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アフロ・ジャズ・ファンクなハイライフ・ジャズ ジェドゥ=ブレイ・アンボリー [西アフリカ]

Gyedu-Blay Ambolley  GYEDU-BLAY AMBOLLEY AND HI-LIFE JAZZ.jpg   Blay Ambolley  Afrikan Jaazz A New Sound In Town.jpg

19年の前作では、ヴェテランらしい懐の深さで、
快調なファンキー・ハイライフを聞かせてくれたジェドゥ=ブレイ・アンボリー。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2019-12-07
3年ぶりの新作がハイライフ・ジャズと知ったら、
ここ最近ジェドゥのファンになった人にとっては、意外かも。

ハイライフ・ジャズというと、古くはクーラ・ロビトス時代のフェラ・クティが
試行錯誤していたジャンルとして知られていますけれど、
のちにこのスタイルを打ち出した音楽家が、ギタリストのエボ・テイラー。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2013-03-05
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-06-13

ハイライフの歴史の中では、傍系のジャンルというか、
変種のような存在ですけれど、ナイジェリアのサックス奏者のピーター・キングが、
デビュー作でハイライフ・ジャズを演っていたこともありましたね。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2013-10-01

ジェドゥも、デビュー作をエボ・テイラーのプロデュースで制作したように、
ファンキー・ハイライフを身上としつつも、
エボからハイライフ・ジャズの影響を受けていたのかもしれません。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2013-04-18
ジェドゥは、01年にハイライフ・ジャズのアルバムを制作していて、
本作は21年ぶりに再挑戦したアルバムなのでした。

オリジナル曲にモダン・ジャズ時代のクラシック・チューンを交えた01年作と、
今回も同様の企画ですけれど、今作はアレンジが素晴らしいですね。
01年作でも演っていた ‘All Blues’ ‘Round Midnight’ ‘Footprints’ の再演に、
コルトレーンの ‘A Love Supreme’ まで取り上げているんですが、
ベル・パターンのハイライフのリズムを忍ばせた、
ハイライフとジャズを融合させたアレンジが鮮やか。
そのアレンジの手腕がジャズ・マナーでなく、
アフロ・ジャズ・ファンク・マナーなのがミソなんであります。

ハイライフはそのときどきの流行に応じて、ラテン、カリプソ、ソウル、ファンクなど、
さまざまな外来音楽を取り入れてきましたけれど、
その咀嚼の仕方に共通するセンスがあって、
それがモダン・ジャズを取り入れたハイライフ・ジャズにもみられます。

それは、ジャズ側に身を寄せるのではなく、自分たちの土俵に引き寄せるやりかたで、
晩年のトニー・アレンがジャズにアプローチしたのは、
これとは真逆のジャズに寄せていく方法論だったたからこそ、
ユニークな作品となったのでした。

20年ぶりに聴くジェドゥのハイライフ・ジャズは、
すごく洗練された仕上がりで、スタイリッシュと形容しても過言じゃないでしょう。
ラップの元祖ともよく言われるジェドゥのヴォーカルが、
ヒップ・ホップ的な感性ともシンクロして、めちゃカッコよく聞こえますよ。
オリジナル曲も、カリビアンとボサのテイストを加えた
‘Enyidado’ のトロピカル・ムードなんて、サイコーじゃないですか。

本作のリリースに合わせ、EU諸国を精力的に回るそうで、
う~ん、ライヴ観てみたいなあ。

Gyedu-Blay Ambolley "GYEDU-BLAY AMBOLLEY AND HI-LIFE JAZZ" Agogo AR139CD (2022)
Blay Ambolley "AFRIKAN JAAZZ: A NEW SOUND IN TOWN" Simigwa no number (2001)
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滋味溢れるフルベ・サウンド サヘル・ルーツ [西アフリカ]

Sahel Roots  DIARKA.jpg

うわぁ、ぼくの大好物の楽器の音色!
コロコロと可愛らしい音色を出す1弦楽器、これ、クンティギだよねぇ。
頬をゆるませながら、CDのクレジットをチェックすると、
ジュル・ケレンという聴き慣れない楽器名が記されていました。
あれ? クンティギじゃないんだ。

クンティギはナイジェリアのハウサの楽器で、
このデュオはマリだから、楽器名が違うのも当然か。
西アフリカのサバンナ一帯で、広くある楽器なんでしょうね。
形状はンゴニを小型化したもの。クンティギはおもちゃのような小ささですけれど、
YouTube でジュル・ケレンを見ると、ボディには洋梨型のくびれがあり、
どうやら木製のンゴニとは違い、半切りにした瓢箪をボディにしているようです。
サイズも、クンティギよりひと回り大きいかな。
でも音色は、弦を1本だけ張ったウクレレみたいで、
クンティギとまったく同じ、乾いた愛らしい響きを奏でます。

サヘル・ルーツは、この1弦楽器のジュル・ケレンと1弦フィドルのソクを弾く、
アダマ・シディベと、カラバシとドゥンドゥンを叩くアラサン・サマケの二人組。
93年カラ生まれのアダマ・シディベと、
83年ガオ生まれのアラサン・サマケはバマコで出会い、
19年から共に活動を始め、今回5曲入りのデビューEPを出したんですね。
このシブいサウンドから察するに、二人ともプール人かな。
ラスト・トラックの曲名は‘Takamba’ とあるので、
ひょっとしてアラサン・サマケは、ソンガイ人かもしれませんね。

Zoumana Tereta  NIGER BLUES.jpg   Zoumana Tereta  SOKU FOLA.jpg

収録時間18分45秒、わずか5曲だけのミニ・アルバムですが、
フルベ(プール)音楽好きにはたまらないサウンドです。
アダマ・シディベは最初の3曲でジュル・ケレンを、あとの2曲でソクを弾いています。
ソクといえば、マリ音楽ファンならプール人音楽家で、
ソクの名手のズマナ・テレタをご存じと思いますが、ズマナ亡きあとも、
こうして若手がちゃんと育っているのは頼もしいですねえ。

Alhaji Dan Maraya Jos  EMI.jpg   Alhaji Dan Maraya Jos  KUDI MASU GIDA RANA.jpg

さて、冒頭に触れたクンティギですが、ぼくがクンティギに愛着を持ってきたのは、
ナイジェリア中央部ジョス近郊のブクル出身のハウサ人グリオ、
アルハジ・ダン・マラヤ・ジョス(1946-2015)のレコードを、
40年近く愛聴してきたからです。
おもちゃみたいなクンティギを弾き倒しながら、
雄弁な歌いぶりで聞かせる、たったひとりだけの名人芸。
グリオというよりミンストレルにも通じる機知に富んだヴォーカルが、
ものすごく魅力的なんです。
この先CD化やストリーミングが実現するとは到底思えませんが、
40年前に買った2枚のレコードは宝物で、
久しぶりに懐かしく聴き返してしまいました。

さて、そんなダン・マラヤ・ジョスを思い出させてくれたサヘル・ルーツですけれど、
来たるフル・アルバムでは、このデュオの良さを損なわぬよう、
余計なゲストなど呼ばず、ぜひこの二人の演奏だけで制作してもらいたいな。

Sahel Roots “DIARKA” Mieruba no number (2022)
Zoumana Tereta "NIGER BLUES" Cobalt 09361-2 (2003)
Zoumana Tereta "SOKU FOLA: TRADITIONAL STRING MUSIC FROM SEGOU, MALI" Kanaga System Krush no number (2008)
[LP] Alhaji Dan Maraya Jos "ALHAJI DAN MARAYA JOS" EMI NEMI(LP)0043
[LP] Alhaji Dan Maraya Jos "KUDI MASU GIDA RANA" Polydor POLP151
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新しい冒険の始まり スター・フェミニン・バンド [西アフリカ]

Star Feminine Band  In Paris.jpg

ベニンのガール・グループ、スター・フェミニン・バンドの新作ですよ!
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2021-01-02

デビュー作から2年、うわー、演奏、上達したじゃないですか。
拙い演奏をしていたデビュー作とは、見違えましたね。
リズム・セクションがすっかり安定して、アンサンブルががぜん良くなりましたよ。
きっと猛特訓したんだろうけど、彼女たちの急成長ぶりに、目を見開かされました。
デビュー作では10歳から17歳だった彼女たちは、12歳から19歳に成長したわけで、
この年頃の子供にとっての2年間というのは、大きな成長を遂げる時期ですよねえ。
なんだかもう彼女たちのことになると、すっかり保護者目線で応援してしまう自分です。

