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マイ・ベスト・アルバム 2019 [マイ・ベスト・アルバム]

CRCK LCKS  TEMPORARY.jpg   長谷川白紙  エアにに.jpg
Ei Ei Chong & Ei Ei Mon  YINTHAEKA GANOWIN THAYMYAR.jpg   Lệ Quyên  TÌNH KHÔN NGUÔI  VOL.6.jpg
Vivi Voutsela KARDIOKLEFTRA.jpg   Angham  Hala Khasa Gedan.jpg
Rachid Taha  JE SUIS AFRICAIN.jpg   Dede Saint Prix  Mi Bagay La.jpg
Mlindo The Vocalist  EMAKHAYA.jpg   Kombilesa Mi  ESA PALENKERA.jpg

CRCK/LCKS 「TEMPORARY」 アポロサウンズ APLS1912 (2019)
長谷川白紙 「エアにに」 ミュージック・マイン MMCD20032 (2019)
Ei Ei Chon & Ei Ei Mon "YINTHAEKA GANOWIN THAYMYAR" Man Thiri no number (2019)
Lệ Quyên "TÌNH KHÔN NGUÔI VOL.6" Viettan Studio no number (2019)
Vivi Voutsela "KARDIOKLEFTRA" General Music GM2392 (2019)
Angham "HALA KHASA GEDEN" Rotana CDROT2028 (2019)
Rachid Taha "JE SUIS AFRICAIN" Naïve M7062 (2019)
Dédé Saint-Prix "MI BAGAY LA" Anbalari Edisyon 16007-2 (2018)
Mlindo The Vocalist "EMAKHAYA" Sony Music CDSAR019 (2018)
Kombilesa Mi "ESA PALENKERA" Kombilesa Mi no number (2019)

年の初めには、夏までには片付くと思っていた二つの案件が、どちらも年越し。
これほどの大事になるとは、始める前には想像だにせず面喰っておりますが、
いずれにせよ2020年には、決着をつけなければ。
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円熟の頂点に立つワールド・ジャズ・ギタリスト グエン・レ [西・中央ヨーロッパ]

Nguyên Lê Quartet Streams.jpg

今年もまたトゥン・ズオンとグエン・レのアルバムを聴く季節がやってきました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2015-04-12

個人的な冬の定盤は、いろいろありますけれど、
これは比較的最近になって仲間入りしたアルバム。
トゥン・ズォンのミュージカル調の歌い上げるヴォーカルに
最初は抵抗もあったんですけれど、今ではすっかり慣れて、
そのドラマティックなヴォーカル表現を楽しめるようになりました。

このアルバムを聴いたのは、アルバム名義にギタリストのグエン・レの名があったからで、
トゥン・ズオンはこのアルバムで初めて知りました。
グエン・レと共同名義になっているとおり、このアルバムの聴きどころは、
グエン・レがクリエイトしたハイブリットなサウンド・プロダクションで、
もちろんグエン・レのギターも、冴えたソロを随所で聞かせています。

これを聴き返していて、そういえばグエン・レの新作を聴き逃していたのを思い出し、
今年2月に出た“STREAMS” をジャズCDショップで買ってきました。
レーベルは、いつものドイツのACT。92年にACTが設立されて、
最初に独占契約を結んだアーティストが、グエン・レだったんですよ。知ってました?

本作は、クラシック畑の打楽器奏者としても活躍する
ヴィブラフォン奏者のイリヤ・アマールに、カナダ人ベーシストのクリス・ジェニングス、
アメリカ人ドラマーのジョン・ハッドフィールドとのカルテット。
9曲中7曲がグエン・レのオリジナルなんですけど、曲がすごくいいですね。
複雑な構成の曲が多いんですけれど、
メロディがちゃんとあって、アブストラクトにならない。
グエン・レのルーツであるヴェトナムらしい感性が、メロディに生かされています。

コンテンポラリー・ジャズのフォーマットを取っていますけれど、
イリヤ・アマールがヴェトナムの竹琴トルンを弾いている曲もあって、
ワールド・ジャズ的な響きを伴っているところは、グエン・レの作品らしいですね。
そしてなんといってもグエン・レの最大の魅力は、
きちっと構築された緻密なソロをとるところ。
探し弾き的なリックは、この人から絶対出てきませんね。そこがいいんだなあ。

かつてジミ・エンドリックスのトリビュート・アルバムを出したこともあるように、
ギンギンのロック・ギター・サウンドと、テクニカル・フュージョン的なフレーズを繰り出す
グエン・レの個性が円熟味を増したことを実感させる、充実の新作です。

Nguyên Lê Quartet "STREAMS" ACT 9876-2 (2019)
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世界に嵐を呼ぶドラマー 石若駿 [日本]

Answer To Remember.jpg

長谷川白紙を試聴して、不覚にも店頭でフリーズしてしまったワタクシでしたが、
その日のお目当ては、石若駿の新プロジェクトの新作だったのです。
こちらはすでに先行シングルのMVを観ていたので、
石若駿が存分に叩きまくっていることは、承知のうえ。
発売日をめっちゃ楽しみにしていたのでした。

