アーノルド・キアリ病という
難病と闘っていたということを、後になって知りました。

アーノルド・キアリ病は脳の奇形の一種で、
背髄空洞症を引き起こし、運動機能に障害をもたらす病気といいます。
平衡感覚を失い、よろけて歩くことも困難となり、手足の麻痺も重篤になるとのこと。
フラフラだったあのヴィデオはそういうことだったのか!
そんな姿をミュージック・ヴィデオであえて晒したタハの心境たるや、
いかなるものだったんだろう。

タハはなんとこの難病に、87年からずっと苦しめられていたのだそうで、
ソロ・シンガーとなる前からのことだったなんて、衝撃です。
そんなことも知らず、「酔いどれロッカー」などと誤解していたオノレの不明を恥じました。

タハが最後に残したアルバムはすでに完成していて、まもなく遺作としてリリースされると
聞いていましたが、『オレはアフリカ人』という挑発的なタイトルのアルバムが届きました。
バルカン、地中海サウンドをミクスチャーしたシャンソン・パンク・バンドの
ラ・キャラヴァン・パスのリーダー、トマ・フェテルマンと二人三脚で制作したアルバムで、
トマがプロデュース、共作、アレンジを務めています。

「あんたはもうすぐ60になるんだ。オレはあんたがいつまでも叫んだり、
飛び跳ねたりするのを望んじゃいないよ。
オレは一緒に‘オリエンタル・パンク・クルーナー’のアルバムが作りたいんだ」と
トマは、タハに言ったといいます。
まさしくそんな「オリエンタル・パンク・クルーナー」を体現してみせた本作、
こんなにやるせなく歌うタハがこれまであったでしょうか。
すでに死期を予感していたのか、最後の生を燃やし尽くすような
エネルギーをほとばしらせながら、シニカルとユーモアでまぜっかえす男の照れに、
もう泣かずにはおれないじゃないですか。

こちらの思い入れが加わっているからとはいえ、これほど美しい遺作があるでしょうか。
タハより20歳も若いトマは、手足が麻痺し、
歌詞を書き留めるボールペンを持つこともできず、
ヘットフォンを付けることもできなくなったタハのそばに寄り添い、
曲作りをして完成させたというエピソードを読んだときは、もう号泣してしまいましたよ。

「オレたちすべてアフリカン」とマニフェストを掲げた本作のジャケット内には、
マルコムX、バラク・オバーマ、ネルソン・マンデーラ、フランツ・ファノン、
エメ・セゼール、ジミ・ヘンドリックス、カテブ・ヤシーヌ、ジャック・デリダ、
ボブ・マーリーなどなど、大勢の著名人たちの似顔絵が並んでいます。

タハ自身が影響を受けてきたであろうそれらの人々に謝辞を述べて、
最後の別れを告げたこのアルバム、その幕引きの見事さに、
タハ、あっぱれというほかありません。

Rachid Taha "JE SUIS AFRICAIN" Naïve M7062 (2019)
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ミャンマーの伝統歌謡を歌う姉妹デュオ イーイーチョン&イーイーモン [東南アジア]

Ei Ei Chong & Ei Ei Mon  YINTHAEKA GANOWIN THAYMYAR.jpg

ミャンマーの伝統歌謡界に、見目麗しい姉妹デュオが登場しましたよ。
その名は、イーイーチョンとイーイーモン。
どっちがどっち?と最初わからなかったんですが、
最新作の写真右側、八重歯のある方がお姉さんのイーイーモンで、
写真左側が妹のイーイーチョン。

パッケージがヴェトナム並みの美麗な装丁なうえ、DVD付きなのには驚かされました。
ついこの前まで、ソフトケースにCD-Rがスタンダードだったミャンマー盤が、
突如高級感溢れるホルダーケース仕様となったのには、こりゃ、一体どうしたことかと。
ミャンマー経済の内需好調の様子が、こんなところにも現れているようですねえ。
お隣タイではCD生産が激減しているのに、皮肉なことです。