セカンド作は、フランス、スイス・ツアーを成功させて、パリで録音されたもの。
パンデミックの状況下で国外ツアーを敢行するのは、まるで障害物競走のような
困難の連続だったと、ライナー・ノーツに書かれています。
パスポートの取得から、未成年者の夜間労働の許可証ほか、
その他各種証明書の煩雑で非能率な手続きを、乗り越えなければなりませんでした。
そのうえ、ベニンでは未成年者はワクチン接種を受けることができないため、
ワクチン接種にも大変な苦労があり、ツアーの先々でも何度も検疫で足止めされたようです。

そんなさまざまな障壁を乗り越えながら、最初フランスに到着した彼女たちは、
エスカレーターにどうやって乗ればいいのかわからずに立ちすくみ、
電気のない炎天下で演奏をしてきた環境とは、まるっきり別世界の大きなステージで、
わくわくが止まらない歓喜に満ちた冒険をしてきたのですね。

ポリリズムが応酬するオープニングの‘We Are Star Feminine Band’ は、
まさにコンサートのオープニングにぴったりの曲。
ハーモニー・ヴォーカルが少女たちの一体感を強調して、
ブリッジを挟んで、ジュリエンヌのベースが倍テンポで演奏し始めると、
がぜんバンドのグルーヴが大きくなって、アンサンブルがヒート・アップします。
22年3月に12歳を迎えたばかりのバンド最年少のドラマー、アンジェリックは、
デビュー作ではリズム・キープに必死といった感じだったのが、
今作ではフィル・インにもゆとりがありますよ。

新たにユニセフの大使という役割を負うようになったスター・フェミニン・バンドは、
アフリカ社会のなかで選択肢を持たない少女たちの現状を、ダイレクトに訴えています。
‘Le Mariage Forcé’ で子供の見合い結婚の強制に抗議し、
‘L'excision’ は、性器切除に反対するなど、彼女たちに差し迫っている状況が、
複雑なポリリズムによって演奏されると、その切迫さがより生々しくリスナーに届きます。

ベニンのヴードゥー由来のリズム、サトに、コンゴのルンバやレゲエなどのリズムを
さまざまにミックスしたリズム・フィギュアもこなれ、
ルンバのセベンのようなダンス・パートでのギター・リックや、
オルガンやバラフォンのキャッチーなフレーズも効果を上げていますね。

演奏力に合わせて、メッセージを伝えるコミュニケーション能力も
格段に向上した彼女たちの今後の新たな冒険が、ますます楽しみです。

Star Feminine Band "IN PARIS" Born Bad BB157 (2022)
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知られざる地方版エド・ハイライフ ワジリ・オショマー [西アフリカ]

Alhaji Waziri Oshomah  WORLD SPIRITUALITY CLASSICS 3 THE MUSLIM HIGHLIFE OF ALHAJI WAZIRI OSHOMAH.jpg

ぎゃはは、これは暴挙だ!
ルアカ・バップが、こんな超ローカルなナイジェリアのハイライフをリイシューするなんて、
いったい誰が想像できたでしょうか。
いやぁ、酔狂にも程があるぞといいつつ、けっこう喜んでおります、ワタクシ。
ルアカ・バップが出したってところが、痛快じゃないですか。
「デイヴィッド・バーンの」という宣伝文句につられて、買ってください、みなさん。

アフリカ音楽ファンの間でも、おそらく一番人気がない、イボ系ハイライフ。
セレスティン・ウクウ、ステファン・オシタ・オサデベなんて大物ですら、
ロクに知られていないのが現状ですからねえ。
イボ系ハイライフの裾野はとてつもなく広くて、イボのサブ・グループや周辺の民族ごとに、
それぞれ異なるシーンがあって、レコードも大量にあるんですよ。
内戦(ビアフラ戦争)以降は、おそらくレゴスにすら流通しなかったであろうと思われる、
ナイジェリア南東部州のみで地産地消したローカル・レーベルの作品が、
大げさでなく星の数ほどあります。

今回ルアカ・バップがリイシューしたワジリ・オショマーも、そうした一人。
イボではなくて、ナイジェリア南部中央に位置する、
エド州北部に暮らすアフェマイ人の音楽家ですね。
アフェマイ人が暮らす地区、エツァコを代表するミュージシャンとして、
地元では「エツァコのスーパー・スター」とあがめられてきた人ですが、
エド州を出れば、ほぼ無名といってよい存在。

エド出身といえば、ヴィクター・ウワイフォが、ナイジェリア全土で人気のある
ミュージシャンとして有名ですね。エド人はベニン王国の末裔で、
イボ人とは異なる民族の歴史を持っていますけれど、
エフィクやイジョといった周辺の民族と音楽性が共通しているため、
イボ系ハイライフと便宜的に一緒に括られるんですが、
アフェマイ音楽をベースにしたワジリ・オショマーは、
エド・ハイライフとみなされています。
アフェマイ人はエド人と近隣関係にあり、
いわば地方版エド・ハイライフといったところですかね。

ワジリの活動初期にあたる73~77年は、デッカに録音をしていましたが、
本作は78年以降のシャヌ・オルやベニン・シティのレーベル、エボンホンに録音した
曲から選曲されています。ブックレットの解説を、DJとしても活躍する
ナイジェリア人研究家のウチェンナ・イコネが書いていて、ピンときました。
5・6年前だったか、フランスのレコード屋が、
ワジリの80年のエボンホン盤を限定リリースでLPリイシューしたとき
(日本語のオビを付けた、フランス人らしいマニアぶりに驚いた記憶があります)、
ウチェンナ・イコネがライナーノーツを書いていたんですよね。

ひょっとして、ルアカ・バップにこの企画を持ちかけたのは、彼なんじゃないの?
真相はわかりませんが、彼が書く解説は信頼がおけます。
あれ?と思ったのは、ワジリ・オショマーは47年生まれと書いてあったことくらいかな。
ぼくの手元の資料には、48年2月12日生まれとあります。
本作のウチェンナの解説に書かれていないことを、少し補足しておきましょう。

ワジリ・オショマーは、アフェマイの伝統音楽アグビから音楽家としてのキャリアを
スタートさせた人で、アグビをハイライフのサウンドを借りて現代化したんですね。
ワジリがトラディショナル・サウンド・メイカーズと自己のバンドを名付けのも、
むべなるかな。
アグビは、収穫期に太鼓ほかの打楽器アンサンブルと歌い手たちが
コール・アンド・レスポンスする音楽で、オショマの初期録音のデッカのカタログを見ると、
アグビ~ネイティヴ・ブルース~ハイライフと変遷しているという記録があります。
ワジリの父親チーフ・スレ・オショマー・アディカレは、
メイキディと称される太鼓の名手だったそうですが、アグビの音楽家だったのでしょう。

きちんとリマスターされた本作は、
盤質の悪いオリジナルのナイジェリア盤LPや、紙パック製CDとは、
比べものにならないハイ・クオリティの音質を楽しめます。
とても売れそうにないCDですけど、何も知らずうっかり買った人のわずかでも、
こういうローカルなハイライフを好きになってくれたら、いいんですけれどねえ。

Alhaji Waziri Oshomah "WORLD SPIRITUALITY CLASSICS 3: THE MUSLIM HIGHLIFE OF ALHAJI WAZIRI OSHOMAH" Luaka Bap 6 80899 0100-2-3
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エレクトロ+セネガリーズ・ラテン ラス [西アフリカ]

Lass  BUMAYÉ.jpg

いよいよセネガルからも、アフロビーツの影響大なシンガーが登場しましたね。
これまでに、R&Bやヒップ・ホップ、ラガの影響を受けた
新世代ンバラのシンガーはいるにはいましたけれど、
そうしたシンガーと一線を画す新しさが、
このラスことラッサナ・サネのデビュー作にはあります。

ダカール郊外の海沿いの街、ムバタルで生まれたラスは、
幼くして父を亡くし、野菜売りの母の収入では通学の交通費をねん出できず、
高校をドロップアウトして、漁師と一緒に仕事をしたといいます。
漁業の仕事をしながらも、音楽への情熱が失せることはなく、
朝から海辺へ行って、波の砕ける音に負けない声を出すトレーニングを重ね、
2年間かけて大きな声を獲得したそうです。グリオのような声が欲しかったんですね。

その後、ダーラ・Jのスタジオでデモ録音を作ってはみたものの、
チャンスに恵まれず、09年にフランスのリヨンへ渡り、
昼は警備員の仕事をしながら、歌手活動を続けます。
道が開けたのは、プロデューサーでマルチ奏者の
ブルーノ・オヴァール(パッチワークス)との出会いでした。
ブルーノのプロジェクト、ヴォイラーへ参加するほか、
エレクトロ・デュオのシナプソンとのコラボによってラスの名が次第に広まり、
チャプター・トゥーのディレクターの目にとまって、本デビュー作が実現しました。