これまで石若がさまざまな名義で制作してきたリーダー作は、
歌ものや作曲家としての作品ばかりで、もどかしく感じていたファンも多かったはず。
いまさら言うまでもないことですけれど、日本のジャズという枠をとっくに飛び越えて、
ワールド・クラスのドラマーに成長した石若駿ですからねえ。
新たに立ち上げた Answer to Remember というプロジェクトの新作、
思う存分ドラムスを叩きまくる石若が堪能できる、もってこいのアルバムに仕上がりました。

すでに先行シングルで聴いていた KID FRESINO をフィーチャーした‘Run’からしてスゴイ。
7拍子で始まる実験的なトラックは、トラップのようでもあり、
生ドラムスでこんなことができてしまうんだという驚きに満ち満ちています。
途中から4拍子に変わったかと思えば、また7拍子に戻って、
5拍子に着地するという複雑な展開は、まさにめくるめくといった構成で、
このトラックでなんなくラップしてみせる KID FRESINO も圧巻です。

高いところでハイハットを細かく鳴らしているサウンドが、すごく刺激的ですねえ。
前の長谷川白紙の『エアにに』で叩いていたトラックでも、
ハイハットをよれたリズムでキックと同期させずに叩くという、
人間技と思えぬドラミングを披露していましたっけ。

このアルバムでは、過剰なくらい音を足してサウンドを組み立てていても、
ドラムスが前景化せず、歌やメロディを表に出しているところがキモでしょうね。
ドラムスはバックでぶわーっと大きく鳴っているという構図が、
どのトラックでも徹底されています。

歌もラップもドラムもガツンといくところで、
ちゃんとイってる感がスゴくって、めちゃくちゃ爽快です。
超絶テクニックをガンガン押し出した生々しいサウンドがフルに鳴っていて、
ドラマーのリーダー作としては理想的なサウンドといえます。
いやぁ、去年のクリス・デイヴの初リーダー作が霞んじまったなあ。

世界に嵐を呼ぶドラマー、ここにありですね。

Answer to Remember 「ANSWER TO REMEMBER」 ソニー SICL287 (2019)
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エクスペリメンタル・ポップの奇才 長谷川白紙 [日本]

長谷川白紙  エアにに.jpg

とてつもない才能が現れましたよ!
「長谷川白紙」という人を食ったステージ・ネームは、
「長谷川博士」の変換まつがいなんすかね?
冗談はともかく、これが20歳の作品というんだから、もう、頼もしすぎる。
日本のポップス・シーンにパラダイム・シフト起こす、
異能のシンガー・ソングライターの登場です。
待ってましたよ、こういう有無を言わせぬ圧倒的な才能が出てくるのを。

1曲目の、ビッグ・バンドのホーン・セクションがフリーキーに炸裂するイントロから、
はや白旗を上げてしまいました。
一聴、エクスペリメンタルでアヴァンなセンスに、
とてつもないヒラメキを持っていることは、すぐ気付けますけれど、
何度も聴き込んでいくうちに、楽曲やビートがとてつもない高精度で
作り込まれているのがわかり、もう驚愕するほかありません。

変則的なコード進行、いびつなハーモニー、不協和な音使い、
ジェット・コースターのような曲構成、それらの要素をDAWにぶち込みながら、
難解になりすぎる手前でそっとポップなフックを置くという、
ポップスとしてギリギリ成立させる手腕に舌を巻きます。
ドリルンベースのカオティックなビートが、かくも肉感的に響くのにも、衝撃を受けました。
電子音楽に関心のない当方を、これだけ惹きつけてやまないのは、規格外の証しでしょう。

石若駿(ドラムス)や川崎太一朗(トランペット)を起用したトラックがあるとおり、
電子音楽ばかりでなく、現代ジャズと呼応した音楽性の持ち主でもあるんですね。
ボリリズムやメトリック・モジュレーションを駆使する技術力の高さは、
この人、ぜったいアカデミックな教育を受けているだろと思ったら、
なんと現役音大生なんですと。
だよねぇ。天才的なセンスだけでは到底獲得できない、
確かな技術力に裏打ちされているんですね。

現代音楽、ジャズ、テクノを自在に横断して、
これほどしなやかで、軽やかなサウンドスケープを構築してみせる恐るべき才能。
従来の日本のポップスの水準を無効にしてしまう破壊力が、彼の音楽にはあります。
でも、その破壊力が、ぼくには痛快でなりません。
日本の将来について、やたらと悲観的なことばかり言う御仁が多いのに、
日頃うんざりしてるんですけど、長谷川白紙に出会って、
日本の未来は明るいと、ぼくは確信しましたね。

折坂悠太や中村佳穂が出てきた1年前あたりから、
日本のポップス・シーンに革命が起きているじゃないですか。
こんなスゴイ若者たちを目撃しても、将来が暗いなんて世を憂えてる老人は、
さっさとくたばっちまえばいいんですよ。

長谷川白紙 「エアにに」 ミュージック・マイン MMCD20032 (2019)
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ロックでたどるマロヤの古層 トランス・カバール [インド洋]