で、中身の方なんですが、
全編ミャンマータンズィンなんだから、万歳三唱もの(はしゃぎすぎ)。
ラスト1曲のみ、ギター、ベース、キーボード、ドラムスのバンドをバックにした
ポップ・ナンバーで、伝統歌謡ファンにはたまらない内容となっています。
二人のデュオあり、それぞれソロで歌う曲ありで、二人とも歌唱力は高いんですけれど、
とりわけイーイーチョンの柔らかなコブシ使いと、
ハリのある凛とした発声の良さは、飛び抜けています。

観客なしの会場でのライヴを撮影したDVD『ライヴ・ショウ』を観ると、
フネーを含むサイン・ワイン楽団4人に、
5人のホーン・セクション(トランペット、テナー、バリトン、
アルト・サックス、チューバ)に、6人のストリング・セクション、
ピアノ、ギター、ベース、ドラムスというゴージャスなバック。
しっかりとしたアレンジがなされていて、
一流の音楽家たちを起用していることがうかがわれる演奏内容です。
1曲ごとにお召し替えする二人も見どころですね。

いやあ、すごい新人が出てきたもんだと思ったら、
7月に出たばかりのこの新作は、すでに3作目だそうで、
15年にデビュー作、16年に2作目を出していることが判明。
早速そちらも手に入れてみると、なんとこの2作もDVD付きなのだから、ビックリです。
デビュー作からこの力の入れようなのだから、二人への期待の大きさがわかりますね。
しかもVCDじゃなくて、DVDというのは、ミャンマーでは破格でしょう。

Ei Ei Chong & Ei Ei Mon  MYINT MO PHAY PHAY.jpg

デビュー作は、オープニングから前半で、
サイン・ワインのアンサンブルが加わったタンズィンを聞かせるものの、
ほとんどはポップ・ナンバーが中心。
まだ伝統歌謡一本で売り出すのには、迷いがあったようですね。
DVDを観ると、ポップ曲がMVで、タンズィンはライヴ・ショウ仕立てとなっていて、
なんと、イーイーチョンがサイン・ワイン(パッ・ワイン)を叩きながら
歌うシーンもあります。
あてぶりかと思いきや、サイン・ワインを叩く手元がはっきりと映っているので、
本当にサイン・ワインを演奏できるみたいですよ。スゴいなあ。

Ei Ei Chong & Ei Ei Mon  A PYO TAW GAN BI YA.jpg

2作目になると、ミャンマー音階が顔を出さない西洋スタイルのポップ曲は2曲に減り、
ほかはすべてバンド・スタイルのポップなメロディと行き来する
折衷スタイルのミャンマータンズィン。しかも、タンズィンを作曲しているのは、
ミャンマー伝統音楽界の大物セイン・ムーターなのだから、びっくりです。

Ei Ei Chon  HLEL YIN TAW.jpg   Ei Ei Chon  U LAY GYI.jpg

姉妹で2作を出したあと、妹のイーイーチョンの方は、ソロ・アルバムを2作出しています。
CDが入手できずVCDを入手したのですが、“HLEL YIN TAW” は伝統歌謡アルバム、
“U LAY GYI” がポップ・アルバムとなっていました。

こうしてみると、レコード会社を変えて出した最新作は、
伝統歌謡路線にしっかりと軸足を据えて制作したものだということがわかります。
サイン・ワイン楽団も、セイン・ムーターの息のかかった
名手たちが揃っているんじゃないでしょうか。

メーテッタースウェ、キンポーパンチ、トーンナンディなどの少女歌手に加え、
姉妹デュオの登場と、ミャンマー伝統歌謡は花盛りですね。

Ei Ei Chon & Ei Ei Mon "YINTHAEKA GANOWIN THAYMYAR" Man Thiri no number (2019)
Ei Ei Chon & Ei Ei Mon "MYINT MO PHAY PHAY" Yatanasein no number (2015)
Ei Ei Chon & Ei Ei Mon "A PYO TAW GAN BI YA" Yatanasein no number (2016)
[VCD] Ei Ei Chon "HLEL YIN TAW" Yatanasein no number (2018)
[VCD] Ei Ei Chon "U LAY GYI" Yatanasein no number (2018)
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敬虔な仏教徒のミャンマー伝統歌謡 キンポーパンチ [東南アジア]