このアルバムで聞けるラスの音楽性の新しさは、セネガル版アフロビーツともいえる
ブルーノ・オヴァールやシナプソンが絡んだエレクトロなサウンドにあるわけですけれど、
面白いのは、そうしたサウンドと、古いセネガリーズ・ラテンが同居しているところですね。
そして、ンバラの影響を感じさせないところも、興味深いです。

セネガリーズ・ポップの歴史をひも解けば、アフロ・ラテン時代を経て、
ンバラが誕生・発展し、ヒップ・ホップへと移ってきたわけですけれど、
ラスの音楽性からは、ンバラが中抜きされている印象があります。
じっさい、ラスが影響を受けたアーティストとして挙げているのは、
オーケストラ・バオバブ、アフリカンド、ハラム、ポジティヴ・ブラック・ソウル、
ダーラ・Jで、ンバラのアーティストが見当たりません。

スター・バンドやオーケストラ・バオバブのサウンドを聞かせる‘Mero Pertoulo’ や、
コンパイ・セグンドのメロディを借りたという‘Sénégal’、
さらにビックリさせられるのが、アフロ・キューバン色濃い
70年代のベンベヤ・ジャズのサウンドを再現した‘Olou’ です。
これには往年のアフリカ音楽ファンも、悶絶することウケアイでしょう。

それにしても、ラスの歌声の良さといったら。
オープニングのタイトル曲‘Bumayé’ のフレッシュな歌いっぷりには、背が伸びますね。
そしてその歌声には、匂い立つようなウォロフ臭さが充満していて、
セネガル好きにはたまりませんよ。

ヴィクトル・デメやイスマエル・ローの‘Tajabone’ にインスパイアされたという、
ラスト・トラックの‘De Du Tago’ のフォーキーなサウンドがまた妙味。
37歳という遅いデビュー作を果たしたラスの声の苦味に、
苦労人らしい味わいが滲みます。

Lass "BUMAYÉ" Chapter Two 3419262 (2022)
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アーシーなアフロ・ファンク トーゴ・オール・スターズ [西アフリカ]

Togo All Stars  FA.jpg

おぅ、待ってました!
トーゴ・オール・スターズの5年ぶりのセカンド作。
70年代に活躍した往年のヴェテランまで引っ張り出したデビュー作が、
望外の傑作だったというのに、日本ではまったく話題になりませんでしたねえ。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2017-10-06
今度こそ、ちょっとは注目してくれよと言いたい、これまた快作となった新作です。

今回は、ロジャー・ダマウザンやナポ・デ・ミ・アモールといったヴェテランはいませんが、
前作とほぼ同じメンバーで、トーゴの首都ロメで録音、
アムステルダムでミックスをしています。
デビュー作を仕切った、元ファンガのセルジュ・アミアノの名前が今回はなく、
アミアノから自立したということなのかな。
プロデュースはトーゴ・オール・スターズ・コレクティヴとなっているので、
集団指導体制になったようですね。

ホーン・セクションを含むバンドの演奏力の高さがこのバンドの強みで、
アーシーな魅力に富んでいるところが、今日び貴重だと思うんですよ。
演奏力があると、最近はなんでもかんでも洗練の方向に向かっちゃうじゃないですか。
それがなんか、ツマんないなあと思っていたもので、
こういう泥臭い味を発揮してくれると、すごく嬉しくなっちゃうんですよね。

アクペセやアグバジャなど、トーゴのリズムを援用した曲も多くやっていて、
冒頭の‘Ancestors Calling’ では、ステデイなベルの合間を、
トーキング・ドラムがバウンシーなリズムで駆け抜けます。
バリトン・サックスが利いた重厚なホーンもド迫力の、トーゴリーズ・ファンクですね。
‘Adze Gbalo’ では、シャウトするヴォーカルの熱さとは対照的な、
反復フレーズを淡々と演奏するクールなグルーヴにシビれます。

トーゴの伝統的なリズムを前面に打ち出した曲では、
打楽器アンサンブルとコーラスをバックに、サックスがブチ切れたソロも聞かせる
‘Reclaim Yourself’ や、‘Adjoguin’ ではその曲名どおり、
トーゴ南東部アクラク村に伝わるアジョグインのベルのリズムをベースにしています。
こうした曲では、パーカッション・アンサンブルがキモになっているんですけれど、
クレジットによると、パーカッションはすべて、
アヨウヴィ・コクスが一人で演奏しているようです。

その一方で、アフロビートもやっていますよ。
‘Everybody Get It’ でギルバート・オペニャが聞かせる、
唾を飛び散らすようなアジテイトは、迫力たっぷり。
‘Up To The Sky’ のアゲイ・クジョーの歌いっぷりも、
フェラ・クティをホウフツさせます。
トーゴ独自性を存分に発揮したアフロ・ファンクは、
自信を持って唯一無比といえます。

Togo All Stars "FA" Excelsior EXCEL96600 (2022)
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父から息子へ アブドゥッラー・ウンバドゥグー、シディ・アブドゥッラー・ウンバドゥグー [西アフリカ]

Desert Rebel.jpg   Abdallah Oumbadougou  ZOZODINGA.jpg

ニジェール政府によるトゥアレグ弾圧によって、マリのティナリウェン同様、
リビアの亡命キャンプへと逃れたアブドゥッラー・ウンバドゥグーは、
ニジェールでイシュマール・スタイルのギター・ミュージックを広めた一人。
トゥアレグの武装闘争終結後にニジェールへ帰国して英雄となり、
ボンビーノやエムドゥ・モクタールなど、
アガデスの若きトゥアレグのギタリストたちのお手本となった人です。

亡命時の95年に、ベニンで録音したカセット“ANOU MALANE” は、
ブートレグ商人のネットワークによって、ダビングを繰り返しながら
トゥアレグのディアスポラが居留する隅々の地まで行き渡ったといいます。
このアルバムは、19年にサヘル・サウンズがLPとカセットでリイシューしました。

ニジェールに戻ったアブドゥッラー・ウンバドゥグーは、ヨーロッパやアメリカをツアーし、
フランスで結成したグループ、デゼール・ルベルで成功を収めます。
デゼール・ルベルには、アマジーグ・カテブ(元グナーワ・ディフュジオン)、
サリー・ニョロ(元ザップ・ママ)、ダニエル・ジャメ(元マノ・ネグラ)が参加し、
レゲエやグナーワなども取り込んだヨーロッパ人受けするサウンドになっていましたが、
彼の本領が発揮されたのは、ソロ名義で出した11年作“ZOZODINGA” の方ですね。

Sidi Abdallah Oumbadougou  ISSIKTANE.jpg

そのアブドゥッラー・ウンバドゥグーが、20年に亡くなっていたことを、
アブドゥッラーの22歳の息子、
シディ・アブドゥッラー・ウンバドゥグーのデビュー作で知りました。
先月クレモント・ミュージックからリリースされた本作のライナーノーツに、
「故アブドゥッラー・ウンバドゥグー」とあり、えっ!と気付いたのでした。

息子シディ・アブドゥッラー・ウンバドゥグーのデビュー作は、
ベース・ドラムスが付くだけのシンプルなギター・トリオ。
ニジェールのアガデスで録音され、ニュー・ヨークでミックスされているんですが、
これがなかなかの出来。

キレのあるビートにのせて、硬質な音色のギターをリズミックに弾きながら、
力のあるヴォーカルを聞かせます。
落ち着いた低音で歌うのと、高音で振り絞るように歌うのを交互に行ったり、
声色を変えるなど、工夫の跡がうかがわれるじゃないですか。
ウルレーションが飛び出す曲もあります。

曲はハチロクと4拍子が半々で、前のめりにつんのめったビートの曲あり、
反対に、最後の拍を長めにとったタメの利いたビートの曲ありと、
各曲リズムが異なっていて、単調になることがありません。

Desert Rebel "DESERT REBEL" Original Dub Master ODM07820 (2006)
Abdallah Oumbadougou "ZOZODINGA" Original Dub Master ODM3417201 (2011)
Sidi Abdallah Oumbadougou "ISSIKTANE" Clermont Music CLE049 (2022)
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レコメンドはデビュー作 ティスダス [西アフリカ]

TisDass  YAMEDAN.jpg   TisDass  AMANAR.jpg

今年の春先、トゥアレグのギター・バンドの新作が、
ちょっとしたリリース・ラッシュになりましたね。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2022-03-04
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2022-04-13