Trans Kabar  MALIGASÉ.jpg

マロヤ・ロック!
う~ん、ありそうで、なぜかこれまでなかったコンセプトのグループですね。
アシッド・フォークやエレクトロでマロヤをモダン化した、
アラン・ペテロスやジスカカンといった先人はいましたけれど、
ここまでマロヤをストレイトにロック化したグループは、初めてじゃないかなあ。

トランス・カバールは、
ギター、ベース(コントラバス)、ドラムス、カヤンブによる4人組。
マロヤのリズムを強調した音楽性は、パーカッション・ミュージックとしてのマロヤの
アイデンティティを前面に押し出しています。
鍵盤が不在なので、マロヤのメロディに余計なハーモニーが足されることなく、
よりいっそうサウンドがストレイトに響くんですね。

グループのリーダーは、ダニエル・ワローの甥っ子のジャン=ディディエ・オアロー。
ジャン=ディディエが15年にコバルトから出したソロ・アルバムでは、
もっとエレクトロなマロヤをやっていたのに、
ハーモニーを削ぎ落としてエレクトリックな要素をぐっと落とした本作は、
サウンドの方向性を変えてきましたね。

ジャン=ディディエはパリ郊外サルトルーヴィルの生まれですけれど、
マロヤへの傾倒ぶりはダニエル・ワロー譲りのようで、
マロヤの祖先崇拝の祭儀セルヴィ・カバレにインスパイアされたと語っています。
レパートリーもマロヤの儀式で歌われる古い伝承曲を中心に選曲するなど、
ディープ・ルーツへのこだわりがうかがえます。

面白いのは、ジャン=ディディエはロックにはあまり関心がなかったそうで、
逆にレユニオン生まれのギタリストのステファン・オアローは、
ジミ・ヘンドリックスとレッド・ツェッペリンを聴いて
ギターを弾き始めたロック少年だったとのこと。
ステファンとジャン=ディディエは同じ苗字とはいえ血縁関係はなく、
フランスで出会って、マロヤ・ロックを共同で作り上げたんですね。

マロヤを現代化するためにロックを借りたのではなく、
奴隷時代の宗教的な祭儀で歌われたマロヤへとさかのぼるために、
ロックのエネルギーを借りたところが、トランス・カバールのユニークなところ。
グループ名が意図するとおり、
彼らはマロヤを演奏する場のカバールを超えんとしています。

Trans Kabar "MALIGASÉ" Discobole 88875013552 (2018)
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ウェルカム・バック ソーサーダトン [東南アジア]

Soe Sandar Htun  HNA LONE THAR YAE AKARI.jpg

ミャンマーの伝統ポップスが花盛り。
メーテッタースウェ、キンポーパンチ、トーンナンディといった
十代の女性歌手たちが活躍して、溢れんばかりの若い才能をはじけさせているのは、
シーンに活気があるなによりの証拠ですね。
その一方、気になっていたのが、ソーサーダトンの近況が伝わらなくなってしまったこと。
00年代から10年代にかけて、ミャンマーの伝統ポップは、
この人の独り舞台だったといっても過言ではない活躍ぶりだったのに、
新作リリースがぱったり途絶えてしまって、
いったいどうしているんだろうと心配していました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2010-03-27
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2013-02-17

ちょうど「ミュージック・マガジン」でミャンマー音楽の特集が企画されて、
アルバム・ガイドに載せるアルバムを選んでいる最中だったんですけれど、
そうしたところにソーサーダトンの新作が飛び込んできたのは、嬉しかったなあ。
まさにグッド・タイミングとなったこの新作、何年ぶりでしょうか。
発売元が「ミャンマー伝統曲1000コレクション」シリーズと同じ、
KMA&ディラモーだというのにも、おおっ!となりました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-07-19

イーイーチョン&イーイーモン姉妹のアルバム同様、
美麗なホルダーケース入りのDVD付きなのだから、オドロキです。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2019-10-18
ソーサーダトンのDVDって、これが初めてじゃないですか。
これまではVCDしかなかったですもんね。ミャンマーでは今年に入ってから急に、
このCDとDVDセットでのリリースが目立つようになりましたね。

ソーサーダトンは、新作が途絶える前の10年代前半は、
仏教歌謡などの伝統歌謡のアルバムが続いていましたけれど、
本作はポップと伝統がないまぜとなったミャンマータンズィン。
曲のパートごとにスイッチするかつてのスタイルではなく、伝統サウンドの曲と
ロック・ギターを全面にフィーチャーした曲などを織り交ぜた内容になっています。

こういう歌謡ロック的なサウンドと伝統的なメロディを組み合わせるのは、
ポーイーサンが得意としていましたけれど、
プロダクション面の折衷のスキルもあがり、サウンドはかなりこなれましたね。
DVDのヴィデオを観ると、王朝時代の時代劇から現代の恋愛ドラマまで、
曲ごとヴァラエティに富んでいて、ライヴ演奏も登場します。

ヴィデオを観て、あれれと思ったのは、昔のようにポッチャリなお姿に戻っていたこと。
10年代前半にはダイエットの成果か、かなりスリムとなったのに、
だいぶリバウンドしてしまいましたね。

Soe Sandar Htun "HNA LONE THAR YAE AKARI" KMA & Diramore no number (2019)
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職人芸のバランソ パプジーニョ [ブラジル]