Khin Poe Panchi  MINGALAR AH HKWAR TAW.jpg

待ってました! ミャンマーで8月に発売されたキンポーパンチの新作。
7月19日、彼女のフェイスブックに新作のジャケ写が公開されて以来、
首を長くして待ってたんですけれど、やっと手元に届きましたぁ。

デビュー作では、ツインテールのまだあどけない15歳の少女だったキンポーパンチ。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2016-08-16
4年を経てすっかり成長し、豪華絢爛なゴールドのドレスに身を包み、
大人ぽくなった姿を見せてくれます。
といってもまだハタチ前、19歳のティーンですからね、
歌声ははち切れる若々しさに溢れています。

オープニングとラストの2曲は、フォーク・ロック調のサウンドで、
ベース、ドラムスのリズム・セクションが付くポップ曲。
いかにもミャンマーらしい、毒のない穏やかなメロディで、
微分音の音階使いがミャンマー・ポップスならではですね。

そして、この2曲にサンドイッチされた7曲は、すべてミャンマータンズィン。
ピアノ(サンダヤー)とフネー(ダブルリードの笛)に、
チャウロンパッ(大太鼓と横一列に並ぶ異なるサイズの太鼓のセット)と思われる打楽器が
くんづほぐれつしながら、華やかなサウンドを生み出し、
そのバックでシンセサイザーが分厚いハーモニーを付け加えていきます。

今回はサイン・ワインは使っていないようですけれど、
黄金色に輝くサウンド・プロダクションは、ミャンマー伝統歌謡の王道といえるもの。
この本格的なサウンドをバックに、みずみずしくも清廉な歌声をきかせる
キンポー嬢の歌いぶりも鮮やかです。

デビュー作から成長著しい歌声を披露した快作となっているんですけれど、
彼女のフェイスブックには、新作を出した後も、
特にプロモーションをしている様子がうかがえません。
これって、メーテッタースウェのフェイスブックも同じなんですけれど、
SNSをプロモーションにぜんぜん使わないんですね。

フェイスブックのタイムラインを見ていても、新作関連の記事というと、
先に書いた発売前のジャケットが公開されたのと、
8月12日に出荷前のダンボールに詰まったCDの写真が載せられただけ。
CD発表の記者会見だとか、お披露目パーティみたいな芸能人ぽい記事はいっさいなく、
「CD絶賛発売中! みんな買ってね!」みたいなガツガツした宣伝も皆無。
4年ぶりの新作リリースというのに、拍子抜けするほど盛り上がらず、
タイムラインには淡々とした日常が綴られています。
これが日本の19歳だったら、どんだけ騒がしくなるかと思うんだけれども。

キンポーパンチもメーテッタースウェも、そんな自分の新作プロモーションより、
僧侶に寄進をしたり、僧院の行事へ参加したりという、
仏教徒らしく功徳を積む姿が盛んに投稿されています。
ミャンマータンズィンを歌う伝統歌謡の歌手たちの活動は、
コンサートよりもチャリティが中心のようで、
あらためて敬虔な仏教徒であることを印象付けられます。

Khin Poe Panchi "MINGALAR AKHAR DAW" Man Thiri no number (2019)
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清澄なミャンマー古典歌謡の詩情 イーイータン [東南アジア]

Yi Yi Thant  MYANMAR SEINT YINN MYANMAR SHU KHIN.jpg

イーイータンのソロ・アルバム! うわぁ、これは珍しいですねえ。
イーイータンといえば、マーマーエーと肩を並べるミャンマー古典歌謡の大御所。
その名声の高さは十分承知しているものの、
どういうわけだか、これまでソロ・アルバムにお目にかかったことがありませんでした。