そのなかで、ティスダスの新作“AMANAR” は取り上げませんでした。
祝祭感溢れるエトラン・ド・ルアイルや、アソウフの情感豊かなダグ・テネレと並ぶと、
トゥアレグ・ロックのティスダスは、
軽量級のドラムスが災いしてサウンドに重量感が足りず、聴き劣りしたもので。

そのティスダスの新作は2作目で、
デビュー作は15年にサヘル・サウンズから、カセットで出ていたようです。
カセットは未聴だったんですが、新作を制作したアソシエイション・ブルキナ・アザが
17年にCD化していたことを知り(現在廃盤)、運よく見つけることができました。

聴いてみて、びっくり。
デビュー作の方が、断然いいじゃないですか。
重量感のあるドラミング、エッジの利いたギターともに、
新作よりはるかに聴き応えがあります。

2作目では男女コーラスやパーカッションも加わり、華やかでしたけれど、
デビュー作は、ギター×2、ベース、ドラムスによる4人編成。
2コードのシンプルな曲を、ループ感たっぷりのギターがリードして、
ぱかんぱかんと打たれる手拍子とともに、じっくりと盛り上がるグルーヴは、
ティナリウェンばりのアソウフを感じます。

クレジットを見てみると、歌とギターのキルジャテ・ムサ・アルバデ以外、
1・2作目のメンバーは全員違っていて、ティスダスというのは、
キルジャテ・ムサ・アルバデのソロ・プロジェクトなんですね。
バンド名義なのに、ジャケットに一人しか写ってないのは、そういうことか。
キルジャテ・ムサ・アルバデは、ボンビーノのグループでベースを弾いていた人物で、
13年の“NOMAD” でプレイをしていました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2013-05-10

キルジャテは、ニジェールのトゥアレグのマーケット・センター、チンタバラデンの出身。
タマシェク語で「柱」を意味するティスダスのグループ名で、
ニアメーを拠点に活動しています。エレクトリック、アクースティックともに、
典型的なイシュマール・スタイルのギターを弾きますが、
ロック色の強い‘Yhaviti-Yamiditine’ でのギター・ソロを聴くと(熱演!)、
ボンビーノからの影響も感じさせますね。
ヴォーカルは、ボンビーノやエムドゥ・モクタールより味があって、良いですよ。
CDは入手が難しいと思いますが、配信で聴くことができます。
(ちなみに配信のジャケットはサヘル・サウンズのヴァージョン)

それにしても、マリの政情不安のせいで、トゥアレグのデザート・ブルース・シーンは、
すっかりニジェールに移ってしまった感がありますね。

TisDass "YAMEDAN" Association Burkina Azza/Sahel Sounds BACD001 (2017)
TisDass "AMANAR" Association Burkina Azza/Bolingo Art BACD003 (2021)
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オーストラリアへ渡ったマリのギタリスト ムサ・ジャキテ [西アフリカ]

Moussa Diakite  DONCOMODJA.jpg

オーストラリアへ移住したマリのギタリストのソロ作。
オーストラリアでの活動となると、
ヨーロッパやアメリカの音楽メディアが取り上げることもなく、
ぼくもこんなアルバムが出ていたとは、まったく気付きませんでした。

ムサ・ジャキテは、ジェリマディ・トゥンカラ率いるシュペール・レイル・バンドで、
79年から83年までリズム・ギターを務めていたギタリスト。
その後、トゥマニ・ジャバテのバンドに加わり、
06年のシンメトリック・オーケストラのレコーディングにも名を連ねています。
90年から95年にかけては、
サリフ・ケイタのツアー・バンドで、複数回世界を回ったそうです。
94年にオーストラリアへ渡ってからは、オーストラリア人メンバーとともに、
アフロ・ポップのバンドで演奏活動をしているようです。

16年に出した初アルバムは、バマコでレコーディングが行われていて、
マンデの代表的ミュージシャンが一堂に介した豪華版。
参加メンバーには、カセ・マディ、ジェリマディ・トゥンカラ、
トゥマニ・ジャバテ、バセク・クヤテ、ズマナ・テレタ、
シェイク・ティジャーン・セックといった面々が並びます。

もうこの名前を見るだけで、内容は保証されたようなものですけれど、
ムサ・ジャキテは、オーストラリアからベーシストのサイモン・オルセンを連れ、
アレンジとプロデュースを共同で行っています。

タイトルの『ドンコモジャ』はムサのニックネームで、神からの贈り物との意味だそう。
64年に父親からバースデイ・プレゼントでギターを贈られたムサは、
2年後にすっかり上達して、周囲から、ムサにとってギターが「神からの贈り物」だと、
みなされるようになったとのこと。
グリオでもないのに、ギターを買い与えられたなんて話は、
マリのマンデ社会では考えにくい話で、ひょっとしてワスルの生まれなのでは。
ワスル音楽をベースとしていることからも、間違いなさそうですね。

レパートリーは伝統曲と自作曲が半々。
自作曲はサイモン・オルセンとの共作となっています。
ズマナ・テレタのソクをフィーチャーしたドンソ・ンゴニの1曲目の‘Dossoké’ に続いて、
フルベ(プール)の笛をフィーチャーしたハチロクのインスト‘Fula Folly’ で、はや降参。
アルバム冒頭で、シブ味たっぷりのサウンドを繰り広げたあとは、
華やかなマンデらしい曲調の‘Miniamba’ で、晩年のカセ・マディの歌と
トゥマニ・ジャバテのコラが楽しめます。

一転、シェイク・ティジャーン・セックのキーボードをフィーチャーした
ブルース・ナンバーの‘Wariko’ も面白い。
ムサのギター・ソロと競うようにシェイク・ティジャーンが弾く、
ブルース・ギターの音色を模したシンセ・ソロが聴きもの。
北米ブルースのコピーを、イヤミなく聞かせられるのは、なかなか貴重。

ロックやブルースのリックも巧みに駆使し、
伝統曲にユニークなコード展開を加えるアレンジなど、
マンデ/ワスル音楽と西洋音楽のミクスチャがとても自然で、
老獪な魅力のあるギタリストですねえ。
20年にオーストラリア録音の2作目を出していることがわかったので、
現在オーダー中。

Moussa Diakite  KANAFO.jpg

【追記】2022.9.21
ムサ本人から連絡をもらい、ムサはマリ西部の都市カイの生まれだとわかりました。
ただし両親がワスルのブグニ村出身で、ワスルの音楽がルーツだそうです。
ムサ自身がサインを入れて送ってくれたシドニー録音の20年新作は、
バセク・クヤテやジェリマディ・トゥンカラを招きつつ、
オーストラリア人ミュージシャンたちとともに、
ディジュリドゥを取り入れたサウンドが聞けます。

Moussa Diakite "DONCOMODJA" Wassa no number (2016)
Moussa Diakite "KANAFO" Wassa no number (2020)
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肉声の聞こえる第6作 バーナ・ボーイ [西アフリカ]

Burna Boy  LOVE, DAMINI.jpg

バーナ・ボーイの前作“TWICE AS TALL” は、
パンデミックの憂鬱な気分を増幅されるようで、とても繰り返し聴く気になれず。
なんかこの人って、暗いんだよなあ。力作なのはよくわかるんだけどさあ。
大ブレイクした“AFRICAN GIANT” もそうだったけど、
なんでこんなに暗いのが売れるのかしらん。

そんな相性の悪いバーナ・ボーイなんですけれど、
6作目となる新作は、なんか軽やかになったんじゃない?
レディスミス・ブラック・マンバーゾと共演した出だしの1曲目から、
重苦しさのとれた声がカラッとした印象を与えていて、耳をそばだてられました。

2曲目以降は、この人らしい内省的なメロディの曲が続き、
ネクラな体質は変わってないなと感じるものの、
サウンドのヌケが良くなり、適度にスキマのある音像とあわさって、
重苦しい印象が消えましたね。

前々作、前作の大作主義的な作品に共感できなかったのは、
この人の素顔が、あまりよくうかがえなかったからなのかも。
曲に込めたメッセージが、音楽をジャマしてたんじゃないのかなあ。
本作では、バーナ・ボーイの肉声がよく聞こえてきて、
あらためて魅力的な声質と、豊かな感情表現の持ち主であることを
再認識しました。

ちなみにぼくが入手したCDは、配信の11曲目‘Toni-Ann Singh’ が未収録。
オルタナティヴ・カヴァーのヴァージョンを買ったのがイケなかったか。失敗。
3種類あるオルタナティヴ・カヴァーのヴァージョンには、
どれもこの曲が未収録のようなので、ご注意あれ。

Burna Boy "LOVE, DAMINI Alternative Cover 3" Atlantic 075678632006 (2022)
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アフロビーツのテンプレートに落とし込んだ新作 アデクンレ・ゴールド [西アフリカ]