Pap's Modern Sound.jpg

DJユースのレア・グルーヴとして、その筋には有名なアルバム。
DJ方面のディスク・ガイドではよく目にするかわり、
ブラジル音楽ファンの間では、あまり知られていないレコードじゃないですかね。
かくいうぼくも、今回のCD化で初めて聞いたんであります。

誰のアルバムかと言うと、コンジュント・ソン4を率いたほか、
ルイス・ロイ・キンテートで活躍したトランペット奏者、パプジーニョの70年作です。
コンジュント・ソン4は、若きエルメート・パスコアールが在籍していたグループ。
パプジーニョはペルナンブーコ出身なので、同じ北東部出身で
サン・パウロに出てきたエルメートをリクルートしたんでしょうか。

60年代ジャズ・サンバのシーンで売れっ子だったパプジーニョが残した本作は、
60年代末当時の近未来的デザインのインテリアと、
ミニワンピの女性とブーツにギターをあしらったジャケット・デザインが秀逸。
こじゃれた渋谷系カフェなんかに、これみよがしに飾ってありそうなジャケットですねえ。

パブジーニョといえば、当時ブラジルを訪れていた渡辺貞夫作の‘Cupid's Song’ を
収録していることで話題となった69年作の“Especial!” の方が、
ブラジル音楽ファンには馴染みがあると思いますけれど、
あのアルバムも女性コーラスが加わったポップなジャズ・サンバ・アルバムでしたね。

女性コーラス付きでも、演奏の方はかなりジャズ的だった69年作に比べ、
本作はアレンジが緻密で、ラフなアドリブは影を潜めて、
かっちりとした演奏を聞かせています。
あちらがジャズ・サンバなら、こちらはバランソといった趣ですね。
ジョンゴ・トリオのシドがオルガンを務めていて、アドリブのパートを少なくした、
完成度の高いアレンジに、職人技をみる思いがします。

レパートリーは、ジョルジ・ベンの‘Vou Me Pirulitar’ ‘Pais Tropical’
‘Que Maravilha’、オス・ノーヴォス・バイアーノスの‘De Vera’ といった
当時のブラジルの最新ヒット曲に加え、ザ・フィフス・ディメンションの‘Aquarius’、
ザ・フォーチューンズの‘You've Got Your Troubles’、
ジョルジオ・モロダーの‘Looky Looky’ など海外のヒット曲もレパートリーに加え、
サン・パウロの裏方ミュージシャンの高い実力を示したアルバムですね。

Papudinho "PAP’S MODERN SOUND" RGE/Discobertas DBSL189 (1970)
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夢見るサンバ女主人 イヴォーニ・ララ [ブラジル]

Ivone Lara.jpg

うわぁ、このCD化は嬉しいなあ。
女主人<ドナ>の名で知られるイヴォーニ・ララが85年に出したソン・リブリ盤。
ドナ・イヴォーニ・ララの数多い作品のなかで、
ぼくにとっては一番愛着のあるアルバムです。

87年にRGEからジャケットを変えた再発LPが出て、
翌88年に日本でCD化されたんですけれど、
オリジナル・ジャケットでのCD化はこれが初。
やっぱこの<夢見るおばちゃん>ジャケじゃなくっちゃあ。
最初にレコード店で手にした時、
ドナが松田聖子ぶってる!と吹き出したこと、よく覚えてます。

当時のサンバはパゴージ・ブームで、パーカッションが小編成となり、
メロディも歌いやすいシンプルなものとなっていた時代でした。
イヴォーニ・ララのこのアルバムも当時のトレンドに乗ったものとはいえ、
彼女の作風は変わることなく、むしろシンプルな編成になったことによって、
イヴォーニ・ララのサンバの魅力をぐんと浮き立たせて、成功作となったんですね。
久し振りに聴き返しましたけれど、やっぱり傑作ですね。
80年代サンバの代表作ですよ。

日本でCDが出たのと同じ年の7月に、イヴォーニ・ララは来日しました。
当時婚約中だった奥さんと一緒に観たんですけれど、
この日のライヴはとてもよく覚えています。
というのは、この日がものすごく暑い日で、
ライヴに行く前に、彼女の気分が悪くなってしまい、
近くの喫茶店で寝込んでしまったんでした。

こりゃ、とてもライヴは無理だなと思って、家に送っていこうとしたら、
少し休めば大丈夫だからと、しばらくそのまま待っていたところ、
楽になったから行けるという彼女の言葉に従って、
開演前ぎりぎりに入場したんでした。

会場は渋谷のクラブ・クアトロ。
たしかクアトロがオープンまもない頃で、ひょっとして初めて行った時だったかも。
立見だったので、彼女がまた具合が悪くならないかと、ヒヤヒヤしました。
フンド・ジ・キンタルの面々が先に登場して、何曲か歌って場を温めたあと、
ようやくドナ・イヴォーニ・ララが登場。
ドナがすごい巨体で、お付きの人間が介添えしてステージに上がり、
足元もおぼつかない様子なのには驚きました。
ステージ間近で観たせいか、前年のヌスラットよりも大きく見えたもんねえ。