イーイータンは、20世紀最高のサウン(竪琴)の名手とされた
インレー・ミン・マウンに可愛がられ、専属の歌手にもなっていた人。
インレー・ミン・マウンの多くのカセット作品に、フィーチャリングされてきました。
国外でもっともよく知られている作品が、インレー・ミン・マウンの死後に
スミソニアン・フォークウェイズが出した、96年録音の
“MAHAGITÁ: HARP AND VOCAL MUSIC OF BURMA” でしょう。

Mahagita.jpg

イーイータンが古典歌謡の歌い手としてファースト・コールだったことは、
海外でミャンマー音楽を紹介するコンピレに、
必ずといっていいほど登場していることでも証明できます。
97年にシャナチーが出した“WHITE ELEPHANTS AND GOLDEN DUCKS”、
11年にサブライム・フリークエンシーズが出した“PRINCESS NICOTINE” にも
顔を出していましたよ。

そんなイーイータンの初めて見るソロ・アルバム、
たった5曲、28分足らずのミニ・アルバムなんですが、いつ出たものなんでしょう。
ピアニストで作曲家のサンダヤー・ラトゥ Sandayar Hla Htut (1936-2000)が
ピアノを弾いているので、90年代録音でしょうか。
00年以降のアルバムでないことだけは確かですね。
5曲中4曲がラトゥの作品で、伴奏はラトゥのピアノのほか、
タヨー(ヴァイオリンに似たミャンマーの古楽器)、太鼓などによる
室内楽風の小編成で聞かせます。

古典歌謡といっても、ロマンティックな恋愛詩を歌ったものなんじゃないかと想像する、
和らいだメロディの佳曲を、イーイータンが清澄な歌声で聞かせます。
1曲目のタイトル曲「ミャンマーのこころ ミャンマーの風景」は、
サンダヤー・ラトゥの代表曲としてよく知られる曲だそうで、
ゆったりとした空気感に、場を清めるような清涼感は、インドにも中国にもない
ミャンマーの詩情を感じずにはおれません。
余計な緊張感を聴き手に強いない、ミャンマー古典の良さをおぼえます。

Yi Yi Thant "MYANMAR SEINT YINN MYANMAR SHU KHIN" M United Entertainment no number
Inle Myint Maung and Yi Yi Thant "MAHAGITÁ: HARP AND VOCAL MUSIC OF BURMA" Smithsonian Folkways Recordings SFWCD40492 (2003)
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知られざるリベリアのアフロ・ジャズ・ファンク・バンド カピンジー [西アフリカ]

Kapingbdi.jpg

リベリアのポピュラー音楽というと、アメリカナイズされた音楽ばかりで、
これはという、ミュージシャンやバンドと出会ったためしがなかったんですけれど、
こんなに実力のあるバンドがいたとは、意外です。

ヨーロピアン・ジャズの復刻専門レーベル、ソノラマがコンパイルした
Kapingbdi というこのバンド、どう発音するのかさっぱりわからず、
レーベルを主宰するエックハルト・フラッシュハマーさんに問い合わせたところ、
カピンジーと読むとのこと。
カピンジーとは、シエラ・レオネのメンデ語で「夜に生まれた」という意味の語で、
リーダーのサックス奏者コジョ・サミュエルが、
フリータウンの高校時代の教師に付けられたあだ名だそうです。
それをバンド名にしたというわけで、本作のタイトルはバンド名の英訳になっています。

バンド・リーダーのコジョ・サミュエルは、
43年にシエラ・レオネ人の父とナイジェリア人の母のもとレゴスに生まれ、
50年代に家族でリベリアへ移住したという人で、
学生時代はドラムスとパーカッションをプレイしていたそうです。
65年から72年、美術の勉強のためにドイツへ渡航した後、
美術の教師としてアメリカで仕事をしていたという経歴がユニークですね。