Adekunle Gold  CATCH ME IF YOU CAN.jpg

思いがけずフィジカルで聴くことのできた、アデクンレ・ゴールドの新作。
ナイジェリアのアフロビーツは、デジタル・リリースがデフォルトになってしまって、
CDリリースが皆無になってしまった感のあるここ数年ですけれど、
アメリカのブートレグ・レーベルから出るとは、なるほどそのテがあったか。

で、4年ぶりのCDでのご対面。
デビュー作とセカンドでは、「アーバン・ハイライフ」と自称していたとおり、
アフロビーツの定型から離れたポジションで、
独自の個性を発揮していたアデクンレでしたけれど、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-09-15
今作からはトーキング・ドラムやヨルバ語が消え、
インターナショナル・マーケットを意識して英語で歌い、
アフロビーツど真ん中のサウンドになっています。

最近はアフロ・フュージョンと呼ばれたりもしているアフロビーツですけれど、
もはやコンテンポラリーなR&Bと、ほぼ見分けがつきません。
アンビエントR&Bのサウンドの質感と、寸分変わらないサウンド・クオリティで、
現在ヘヴィロテ中のエラ・メイと続けても、しっくり聞けるくらいだから、
そのサウンドは、完全に世界標準でありますね。

そんなアフロビーツのテンプレートにみずから落とし込んだ今作、
トレンドに合わせただけじゃん、という悪口を言うのも十分可能なんですが、
ソングライティングの才はバツグンで、やっぱ非凡だわ、この人。
凡百のアフロビーツ作から、アタマひとつもふたつも抜けたアルバムが
作れる人であることを証明しています。

でも、ねえ。
デビュー作とセカンドで示してみせたように、アフロビーツという意匠を借りずに、
世界を我が元へ引き寄せる才能があるのにもかかわらず、
それをわざわざ捨てて、世界に身を寄せていくなんて、クールじゃないよなあ。
ビヨンセやドレイクといった大物に、フック・アップされたいとでも思ってる?
ウィズキッドをロール・モデルにするようなケチな連中とは、
アデクンレは違うという気概を、次作では見せてもらいたいなあ。

Adekunle Gold "CATCH ME IF YOU CAN" Mix Unit no number (2022)
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カーボ・ヴェルデの女性を称えて ルシベラ [西アフリカ]

Lucibela  AMDJER.jpg

新作と勘違いして、デビュー作の改訂版に飛びついて失敗した
カーボ・ヴェルデのシンガー、ルシベラの2作目。
今度こそ本物、6月3日に出たばかりの新作であります。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2021-10-13

今回もモルナ、コラデイラを真正面から捉えたカーボ・ヴェルデ歌謡集で、
奇をてらわない誠実な作りに、この人の歌と向き合う姿勢がよく伝わってきます。
上手く歌おうなんて自意識がみじんもみられない、淡々とした歌いぶりがいいんです。

やるせない悲しみや苦悩、困難を克服しようとする勇気、生きる喜びや感謝など、
日常生活のさまざまな場面で去来する生活感情が、
ルシベラの声を借りて、無理なくこちらの胸にすうっと入り込んできます。
けっして上手い歌ではないのに、心に染み渡るような歌を歌える人です。

今作は、カーボ・ヴェルデ女性にオマージュを捧げた作品だとのこと。
そうしたテーマに沿った12曲が選ばれ、エリダ・アルメイダの2曲のほか、
ルシベラもモルナとコラデイラを1曲ずつ自作しています。
意外な選曲は、キューバ人作曲家の
ゴンサロ・エミリオ・モレット・ロペスによるボレーロ。
エミリオ・モレットは、現在のセプテート・アバネーロの歌手の一人ですけれど、
どういう経緯でこの曲がレパートリーになったんでしょう。
この曲だけはスペイン語で歌っています。

ルシベラの和らいだ声を、弦楽器を中心にしたソフトなサウンドに包んだ
プロダクションは、デビュー作と同じくマルチ奏者トイ・ヴィエイラのお仕事。
トイはピアノ、ギター、カヴァキーニョ、ウクレレを弾いています。
かつてセザリア・エヴォーラの音楽監督だったカーボ・ヴェルデの名ギタリスト、
バウもギターを弾いています。
エッジの立った響きがまったく現れないマイルドなサウンドが、
クレオールのまろやかな音感を引き立てる、美しいアルバムです。

Lucibela "AMDJER" Lusafrica 862522 (2022)
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エネルギッシュなアフロ・ジャズ・ファンク ピーター・ソムアー [西アフリカ]

Peter Somuah.jpg

ガーナ人ジャズ・トランペッターのデビュー作が、オランダから登場。

ピーター・ソムアーは、マイルズ・デイヴィス、クリフォード・ブラウン、
フレディー・ハバード、ロイ・ハーグローヴの影響を受けて、
トランペットを学んできたという俊英。
ガーナで出会ったオランダ人のガールフレンドを追いかけてオランダへ渡ったらしく、
ロッテルダムのアート・スクールでジャズを学ぶかたわら、地元ミュージシャンたちと
ジャズ・セッションを重ね、自己のセクステットを結成したといいます。

このグループで昨年、新進気鋭のジャズ・ミュージシャンに贈られる
エラスムス・ジャズ賞を受賞して、スポンサーから3000ユーロをゲット。
それが今回のデビュー作につながったようですね。

テナー・サックス、キーボード、ベース、ドラムス、パーカッションによるセクステットは、
ピーター以外全員白人で、メンバーの名前から察するに、全員オランダ人のようです。
70年代クロスオーヴァー時代を思わせるジャズ・ファンクに、
ガーナの伝統リズムとヒップ・ホップを乗り入れたサウンドと表現すればいいのかな。
今日びアフロビートやハイライフではなく、こういうアフロ・ジャズ・ファンクを聞かせる
グループというのは珍しく、かえって新鮮に響きますね。

オープニングのタイトル曲から、
アンサンブルが一丸となって突進していく熱量が高く、スリリング。う~ん、燃えますねえ。
テナー・サックスのジェシー・シルデリンクの、
主役を食ってしまうようなブロウには手に汗握ります。
2曲目の‘Appointment’ は、冒頭アフロビートでスタートするものの、
一転ラテン・ジャズにスイッチして熱く盛り上がり、
終盤はギクシャクしたリズムに変わってエンディングとなる、面白い構成の曲。
ライナーによると、最後のリズムはエウェ人のアバジャを使ったそうです。

ガーナの伝統音楽は、短いインタールードの4曲目で聴くことができ、
ガ=アダンベ人の伝統ダンス、フメ・フメを
パーカッション・アンサンブルが演奏しています。
優雅なジャンプとキックを組み合わせたフメ・フメは、
ガ=アダンベ人のさまざまな社交の場で演じられてきたダンスですね。
70年代にムスタファ・テディ・アディが、
ガのリズムにコート・ジヴォワールのリズムをミックスして
コンテンポラリーな伝統ダンスへと刷新し、広く知れ渡るようになりました。

ゲストでギターとフルートが参加する曲があるほか、
ガーナ人ラッパーのデラシと、ロンドンで活躍する香港育ちのネパール人ラッパー、
アマズミをフィーチャーした曲もあります。
全体にセブンティーズぽいオールド・スクールなサウンドで、
新世代ジャズのニュアンスはないのに、すごくイマっぽく聞こえるのは、
サンダーキャットに通ずる魅力があるような気もしてきますね。
適度にラフな演奏が好ましく、
ライヴ感たっぷりのエネルギーを音盤に刻み込んだ傑作です。

Peter Somuah "OUTER SPACE" Dox DOX617 (2022)
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マンデ・ギターの名盤誕生 ブバカル“バジャン”ジャバテ [西アフリカ]

Boubacar Badian Diabaté  MANDE GUITAR.jpg

全編歌なしのインスト。
アルバム1枚まるごと、マンデ・ギターを堪能できるなんて、
なかなか珍しいと思って聞いてみたら、これ、珍しいだけじゃない。
名作と呼ぶにふさわしいアルバムじゃないですか。

主役のマンデ・ギタリスト、ブバカル・ジャバテ(通称バジャン)は、
その名からわかるとおり、グリオ名門ジャバテ家の一族。
幼い時、初めて手にした楽器はタマ(トーキング・ドラム)だったそうで、
その後ンゴニに持ち替え、10歳でマンデ・ギタリストのブバ・サッコと出会って
弟子入りし、ギタリストになったといいます。

その弟子入りしたブバ・サッコとは、
マンデ・ギターのスタイルを開拓したギタリストのひとりで、
アミ・コイタやカンジャ・クヤテなど多くのグリオ歌手の伴奏を務めた人なんですが、
ブバ自身は非グリオだったという変わり種。