隣の彼女の様子をちらちら横目で見やりつつ、正面のステージに目を向ければ、
ドナの歌もやや不安定で、ライヴ当初はどうなることやらだったのでした。
フンド・ジ・キンタルやダンサーとのかけあいによって、だんだんドナものってきて、
ヨロヨロと立っているのもおぼつかない様子だった最初とは打って変わり、
終盤では、軽やかにステップを踏んで踊り出すまでになったんでした。
ぼくも踊りながらはっと思い、隣の彼女を見れば、ステージに視線を送りながら、
満面の笑みを浮かべながら踊っていて、やれやれとほっとしたのでした。

そんな初めハラハラ、終わりニコニコのライヴでしたけれど、
こんなに太っていたら、命を縮めるだろうなと思ったものです。
ところがその後、イヴォーニ・ララはダイエットに成功して、別人のようにやせ細り、
<ドナ>の愛称がそぐわなくなるほどの体形に変身しましたね。
昨年天寿を全うした時は、御年96歳。
女性サンバ作曲家として、豊かなサンバ人生を送ったといえるんじゃないでしょうか。

Ivone Lara "IVONE LARA" Som Livre/Discobertas DBSL182 (1985)
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サハラウィのポリサリオ・ロック エル・ワリ [西アフリカ]

El Wali  TIRIS.jpg

これは強烈!
いきなり飛び出す女性シンガーの叫ぶような
ハイ・トーン・ヴォーカルにノック・アウトを食らいました。
西サハラのグループ、エル・ワリが、94年にベルギーへツアーした時に
レコーディングした幻のCDの復刻です。

幻というのは、ごく少量しかプレスされず、オリジナルの音源が所在不明だったためで、
海賊カセットがサハラ一帯ばかりでなく、西アフリカに広く出回ってヒットを呼び、
それを聞きつけたサヘル・サウンズが1曲をコンピレに収録したものの、
CD音源を探し出すまで8年がかかったんですね。

西サハラのサハラウィの解放運動、ポリサリオ戦線の活動を通して結成されたグループで、
英訳された曲名を見る限り、ほぼ全曲レヴェル・ソングと思われます。
西サハラ出身でロック色の強い音楽をやるグループでは、
グループ・ドゥーウェイがいますけれど、彼らの音楽性がムーリッシュ・ロックならば、
エル・ワリはムーア音楽だけでなく、トゥアレグや
マグレブのベルベル系の音楽も加わっているのを感じます。
メンバーの名前を見ても、ムーア人でないと思われる名前がありますね。

弦楽器のティディニートに太鼓のトボルほか、
エレクトリック・ギター、シンセサイザー、ベース、ドラムスという編成で、
ティディニートをフィーチャーした曲では、
ムーア音楽に特徴的なモードが聴き取れますけれど、
エレクトリック・ギターのカッティングがバンドのサウンドを牽引する曲では、
サハラウィ・ロックといった趣となります。

軽快な疾走感を生みだすリズム・セクションに、チープなシンセ音もどこか爽やかで、
解放感のある晴れやかさに、抑圧を跳ね返すエネルギーが溢れ出ていますね。
‘The Day Of The Free Nation’ と題された曲での弾けるような歌とコーラスに、
それが象徴されています。

El Wali "TIRIS" Sahel Sounds SS055CD (1994)
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サザン・ソウルのオールド&ニュー ヴィック・アレン、J=ウォン [北アメリカ]

Vick Allen.jpg   J-Wonn.jpg

寒くなってくると、サザン・ソウルのアルバムが恋しくなります。

ウィリー・クレイトン、オマー・カニングハム、サー・チャールズ・ジョーンズなどの
アルバムに手が伸びる季節なんですけれど、
この冬は、ヴィック・アレンとJ=ウォンの2枚でキマリ。
2枚連続聴きで、仕事から帰路のヘヴィ・ロテ盤となっています。

二人ともミシシッピ、ジャクソン出身という、生粋のサザン・ソウル・マン。
ヴィック・アレンは、ゴスペル・グループで12年歌ってきたキャリアを経て
ソロ・シンガーとなった人だから、歌の実力は折り紙付き。
プロデューサー業もこなし、ウィリー・クレイトンやボビー・ラッシュを
手がけたほか、数多くのレコーディングにキーボード奏者として参加するなど、
サザン・ソウル/R&Bシーンでは名のある人です。

以前のアルバムで、タイロン・デイヴィスのカヴァーにグッときたんですけど、
ソロ・アルバムはどうも地味な印象が拭えず、パッとしなかったんですよねえ。
でも7年ぶりとなった本作は、どうです!
キャッチーな曲が並び、ヴィックのコクのある歌い口が、冴えわたってますよ。
オールド・スクールな歌い回しに、
これぞソウルといったエキスが溢れていて、もうたまりません!
ラストのスローなゴスペルに、胸アツにならないソウル・ファンなどいないでしょう。