サックスをいつどこで習ったのか、解説には書かれていませんでしたが、
ジャズをしっかりと学んでいるのは確かで、
60~70年代のアフリカ回帰を志向した
ブラック・ジャズの影響色濃いサウンドが聴きものです。
当時暮らしていたアメリカで感化されたんでしょうね。
当時美術の教師をしていたというのは、アフリカン・アートを教えていたのかな。
そこらへんにも興味をそそられますね。

カピンジーは、ドイツのトリコントから78・80・81年に3枚のアルバムを出していて、
本編集盤は78年のデビュー作の2曲、80年作と81年作の各4曲の、
計10曲を収録しています。
冒頭の‘Don't Escape’ でコジョが繰り広げるサックス・ソロは、
スピリチュアル・ジャズ・ファンを刮目させること必至だし、
‘Take The Guitar Out’ のリフなんて、オーネット・コールマンみたいじゃないですか。
コジョのサックスを煽りまくる、手数の多いドラミングも派手で、
ソウル/ファンク色の強いバンド・サウンドは実にパワフルです。

コジョは、象牙のホーンを使って伝統音楽の要素を取り入れるなど、
アフリカ音楽のアイデンティティを強く意識したサウンドづくりに力を注いだようです。
アメリカナイズされたディスコ音楽が多勢のリベリアの音楽シーンにおいて、
カピンジーのサウンドは新鮮で、大きな支持を得ることになりました。
アパルトヘイト下の南ア黒人に向けて歌われた‘Human Rights’ や、
非能率な役人や行政官をなじった’You Go Go You Go Come’ などの
ポリティカルなテーマも、大きな共感を集めたようです。

カピンジーが活動していたさなかの80年、
リベリア先住民族出身のサミュエル・ドウ曹長がクーデターを起こし、
アメリコ・ライベリアン(解放奴隷の子孫)出身の大統領を暗殺する事件が勃発しました。
このクーデターにより、リベリアで長きにわたったアメリコ・ライベリアンの支配が終わり、
それまで安定していた政情は不安定化して、治安も悪化していきます。
夜間外出禁止令違反として虐殺された市民を憂いたラメントの‘Wrong Curfew Walk’ は、
政府を刺激し、経営していたクラブの閉鎖を迫られるなどの弾圧を受けるようになります。
政情不安のなか、バンド活動を維持するための経済的苦境も重なり、
アメリカ・ツアーを終えて帰国した84年、カピンジーは解散します。

76歳となった現在もコジョは現役で演奏をしているそうですが、
知られざるリベリアのアフロ・ジャズ・ファンク・バンドを発掘した本作、
グッジョブですね。

Kapingbdi "BORN IN THE NIGHT" Sonorama C110
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30年以上眠っていたジャズ・ヴォーカル傑作 リサ・リッチ [北アメリカ]

Lisa Rich  HIGHWIRE.jpg

う~ん、ひさしぶりに本格的なジャズ・ヴォーカルを聴いたという、
そんな充足感に浸れる得難い一枚ですね。

最近は、「ジャズ」のカテゴラリーがあまりにも拡張・拡散しすぎてしまって、
ジャズ・ヴォーカリストといっても、そこからイメージされる歌手は、
ひと昔前とはだいぶ違ったものとなってしまいました。
でも、リサ・リッチは、シーラ・ジョーダンの系譜をうかがわせる
正統派のジャズ・ヴォーカリストと言っていいんじゃないかな。
「正統派」なんて言い方、あんまり好きではないけど。

チック・コリアの曲を中心に、ラルフ・タウナー、オーネット・コールマン、
デューク・エリントンの曲をピアノ・トリオのバックで歌っているんですけれど、
ピッチの正確さ、完璧なヴォイス・コントロールと、高度な技巧を駆使しながら、
その技巧が表に出ず、情感たっぷりに歌っているところに、感じ入ってしまいます。
これだけの難曲を相手に、よくここまで歌いこなせますねえ。