ブバの父のイブラヒム・サッコがマリ国立伝統音楽合奏団の音楽監督を務めていて、
グリオの伝統的なレパートリーや、グリオの習わしに精通した環境にあったことから、
職能音楽家ではなく、アーティストとしてギタリストになったという、
当時のマリ社会では、型破りの才人だったのです。

バジャンが本作で演奏した11曲中8曲は、マンデの伝承曲をアレンジしたもの。
バジャンは6弦ギターと12弦ギターを使い分け、
曲により、バジャンの弟のマンファ・ジャバテとプロデューサーのバニング・エアが
サポート役として6弦ギターで加わるほか、
バイェ・クヤテがタマとカラバシで加わる曲もあります。

親指と人差し指のツー・フィンガーによってピッキングするマンデ・ギターは、
人差し指の爪をフラット・ピックのように使うオルタネイト・ピッキングを駆使します。
親指がトニックをステディに刻み、音量を絞ってなめらかに弾かれるリズム伴奏と、
アタックの強いフィンガリングによって主旋律をきわだたせるところに、
マンデ・ギターの真髄が表われています。

ンゴニやコラをギターに移し替えたといわれるマンデ・ギターですけれど、
こうして曲を聴くと、どちらの楽器を移し替えた曲なのかは、はっきりわかりますね。
ガンビアの曲という‘Kedo’ はコラ演奏のコピーだし、
バジャンの祖父が演奏していたという‘Bagounou’ では、
ンゴニ演奏をコピーしたものだと、はっきりわかります。

マンデ・ギターのそうした伝統的な側面ばかりでなく、
現代性を生かしたプレイも聴くことができます。
自作曲の‘Bayini’では、うっすらとではありますが、
マンデのメロディにフラメンコのフィールを加味しているし、
‘Miri’ では、クロマティック・スケールを使って、ジャジーな味を出しています。

本作は、音楽ジャーナリストでギタリストでもあるバニング・エアのプロデュースで、
エアが新しく立ち上げたレーベル、ライオン・ソングスからリリースされました。
バニング・エアといえば、現代のマリのグリオについて書かれた
“IN GRIOT TIME”(2000) が忘れられませんけれど、
ニュー・ヨークでアフリカ音楽のラジオ番組
「アフロポップ・ワールドワイド」も運営しています。

エアが本作を制作するきっかけとなったのは、
95年に“IN GRIOT TIME” 執筆の取材で、マリを訪問した時に遡ります。
シュペール・レイル・バンドのギタリスト、ジェリマディ・トゥンカラから半年間、
マンデ・ギターを習っていたところ、ブバカル・ジャバテを紹介され、
いつか自分を超える若い才能とトゥンカラが言ったというのだから、タイヘンです。

マンデ・ギター最高のギタリストのトゥンカラがそこまで評したのだから、
バジャンがただならぬ才能であったことは、よくわかる話です。
以来、エアはアメリカへ帰国後もバジャンと親交を持ち続け、
エアのレーベル立上げを機にレコーディングが実現し、本作が完成したのでした。

ビル・フリゼールも絶賛したという本作、マンデ・ギターの名盤誕生と呼んでいいでしょう。

Boubacar “Badian” Diabaté "MANDE GUITAR" Lion Songs 004 (2021)
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自由と民主のシンボル ウム・サンガレ [西アフリカ]

Oumou Sangaré  TIMBUKTU.jpg

ノー・フォーマット!に別れを告げ、
古巣のワールド・サッキットに戻って新作を出した、ウム・サンガレ。
うん、それが正解だよね。
ノー・フォーマット!みたいなスカしたレーベルじゃあ、ウムの良さを生かせませんよ。

ノー・フォーマット!から17年に出した“MOGOYA” を、
ポンコツとまで酷評するのは、ぼくくらいなもんでしょうけど、
同じレパートリーを3年後にわざわざ再録音、すなわち、やり直したってことは、
“MOGOYA” の制作陣への強烈なダメ出しってことでしょ。
プロデューサー不在の生音編成のイッパツ録りの方が格段に良いんだから、
“MOGOYA” の制作陣は、マジで反省すべきですね。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2020-09-10

というわけで、“MOGOYA” のプロデューサー陣は全員クビになり、
今回はウムのほか、フランス白人のニコラ・ケレと、
在仏グアドループ人ギタリスト、パスカル・ダナエがプロデュースを務めています。
ママドゥ・シディベのンゴニと、パスカル・ダナエのスライド・ギターを中心に、
バラフォンやプールの笛、ジェンベほかの打楽器といった西アフリカの楽器に、
キーボード、モーグなどの鍵盤や、クラリネット、スーザフォンなどの西洋楽器を、
曲によって使い分けしながら、アンサンブルを構成しています。

ウムは、20年に短期滞在でアメリカにいた折にロックダウンで足止めをくらい、
マリの政情不安から故国に戻ることもできなくなったんですね。
そこで思い切ってアメリカで暮らすことを考え、
仕事をしていたニュー・ヨークにほど近いボルチモアに家を見つけて買い、
一人暮らしを始めたのだそうです。
本作の曲は、ワスルの伝統曲にアダプトした
ラスト・トラックの‘Sabou Dogoné’ を除いて、
ボルチモアの家に一人こもって、書き上げたと語っています。

そしてボルチモアの自宅に、
ンゴニ奏者のママドゥ・シディベをロス・アンジェルスから招き、
3か月間、曲作りからベーシック・トラックの録音までを共同作業で行ったんですね。
ちなみにママドゥは、ウムの最初のンゴニ奏者だったという旧知の仲。
ワスル音楽の人気歌手でウムの最大のライヴァル、
クンバ・シディベのグループに引き抜かれて、クンバと共にアメリカへ渡っていたんですね。
しかし、クンバが09年5月10日ブルックリンで亡くなってしまい、
ママドゥはロス・アンジェルスに移住していたそうです。

重厚なブルース・サウンドでスタートするオープニングの‘Wassulu Don’ で、
西欧リスナー向けの演出を施したのは、スライド・ギターを弾くパスカル・ダナエ。
フランスにいるパスカル・ダナエとは、パンデミック下のファイル交換で
ミックス作業を繰り返したそうです。そうしたミックス作業を重ねていても、
ウムのワスル音楽の軸はまったくぶれておらず、
カマレ・ンゴニのリズムがしっかり息づいているのがわかりますよね。
ウムは当初、あまりに西欧リスナー向けに仕上がったこの曲の
アフリカでの反応を心配したそうですが、故国マリでも大絶賛されたそうです。

トンブクトゥを憂えたタイトル曲も、ウムの息子がアラブにルーツを持った女性と結婚して
お孫さんが生まれ、トンブクトゥの文化と無縁でなくなったことが動機になったとのこと。
マリ北部紛争で破壊されたトンブクトゥを再建するだけにとどまらず、
トンブクトゥの歴史の再構築が必要なことを、あらためて強く意識するようになったと、
ウムはインタヴューで語っています。
自由と民主を希求して闘ってきた、ワスルの活動家ならではの発言でしょう。

フェスティヴァルなどでは、アフリカのスーパー・スター扱いされるウムですけれど、
マリ民主化運動のシンボルとして登場したワスル音楽家としての原点が、
いまも揺らぎがないからこそ、ぼくはウムを支持しています。
グリオがいないワスル社会では、誰でも音楽を歌ったり演奏することができます。
ウムは、そんなワスルの自由な気風を一身に受け継いで、
世界的に成功した初のシンガーなのですよ。

いらぬ心配かも知れませんが、ウムには、ミリアム・マケーバや
アンジェリーク・キジョのようなアフリカ文化大使の役割を担って、
足をすくわれることのないよう、願いたいですね。

Oumou Sangaré "TIMBUKTU" World Circuit WCD101 (2022)
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伝統と現代を拮抗させて フェミ・ソーラー [西アフリカ]

Femi Solar  Spot On.jpg

ここのところずっと1年遅れで聴いている、ナイジェリア、ジュジュのフェミ・ソーラー。
前作“HIGHRISE” を記事にしたとき、すでに現地では本作“SPOT ON” が発売済。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2021-04-10
昨年のミュージック・マガジン6月号で、深沢美樹さんがレヴューされていて、
配信で聴けはしたものの、ようやくフィジカルCDが手に入りました。