さて、もう1枚のJ=ウォンは、ヴィック・アレンとデュエットしていて初めて知った人。
まだ30歳になったばかりという若手で、サンプルを聴いて甘い歌い口が気に入り、
新作がちょうど出たばかりというので、ヴィック・アレンと一緒に買ってみたら、
これが美メロ満載のアルバムで、大当たりでした。
90年代R&Bリヴァイヴァルのトレンドにのったサウンドと、
メロウな歌いぶりがバツグンな相性で、
今後のサザン・ソウルは、こういう若手たちが、
シーンを引っ張っていくんでしょうねえ。

キース・スウェットとデュエットしている曲もあるのには、びっくりしましたけれど、
見事なハマリ具合に、この人の個性がしっかり表われていますね。

Vick Allen "UNTOUCHABLE" Soul 1st no number (2019)
J-Wonn "MY TURN" Soul Dynasty no number (2019)
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伝統とポップで齟齬をきたす発声と歌い口 カロリーナ・ゴチェヴァ [東ヨーロッパ]

Karolina Gočeva IZVOR.jpg

やっぱりこのオーケストレーションの魅力には、抗しがたいですね。
北マケドニアの元アイドル・シンガー、カロリーナ・ゴチェヴァのルーツ還り第3作。
だいぶ前にルーツ還り第1作のアルバムを取り上げたこともありましたけれど、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2010-05-06
一聴、曲もプロダクションも極上なんだけど、
女性歌手でぼくがもっとも苦手とする発声と歌い口にウンザリして、
1回聴いただけで放り出してしまいました。

その後何度か聴いてみたものの、何度トライしてもカロリーナの歌い口が、
前にジャネット・エヴラの記事で書いた、全世界的にはびこる
現代の女性シンガーの歌いぶりそのもので、ぼくには耳ざわりでしょうがないんです。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2019-11-23

それほど苦手な声をガマンしても、売却用の棚に放り込まず、
繰り返し聴きたくなるのは、ニコラ・ミチェフスキーの見事なアレンジなのでした。
もちろんスラヴとロマが混淆した北マケドニアらしい歌謡性をたっぷりとたたえた
抒情味溢れる曲の良さもあってこそで、本作の作編曲は完璧と言えるでしょう。
泣かせる曲満載の、胸に迫るメロディにやられます。

カヴァル、タンブーラ、カーヌーンなどの民俗楽器を効果的に配し、
クラリネットやアコーディオンでバルカンのサウンドを演出しながら、
どこまでも洗練されたアレンジの手さばきに、ポップス職人の腕を感じますねえ。
冒頭1曲目の、ダミャン・ペイチノスキの流麗なギター・ソロに続く、
弦セクションのパッセージなど、圧巻です。

とまあ、サウンドに耳を集中して、
カロリーナの自意識の立つ歌を意識しないように聴いているんですが、
ホンネ言うと、このオケのまま別の歌手に差替えてくれたらと思わずにはおれません。
自意識を消して歌に殉じることのできる、トラッド系の歌手が歌ってくれたらなあ。

ま、もっともこんな融通の利かない耳は、オヤジ特有のものだと思うので、
若い人ならこの歌声は絶賛されるんでしょう。
マリーザ・モンチの歌に癒されるという人が大勢いるくらいですから、ハイ。

Karolina Gočeva "IZVOR" Croatia CD6084050 (2019)
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ラズジャズ アイチャ・ミラッチ [西アジア]

Ayça Miraç  LAZJAZZ.jpg

シンと冷える冬の夜、心落ち着けて聴くことのできる女性ヴォーカルを見つけました。
中音域のふくよかな発声で、ひそやかに歌うヴォーカルに引き込まれます。
時に軽やかにハネる声が氷上のバレリーナを連想させる、静謐なジャズです。

トルコ東部黒海沿岸に暮らす少数民族ラズ人と
南コーカサスのジョージアの少数民族ミングレル人の伝統音楽をベースとしたジャズ作品。
これもまた、世界各地から登場するようになったフォーク・ジャズのひとつですね。
主役は、ドイツのゲルゼンキルヒェンで育った、トルコ系女性歌手のアイチャ・ミラッチ。
これがデビュー作というのだから、意欲的じゃないですか。

アイチャの母親のルーツがラズにあり、長年ラズ文化の保護運動をしてきたことが、
アイチャに影響を与えたようです。
一方、父親のヤサー・ミラッチはトルコの著名な詩人で、
多くのトルコの音楽家と親交を持っていたことから、
アイチャは父親の友人や兄たちに触発され、
幼いころからジャズの即興演奏に親しんでいたとのこと。
オランダでジャズを本格的に勉強したのち、奨学金を得てニュー・ヨークで
ヴォーカル・トレーニングを受け、ウェイン・ショーターにも会って励まされたそうです。

ラズの伝統音楽が持つポリフォニーを再現するために、
オープニング曲の‘E Asiye’ では、
ヴァイオリンとアイチャのヴォーカルで4度平行の和声を作る工夫をしたといいます。
レパートリーはラズとミングレルの伝統音楽ばかりでなく、
父ヤサー・ミラッチの詩にアイチャが曲を付けたオリジナルのほか、
「ウスクダラ」やビル・エヴァンスの曲も取り上げています。