実は今回初めて、リサ・リッチという人を知ったんですが、
83年のデビュー作でボブ・ドロウ、チック・コリア、スティーヴ・キューン、
クレア・フィッシャーなどの作品を歌っていたというのだから、
とんでもない実力派歌手だったんですね。

本作は、87年に録音されたままお蔵入りになっていたアルバムとのこと。
その後リサは、健康上の理由で歌えなくなるという不幸にみまわれ、
本作も未発表となっていたようですが、これほどの素晴らしい作品が眠ったままとならず、
ちゃんと世に出たことは本当に良かったですね。

こういうレパートリーを並みの歌手が歌ったら、肩に力の入りすぎた、
テクニック過多のジャズ・ヴォーカルになるところでしょうけれど、
リサ・リッチは、しっとりとした味わいを醸し出しているのだから、まいってしまいます。

ようやく夏の暑さから解放され、乾いた風が肌に心地良くなると、
ゆったりと身を委ねられる大人の女性の声が欲しくなる季節。
そんな頃に出会えた、格好の傑作ジャズ・ヴォーカル作品であります。

Lisa Rich "HIGHWIRE" Tritone 002 (2019)
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モノマネなんかいらない クティマンゴーズ [北ヨーロッパ]

KutiMangoes  AFROTROPISM.jpg

デンマークのアフロ・ジャズ・バンド、クティマンゴーズの3作目となる新作です。
ブルキナ・ファソ人歌手をフロントに立てた過去2作も良かったけれど、
白人メンバー6人のみで、アフリカ音楽のリズム探究を深めた本作、
会心の出来じゃないですか。

ぼくがクティマンゴーズを買っているのは、アフリカ音楽のモノマネに終わっていないから。
逆に、ぼくがあまたあるアフロビートそっくりさんバンドを評価しないのは、
完コピーしただけの音楽なんて、何の価値もないと考えているからです。
ビートルズ・バンドと同じようなもので、アマチュアの愉しみとしてならわかるけど、
それをレコードにして金をとるってのは、プロの音楽家として、どうなのよと。

こういうと、モノマネ芸を否定するのかとか言われるんですけれど、
そもそも「モノマネ芸」になってないじゃないですか。
「芸」になってない、ただのモノマネだから批判してるんです。

それを強く感じたのが、
アンティバラスの“WHO IS THIS AMERICA?” が評判になった時です。
えぇ~、みんなあれを絶賛しちゃうんだと、かなり呆れていたんですけれども、
そんなのはぼくだけなのか、その後もアコヤ・アフロビート・アンサンブルや
マイケル・ヴィール&アクア・イフェなど、
雨後のタケノコが続くのに、ウンザリしてました。
贋作は時に本物を超えるともいいますけれど、だから何?
憧れや影響を血肉化して、自分たちの音楽を作る人にしか、ぼくは興味をもてません。

このクティマンゴーズは、西アフリカ音楽に大きな影響を受け、
アフリカのリズム構造を理解してさまざまな民族のメロディを取り入れる一方、
3管バンドの管楽器の鳴りには、北欧ジャズのハーモニーの特徴が浮き彫りとなっていて、
アフリカとヨーロッパそれぞれの良さが十二分に活かされたバンドなんですね。
彼らがアフリカのクロス・リズムを学んだのは、
バラフォンの左手と右手が生み出すポリリズムからだそうで、
そのアプローチは、スウェーデン人ジャズ・ドラマーのベンクト・バーリエルが
クリエイトしたアフロ・ジャズと共通するものがあります。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2018-01-14

そんなポリリズムが生かされたオープニングの‘Stretch Towards The Sun’、
グナーワのカルカベのリズムをカクシ味にした‘A Snake is just a String’、
南アのホーン・アンサンブルのソリを思わせる‘Call of the Bulbul Bird’、
ギターがカマレ・ンゴニのようなフレーズを奏で、
ペンタトニックのメロディがまるでバンバラ民謡みたいな‘Thorns to Fruit’ などなど、
アフリカ音楽を研鑽してきた跡が、そこらじゅうに点在しています。
‘Money is the Curse’ でのアフロビート解釈なんて、
モノマネ・バンドの足元にも及ばないサウンド構造の解体と再構築の深さがあります。