前作は、人気ラッパーをゲストに迎えて、
アフロビーツをやるような変化球がありましたけれど、
今作はジュジュ直球6番(曲)勝負のアルバムとなっています。

4曲目をのぞいて、細かい譜割りのメロディと、軽やかにホップするリズムを特徴とする、
フェミ・ソーラー十八番のジャサと呼ぶスタイルのジュジュ。
4曲目だけはテンポをやや緩め、キーボードがゆったりとリフを弾く、
キング・サニー・アデとよく似たタイプのジュジュで、要所要所に低い声で
♪アーッ!♪ と、短い感嘆符のようなかけ声をかけるところなんて、
アデそっくりですね。

それにしても圧巻なのは、ジャサ・スタイルの曲ですね。
トーキング・ドラムのアンサンブルとドラムスのキメ、
ギターとサックスがユニゾンでキメるフレーズが、ますます複雑精緻になり、
これまで以上にスピード・アップしています。
なんかもうこのキメって、全盛期のカシオペアみたいじゃない?
そういや、カシオペアはデビュー当初、
「スリル・スピード・スーパー・テクニック」をウリにしていたけれど、
それはそのまんま、フェミ・ソーラーのジュジュにもあてはまるような。

さて、今回気になったのは、フェミのヴォーカルやコーラス隊とは別に、
フェミのヴォーカルにちゃちゃを入れるように、かけ声をかけている人物の存在。
これまでのフェミのアルバムにも登場していましたけれど、
ルンバ・ロックのアニマシオンみたいな、
なんかしゃべくってるヤツがいるくらいにしか認識してませんでしたが、
かけ声とか合いの手とは、別物のように思えてきたんですね。

今作を聴くと、単なるかけ声ではなく、
明らかにドラム・ランゲージ(太鼓ことば)をしゃべっていると思われる場面が
ちょくちょく出てくるんですよ。
トーキング・ドラムのフレーズ、すなわちドラム・ランゲージをしゃべった後に、
トーキング・ドラムが追随する(同じフレーズを叩く)場面があるかと思えば、
ドラム・ランゲージをしゃべったあとで、それに返答するような形式で、
トーキング・ドラムが叩くなどの掛け合いが聞かれるんですね。

これって、いわば、
ドラム・ランゲージ・スピーカーというべき役割の人なんじゃないのかな。
アデやオベイの時代でも、コーラス隊とトーキング・ドラムが、
ドラム・ランゲージで掛け合うのを、インタープレイの場面で聞けましたけれど、
フェミが歌っている矢先で、ちゃちゃを入れ続けるようにしゃべりまくって、
トーキング・ドラムを煽るというのは、すごく耳新しく聞こえました。

ヨルバのドゥンドゥン・アンサンブルでは、いわゆる歌手が、
ドゥンドゥン(トーキング・ドラム)と掛け合うのに、
このドラム・ランゲージを使う伝統がありますけれど、
これを大胆に取り入れたのが、このドラム・ランゲージ・スピーカーなんじゃないかな。

それが、ヨルバのドゥンドゥン・アンサンブルといった伝統のワクからはみ出た
ジュジュ最新のサウンドのなかで発揮されると、
ラッパーのフロウのようにも聞こえて、すごく耳新しく響きますよね。
こんなところにも、フェミ・ソーラーのジュジュが伝統と現代を拮抗して、
新たな地平をみせているのを感じさせます。

Femi Solar "SPOT ON" FS7 Music/Golden Point Music no number (2021)
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フジ声降臨 ティリ・レザー [西アフリカ]

Tiri Leather  WISE UP.jpg   Tiri Leather  TASTY.jpg
Tiri Leather  MALABO LIKE EUROPE.jpg

ジャケ写をチラ見して、ダメだ、コレと無視して、
長年試聴すらせずにいたという原田さんの気持ち、よーーーっく、分かります。
「ずっと聴きもしないで、ほったらかしてたんですけど、スゴいんですよ、この人」
と勧められ、第一声でドギモを抜かれました。
強烈にドスの利いた声。
こんな童顔の兄ちゃんが、これ歌ってんのか! マジで? 別人なんじゃないの!?
信じらんない気持ちで、ジャケットをまじまじのぞきこんじゃましたよ。

ぼくも、エル・スールに新着のナイジェリア盤は、全部チェックしてきましたけれど、
この人をずっと気付かずにいたのは、原田さんとおんなじ理由だったと思いますよ。
ジャケットの顔を見て、こんなひょろっとした若造じゃあ、
まともなフジなんて歌えるわけないと決めつけ、試聴しなかったんでしょう。
あぁ、これまた、自分の内にあるルッキズムなのかあ。
フジのシンガーといったら、凶悪な面構えのゴツイ顔ほど、
「歌える人」という先入観があるもんなあ。反省しきりです。

で、ジャケ買いならぬジャケ無視してた在庫の3作を全部もらってきたんですが、
どれもスゴいんだわ。これぞホンマモンの純正フジ声。
もうこの声だけで、ご飯3杯いける的な。
いつ出たのか判然としない“MALABO LIKE EUROPE” のみ、
41分5秒の1曲のみの収録。終盤でキーボードがうっすらとコードを鳴らすほかは
旋律楽器はまったく登場しない、パーカッション・アンサンブルのみの純正フジです。

ティリ・レザーのバイオがよくわからないんですが、
イバダンを拠点に歌っている、イバダン出身のシンガーのようです。
ワシウ・アラビ・パスマがフック・アップした人なのか、舎弟なのか、
パスマのライヴにフィーチャーされている映像がたくさん上がっていますね。
パスマのフォロワーであることは、その歌声からもよく伝わってきますよ。

Wasiu Alabi Pasuma  2020.jpg

パスマといえば、ヒップ・ホップと純正フジを同時発売したアルバム以来、
ずっとご無沙汰でしたが(リリース量が多すぎてフォローしきれません)、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2016-04-14
新作の“2020” でも、ガラガラ声のドスの利いたフジ声は健在でした。
そしてそのパスマとの連続聴きでも、ぜんぜん聴き劣りしないんだから、
ティリ・レザーがいかに大器か、わかろうというものでしょう。

Alh. Tiri Leather "WISE UP" Igi Nla Music no number (2020)
Alh. Tiri Leather "TASTY" Igi Nla Music no number (2020)
Alh. Tiri Leather "MALABO LIKE EUROPE" O.Y Music no number
Alh. Wasiu Alabi Pasuma "2020" Wasbar/Sarolaj Music & Films no number (2020)
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アソウフ溢れるトゥアレグ・バンド ダグ・テネレ [西アフリカ]

Dag Tenere  ISWAT.jpg

エトラン・ド・ルアイルの新作が届いて間もないんですけれど、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2022-03-04
また新たなるニジェールのバンドの新作が届きました。
といっても、昨年出ていたのを、今になって気付いたんですけれども。

タマシェク語で「砂漠の子供たち」を意味する
ダグ・テネレというバンドで、女性二人を含む7人編成。
元エトラン・フィナタワのギタリスト、グマル・アブドゥル・ジャミルと、
イブラヒム・アフメド・ギタのツイン・リード・ギター、ツイン・リード・ヴォーカルで、
作曲も二人がしています。

ニジェール、ブルキナ・ファソ、マリ出身のトゥアレグが集まったバンドで、
ニアメーを拠点に活動しているとのこと。
18年にデビュー作をデジタル・リリースして、今回の2作目となるEPは、
アフリカ文化基金(ACF)の支援を得られたからなのか、CDも制作されました。

クレジットをみていて、あれ、と思ったのが、瓢箪の水太鼓の名で、
アサカラボと書いてありますね。こういう呼び名を聞くのは初めてだったんですが、
タマシェク語の呼び名なんでしょうか。

ちなみに、水太鼓を知らない方のために、一応説明すると、
半分に切った大きな瓢箪に水を入れ、それより小さいサイズの
半切りの瓢箪を水に伏せて浮かべ、その瓢箪の表面を
バチで叩く打楽器なんですが、一般に女性が演奏します。
女性が皮の膜面を持つ打楽器を叩くのはタブー視する社会が多いため、
水太鼓やガラガラが、西アフリカでは女性用の打楽器となっているんですね。

ブルージーなギター・サウンドを前面に出したダグ・テネレは、
タカンバ色の濃いエトラン・ド・ルアイルとはだいぶ異なり、
ティナリウェンやタミクレストに通じる、
アソウフ(トゥアレグにとっての郷愁や思慕)の情感を色濃く表すバンドですね。

全6曲わずか17分50秒の収録時間ですけれど、各曲の曲想が豊かなのが印象的。
男声のドローンのような反復と、女声のウルレーションが、
トランシーな催眠をもたらすラストのタイトル曲が、2分にも満たないのは残念です。
このトランシーなグルーヴは、少なくとも5分くらい、
できれば15分以上、たっぷりと溺れてみたい曲です。

Dag Tenere "ISWAT" Dag Tenere D.L.B7752-2021 (2021)
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アンビエントなエレクトリック・アフリカ ロキア・コネ&ジャックナイフ・リー [西アフリカ]

Rokia Koné & Jacknife Lee.jpg

アルバムを聴き進めるうちに、胸のドキドキが止まらなくなりました。
プログラミングのサウンドがこんなに新鮮に響くアフリカン・ポップスを聴くのは、
サリフ・ケイタの『ソロ』以来、35年ぶりだぞ。こりゃあ、事件だ!