ベーシストとドラマーがドイツ人で、ピアニストはブラジル人。
ベーシストとアイチャの二人でアレンジをしています。
ゲストにヴァイオリニストが参加しているほか、
「ウスクダラ」だけ、ピアニストが交代しています。
控えめなジャズ表現に奥ゆかしさを感じる、品の良いアルバムです。

Ayça Miraç "LAZJAZZ" DMC no number (2018)
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本領発揮のファンキー・ハイライフのヴェテランたち パット・トーマス、ジェドゥ=ブレイ・アンボリー [西アフリカ]

Pat Thomas & Kwashibu Area Band  OBIAA!.jpg   Gyedu Blay Ambolley  11TH STREET, SEKONDI.jpg

カムバックしたファンキー・ハイライフ時代のヴェテランたちが、揃いも揃って絶好調。
昨年のエボ・テイラーのアルバム”YEW ARA” もそうでしたけれど、
立て続けに届いたパット・トーマスにジェドゥ=ブレイ・アンボリーの新作が
いずれも快作で、もう嬉しいったらありません。

パット・トーマスの4年ぶりとなるカムバック第2作は、
欧米受けするアフロビートの要素を排し、本来のパット・トーマスらしい
ファンキー・ハイライフのスタイルを取り戻していて、快哉を叫んじゃいました。
オルガンを軸にしたバンド・サウンドに、野性味を増したホーンズのブロウと、
前作よりもぐっと聴き応えが増しました。

前作でもパットらしいハイライフをやっていたとはいえ、
ゲストのトニー・アレンに3曲叩かせていたように、
アフロビートのニュアンスを入れたがるレーベル側のたくらみが、ウザかったんですよねえ。
カムバックした御大たちに、自分たちのハイライフのスタイルでなく
アフロビートをやらせるのに、苦虫をつぶす思いで眺めてきたので、
今作の方向性は嬉しい限り。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2015-06-21

欧米人プロデューサーのハイライフ音痴ぶりと、
アフロビート禍は本当にジャマくさいと思ってきましたが、
ミスター・ボンゴなどがファンキー・ハイライフ時代のオリジナル盤の復刻を進めたことで、
ずいぶんとハイライフへの理解も進んだんじゃないですかね。
泥臭いハイライフのメロディにもリスナーがなじんだところで、
パット・トーマスの本領を発揮した本作の土臭さにファンがついてこれたら、
オーライでしょう。
ジャケットも往年のガーナイアン・マナーなデザインで、嬉しくなります。

そして、前作“KETAN” が絶賛されたジェドゥ=ブレイ・アンボリーの2年ぶりの新作も
快調そのものです。アフロ・ソウル色の強いジェドゥのファンキー・ハイライフは、
もとよりアフロビートと親和性が強く、欧米プロデューサーの意向などではなく、
ジェドゥ本来の持ち味によってアフロビートなニュアンスが加味されている点は、
前作同様です。今回ももちろん、ガーナ録音。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2017-05-29

ジャジーな味わいのジェドゥのラップとポエトリーを交えたヴォーカルが、超クール。
ジェドゥのヴォーカルの低音の魅力は、リントン・クウェシ・ジョンソンと双璧ですね。
タイトに引き締まったアフロ・ファンク・サウンドとも、抜群の相性の良さです。
ハードエッジなアフロビートあり、トーキング・ドラムが活躍するアフロ・ファンクあり、
ホーン・セクションがトロピカル・ムードを盛り上げる明るいメロディのハイライフあり、
E・T・メンサーなどハイライフの巨人たちを称えるラップが入る曲あり
(このラッパー、誰?)、実にヴァラエティに富んでいます。

ジェドゥの新作は文句なしのカッコよさで、若い人にも支持されることウケアイですけど、
一聴朴訥としたパット・トーマスのざっくりとした粗削りなハイライフの魅力にも、
気付いてもらえたら嬉しいですね。

Pat Thomas & Kwashibu Area Band "OBIAA!" Strut STRUT201CD (2019)
Gyedu-Blay Ambolley "11TH STREET, SEKONDI" Agogo AR131CD (2019)
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肩の力が抜けパワー・アップ イェミ・アラデ [西アフリカ]

Yemi Alade  WOMAN OF STEEL.jpg

ティワ・サヴェイジとアフロビーツのクイーンの座を争う、
イェミ・アラデの4作目を数える新作です。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-06-19
ビヨンセの『ライオン・キング:ギフト』にフィーチャリングされて、
ますます鼻息を荒くしているイェミですけれど、
新作でもナイジェリアを代表するポップ・スターらしい貫禄を示しているのは、
さすがですねえ。キャッチーな曲が並び、トラックの粒も揃っています。

今作では、これまで慎重に避けてきた政治的なトラックがあり、
ボーナス・トラックの前の、アルバム・ラストにそっと置かれた
レゲエ・ナンバーの‘CIA (Criminal in Agbada)’ が現地で話題を呼んでいます。
フェラ・クティにならってタイトルの頭文字を取ったこの曲、
Agbada アバダとはヨルバの男性用伝統衣装で、金持ちを象徴する衣装であると同時に、
たっぷりとしたみごろに、他人から盗んだ物を隠していることを暗喩しています。