そんなアフリカ音楽愛にもとづいた深い知識と、
バリトン・サックスとトロンボーンの厚みのある合奏などにみられる肉感的な演奏が
あいまって作り出されるサウンド、大いに支持したいですね。

KutiMangoes "AFROTROPISM" Tramp TRCD9083 (2019)
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20代のエスマ・レジェポーヴァ [東ヨーロッパ]

Esma Redžepova ZAŠTO SI ME MAJKO RODILA_ROMANO HORO.jpg

エスマといえば、ジプシー歌謡の女王としてバルカンはおろか、
全世界にその名をとどろかせた大御所。01年には来日もしましたね。
2000年代以降の世界的な活躍によって、ぼくもエスマを知ったクチですけれど、
若い頃の録音というのは、そういえば聴いたことがありませんでした。

本作は、エスマがまだ20代前半という、60年代のシングル盤を編集した2枚組です。
おそらくエスマにとって、もっとも初期の録音と思われますけれど、
後年の豪快なコブシ回しで圧倒させる歌声とは、まるで別人。
チャーミングな歌いぶりにはびっくりです。
うわー、若い時のエスマって、こんな感じだったんですね。

シナを作ったり、泣き声で歌ってみせたりと、
多彩な心象を歌の中に投じて歌うところは、まさしく演歌歌手そのもの。
な~るほど、こうして聴いてみると、ジプシー歌謡って、
美空ひばりや都はるみのような昭和の演歌歌謡と、
ものすごく近いものなんだなということが実感できます。

クラリネット、トランペットの管楽器にアコーディオンが絡みつき、
ダルブッカがパーカッシヴなビートを送るジプシー・サウンドは、
スローの泣き節から、アップ・テンポのダンス・ビートまで自由自在。
雑食性の強い歌謡性と匂い立つような大衆性が魅力の音楽ですね。

それにしても、11歳で地元スコピエの民俗芸能集団の歌手になったというのも、
なるほどとうなずけるバツグンのリズム感が、この初期録音からもよくわかりますね。
ミュート・トランペットが粋な、チャチャチャの‘Makedo’ のチャーミングな表情なんて、
サイコーじゃないですか。あの有名な「ハヴァ・ナギラ」もディスク2に収録されています。
ジャケット写真は、65年に旧ユーゴスラヴィア時代に出たLPから取られたもので、
若い時の目ヂカラのある美人ぶりに、思わず見入ってしまいました。

Esma Redžepova "ZAŠTO SI ME MAJKO RODILA / ROMANO HORO" Jugoton CD0222/2556
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アルバニアのポップ・フォーク ポニー [東ヨーロッパ]

Poni  Identitet.jpg

アルバニアのポップ・フォークというのは、初体験ですね。
当地で人気女性歌手だという、ポニーの最新作です。

ブルガリアのチャルガや、セルビアのターボ・フォークに似たサウンドを基調としながら、
バルカンばかりでなく、トルコやギリシャのポップスからの影響もうかがわせる
多様な音楽性を聴きとることができます。
これがアルバニアのポップスの特徴なのでしょうか。
こんな魅力的なポップスを生み出しているとは、知りませんでしたねえ。

ハネるダンス・ビートは、曲ごとさまざまなシンコペーションによる
ヴァリエーションがあって、飽きさせません。
各曲ともバルカンらしいクラリネットが大活躍していて、
ひらひらとしたリフが宙を舞うと、思わずステップを踏んで踊り出したくなります。

アコーディオンやヴァイオリン、ブズーキを効果的に使って、
フォークロアな音感を散りばめながら、打ち込みによるダンス・ビートと融合させる
プロダクションの洗練具合は、ブルガリアやセルビアを凌いでるんじゃないですかね。