今回はフィーチャリング・ゲストが控えめで、
ダンスホール・レゲエのダンカン・マイティと
ノリウッド女優のフンケ・アキンデレ(歌ではなくセリフの出演)に、
アンジェリク・キジョの3人のみ。こんなところにも、
イェミが実力をつけたことを感じさせるじゃないですか。

ところでフンケ・アキンデレが最後にセリフを入れる‘Poverty’ が、
これまでのイェミの作風になかったメロディで、まるでシミが書いた曲のように聞こえます。
シミの‘O Wa N'be’ にすごく似たムードで、これ意識してるよねえ?
この曲は、スワヒリ語ヴァージョンのトラックもボーナスとして、最後に収められています。
なぜかクレジットがないんですけれど、ケニヤ人シンガーのイヴリン・ムトゥアが
フィーチャーされているとのこと。

この曲以外にも、ゆったりとしたルンバの‘Yeba’ など、
これまでになく肩の力が抜けた歌声を聞かせる本作、
チャーミングな曲が多いのも、花丸もの。
過去作のなかでは、一番好みだな。

Yemi Alade "WOMAN OF STEEL" Effyzzie Music no number (2019)
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モンテマリアナのガイテーロ ソン・デ・ラ・プロビンシア [南アメリカ]

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コロンビアからもう1枚嬉しいアルバムが届きました。
6人組のソン・デ・ラ・プロビンシアは、
縦笛ガイタ2本と打楽器3台でオーセンティックなクンビアを聞かせるグループ。
メンバーの出身はさまざまのようですが、ガイタの二人は、
クンビアを生んだマグダレーナ川に近いカルメン・デ・ボリバルだそうで、
北部山岳地域のモンテス・デ・マリアで12年に結成されたそうです。

メロディを担当するガイタのエンブラが、軽快に吹き始めると、
すぐそのあとを、タンボーラ、アレグレ、ジャマドールの太鼓3台と、
もう1本のガイタでリズムを担当するマチョが追いかけるように
リズムを疾走させていくという、伝統的なクンビアを聞かせます。
かけ声も威勢よく、なんともフレッシュじゃないですか。

YouTubeを観たら、軽快なマラカスは、マチョを左手で操って吹きながら、
右手で振っているんですね。
マチョは穴が一つか二つしかないリズム楽器だから、こういう芸当ができるのか。

昔ながら変わらない伝統クンビアですけれど、いまや民俗音楽のディスクぐらいでしか、
なかなか聴くことができなくなってしまっているので、
これは貴重なCDじゃないでしょうか。
パーカッション・ミュージック好きにはたまらない、
アフロ・コロンビアーノの味を堪能できる嬉しい1枚です。

Son De La Provincia "LA CAJITA DE LA ENCOMIENDA" Mambo Negro no number (2018)
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ラップ・フォルクロリコ・パレンケロ コンビレサ・ミ [南アメリカ]

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こりゃあ、スゴイ!
コロンビアの逃亡奴隷の解放区、パレンケの末裔にあたる若者たちが、
パレンケの言語とリズムでヒップ・ホップした大傑作!

カルタヘナ南東の丘陵地帯にあるパレンケ・デ・サン・バシリオは、
人口約3,500人の村。かつては数多くあったパレンケも、スペイン人に破壊され、
現存する村はここただ一つとなってしまったものの、
ユネスコの世界遺産にも登録されて、その存在が広く知られるようになりました。

奴隷制、植民地時代、そして今も続く軍やゲリラとの武力紛争と、
400年にわたるコロンビアの暴力の歴史にさらされてきたサン・バシリオの住民にとって、
コミュニティを維持することが、パレンケの文化的一体性を保つことにもなったんですね。
ラテン・アメリカの中でアフリカを作り上げるというパレンケの目標に向かって、
最前線にいるグループが、彼らコンビレサ・ミなのではないでしょうか。

特殊仕様の変型ジャケットに収められた
ブックレットのメンバー9人の写真が、グッときます。
メンバーのファッションやヘア・スタイルからは、同時代性のセンスとともに
闘いの歴史を経てきた祖先から受け継いだ抵抗の精神が、
びんびんと伝わってくるようじゃないですか。
居並ぶメンバーの立ち姿の自信に満ち溢れた表情からも、彼らの気概が伝わってきますよ。

マリンブラの弦をはじく低音が、ぐいんぐいんとリズムを前に押し出し、
伝統的な打楽器が叩きだすアフロ系のリズムにのせて、
9人のメンバーのラップが行きかうビートが快感です。
高中低音バランスのとれたパーカッション・アンサンブルは、
奥行きがありつつ十分なスペースがあり、
自在にリズムを変えていく合間を縫うようにラップのフロウが泳いでいくところは、
コール・アンド・レスポンスの歌とコーラス以上に、伝統的です。

ミュージック・マガジン11月号の
「ラテン/カリブ音楽オールタイム・アルバム・ベスト」で、
未来の希望につながるラテン音楽がぜんぜん見当たらないとうなだれましたが、
ようやく出会えましたね。今年のラテン・ベスト、文句なしでっす!

Kombilesa Mi "ESA PALENKERA" Kombilesa Mi no number (2019)
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