こうした音楽は、どうやらアルバニア南部の民謡をベースとしているらしく、
本作のハイライトは、2つのヴァージョンで聞ける結婚祝いの歌‘Kolazh’ です。
アルバニア南部ペルメト出身のヴェテラン民謡歌手ヴァスケ・ツーリと
デュエットしたヴァージョンと、男性デュオのイリ&バジャルミをフィーチャーした
ヴァージョンが聞けるんですけれど、途中で何度もリズムをスイッチしながら、
人々をダンスの渦に巻き込んでいく祝祭感がたまりません。

ポニーもアルバニア南部の港湾都市ヴロラ出身で、
気風の良さに加え、スローで聞かせる艶っぽさもあって、魅力的なシンガーです。

Poni "IDENTITET" Ekskluzive Supersonic no number (2019)
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即興が繋ぐ原始と現代 ネルソン・ダ・ラベッカ [ブラジル]

Nelson Da Rabeca  PROS AMIGOS.jpg   Nelson Da Rabeca, Thomas Rohrer  TRADIÇÃO IMPROVISADA.jpg

ノルデスチのギラギラとした太陽を思わせる、野性的なヴァイオリンの響き。
ブラジル北東部、セルトーンの乾燥地帯の灼けつく大地を思わす
ラベッカの荒ぶった音色は、壊滅的な旱魃を引き起こす
厳しい風土によって、鍛えられたのでしょうか。

そう思わずにはおれない、「ぎこぎこフィドル」のラベッカ。
ストラディヴァリウスがどうのこうの言う、
クラシックのヴァイオリニストを即死させることウケアイの、
原始的な響きを奏でます。

サトウキビ畑で働く無学の農夫だったネルソン・ドス・サントスが、
はじめてヴァイオリンを知ったのは54歳の時。
テレビで偶然にヴァイオリンを見て一目惚れし、
その時からラベッカを自作するようになり、
見ようみまねでこの楽器をマスターしたといいます。

そのネルソン・ダ・ラベッカが出した04年のソロ作は、
ひなびたラベッカのプレイとともに、
ネルソンの奥方ベネジータの歌いっぷりが強烈でした。
田舎の婆さん丸出しのあけっぴろげなその歌いぶりは、粗野な生命力に溢れ、
にがりの利いた声は天然のミネラルがイッパイで、心が震えましたよ。

昨年ネルソン・ダ・ラベッカがアルバムを出していたことに気付いて買ってみたら、
これがスゴい内容で、びっくり。
『即興する伝統』と題したこのアルバム、スイス人ミュージシャン、トーマス・ローラーと
コラボした作品で、2人がフリー・インプロヴィセーションを繰り広げているんです。

トーマス・ローラーは、ラベッカのほかにソプラノ・サックスも吹き、
ラベッカとトランペットを演奏するもう一人に、パーカッション奏者を加え、
フォーマットこそオーセンテイックな伝統音楽のスタイルながら、
まるでフリー・ジャズのように聞こえる即興演奏があったりして、これはシビれます。

トーマス・ローラーは95年からブラジルに住み、
伝統音楽グループのメンバーの一員となるほか、
即興演奏のアンサンブルで活動している音楽家。
ネルソン・ダ・ラベッカとのコラボは、
3年越しの活動のうえレコーディングに臨んだもので、
時間をかけて練り上げたプロジェクトだったんですね。

歌ものでは、奥さんのベネジートが相変わらず野趣に富んだ味わいを醸し出していて、
04年作以上に土臭さをまき散らしてくれます。たまりませんね、こりゃ。
ラベッカをアンプリファイドした曲もあって、
そのノイジーなサウンドに、ジョン・ゾーンでも聴いてるような錯覚を覚えますよ。

Nelson Da Rabeca "PROS AMIGOS" Sonhos & Sons SSCD066 (2004)
Nelson Da Rabeca, Thomas Rohrer "TRADIÇÃO IMPROVISADA" SESC CDSS0105/18 (2018)
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