80年代のワールド・ミュージック時代のアフリカン・ポップスといえば、
エレクトリック・サウンドが席巻していたわけですけれど、
なかでもサリフ・ケイタの『ソロ』のサウンド・プロダクションが、
あの時代を代表した作品であったことは、いまも揺るぎない評価でしょう。

『ソロ』のサウンドを生み出したのは、
アレンジャーのジャン・フィリップ・リキエルでした。
当時サリフはリキエルについて、
「リキエルは俺の唄っていることが直感で理解できるんだ。
まるでアフリカ人みたいな奴だよ。きっと盲目だから黒人のようなフィーリングを
持っているのかもしれないな」(『アフリカン・ロッカーズ』 232ページより
エレン・リー著 鈴木ひろゆき訳 JICC出版局、1992)と発言しています。
当時のパリのスタジオでリキエルは、アフリカのミュージシャンからひっぱりだこで、
シンセ音を聞けばリキエルの仕事とすぐわかる作品が、数多く残されています。

リキエルのシンセ・サウンドが、
あまりに一時代のアフリカン・ポップスを象徴する音となったせいもあって、
その後90年代に入って、アフリカン・ポップスがアクースティック志向にシフトすると、
そのシンセ・サウンドは急激に色褪せて古臭くなり、姿を消してしまいました。
それだけに、これだけシンセとプログラミングが
全面的に展開するアフリカン・ポップスはひさしぶりで、すごく新鮮に聞こえます。

マリのグリオ出身の歌手で、レ・アマゾーヌ・ダフリークのシンガーのひとりである
ロキア・コネと、U2、R.E.M、テイラー・スウィフトを手がけたプロデューサー、
ジャックナイフ・リーの共同名義作。
(追記:グリオ出身は誤りでした。訂正いたします。2022.03.09)
ジャックナイフ・リーという人の仕事は、ぼくはまったく知らないんですけど、
この人、アフリカ音楽がわかってますね。マンデ・ポップのグルーヴを
きちんと活かしたプログラミングを施していて、
まさしくジャン・フィリップ・リキエルの仕事を継ぎつつ、
アンビエントなサウンドは、現代的にアップデートされているのを感じさせます。

これぞグリオの声といえるグリオばりのサビの利いたロキア・コネのヴォーカルが、
ぴちぴちと飛び跳ねていて、耳の快楽をこれでもかと堪能させてくれますよ。
やっぱりこの素晴らしい歌声あってこその、このサウンドですもんね。

クレジットをみると、ジャックナイフ・リーは作曲もロキアと共同クレジットとなっていて、
曲づくりから関わっているようです。
ロキアのヴォーカルは18年にパリで録音されたとあり、
レコーディングが早い段階からスタートしていたものの、その後のパンデミックによって、
ファイル交換などによって制作されたものと思われます。
ベーシック・トラックを損なわないサウンドの構築ができたのは、
そうした制作過程がかえって功を奏したのかもしれませんね。

クレジットを見ていて、あれと思ったのは、ロキアのヴォーカル録りに
パトリック・ルフィーノの名があったこと。
かつてトーゴのキング・メンサーとも来日したベニン人ベーシストですけれど、
ルフィーノはこんなエンジニアリングの仕事もするのか。
パリを拠点に活動しているので間違いないと思いますけれど、
まさか同姓同名の別人じゃないよね。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2014-05-27

ジェンベやドゥンドゥン、タマのビートをプログラミングが強化したり、
カマレ・ンゴニとミニムーグのベース音が絡むバックに、
プログラミングがドローンのように鳴り響いていたり、
聴けば聴くほど、よくできています。
ラスト・トラックの、バック・コーラスが蜃気楼のように聞こえてくる
サウンド効果なんて、すごく新しく感じますよ。

Rokia Koné & Jacknife Lee "BAMANAN" Real World CDRW239 (2022)
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アガデスの「アイルの星」 エトラン・ド・ルアイル [西アフリカ]

Etran De L’Aïr  AGADEZ.jpg

ニジェールのアガデスは、サハラ交易の拡大によって、
14世紀にトゥアレグの隊商が駐留する都市として栄え、
トンブクトゥからの往来に加えて、カノからハウサ商人が北上するなど、
多様な民族の交差点となりました。

しかし、1500年頃ソンガイ帝国に征服され、
のちにモロッコからの侵略によって町は荒廃し、人口は激減します。
19世紀になるとフランスの植民地下におかれ、
ニジェールとして独立すると90年代にはトゥアレグ反乱の重要拠点となり、
数多くのトゥアレグのギター・バンドが生まれました。

そんな征服と侵略の歴史があるアガデスをタイトルに掲げた
エトラン・ド・ルアイルの新作が出ました。
ニジェール北部の山岳地帯アイルの名を取って、
「アイルの星」と名乗ったグループは、アガデスのシンボルである
グランド・モスクのすぐそばの小さな町、アバラネで生まれ育った
兄弟と従兄弟によって、95年に結成されたファミリー・グループです。

エトラン・ド・ルアイルは、高価なミュージシャンを雇えない
労働者階級の結婚式に引っ張りだこの、
地元の下層階級の冠婚葬祭になくてはならないグループで
すでに四半世紀の活動歴を持っています。

Etran De L’Aïr  NO.1.jpg

そんな彼らのカジュアルな姿をドキュメントしたアルバムが、
18年にサヘル・サウンズから出たんですけれど、音質がヒドすぎて閉口しました。
アガデス郊外にある彼らの屋敷の外でライヴ録音したもので、
手拍子やウルレーションが飛び交うナマナマしさが、
雨季の終わりのアガデスの濃密な夜を、想像させはするんですけれどねえ。

なので、今回のスタジオ録音こそが、彼らの本領を発揮させたものといえそうです。
ニジェールのトゥアレグ人バンドというと、
ボンビーノしかり、エムドゥ・モクタールしかり、ケル・アスーフしかり、
みなこぞってロック寄りのサウンドを聞かせていますけれど、
エトラン・ド・ルアイルは地元に根差したサウンドで、
祝祭のダンス・ビート、タカンバを聞かせてくれます。

ロックぽいデザート・ブルースに耳慣れた人には、
キャッチーさに欠け、単調に思えるかもしれませんが、
これこそが、アガデスのワーキング・クラスの祝祭の場を彩る、またとないサウンド。
ジャケットの華やかな色使いのコラージュを施したデザインのなかに、
アガデスのシンボルであるグランド・モスクのミナレット(塔)が、
ひときわ存在感を醸し出しています。

Etran De L’Aïr "AGADEZ" Sahel Sounds SS068 (2022)
Etran De L’Aïr "NO.1" Sahel Sounds SS045 (2018)
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70年代カーボ・ヴェルデのラテン風味のクレオール・ポップ シキーニョ [西アフリカ]

Chiquinho  MOÇAS DE SOMADA.jpg   Chiquinho  Iefe.jpg

ローカル臭たっぷりの、このジャケットがたまんないんです。
カーボ・ヴェルデの歌手が79年に出したレコードなんですが、
場末感をかもし出す田舎くささが、味わい深いじゃないですか。
こんなマイナーなレコードが、まさかCD化されていたとは、思いもよりませんでした。

LPのジャケット・デザインから、
タイトルと歌手名のロゴタイプだけを変えているんですが、
オリジナルのデザイン性のない文字体より、
変更したCDのロゴタイプの方が、ジャケ写のチープ感にお似合いですね。
CD化で字体を変えてオリジナルより良くなるって、めったにないことだなあ。

シキーニョといえば、ブラジルのアコーディオン奏者が有名ですけれど、
このカーボ・ヴェルデのシキーニョ・ニーニャは、経歴不明の無名のシンガー。
ヴォス・デ・カーボ・ヴェルデをバックに歌った74年作と本作の2枚しか、
レコードは知られていません。

本作では、カーボ・ヴェルデ音楽を電子化した立役者、パウリーノ・ヴィエイラが
アレンジを務めていますが、まだシンセを導入する前の録音で、
オルガンとピアノにエレクトリック・ギターもパウリーノが弾いています。

サックスとトランペットの2管が加わっているのが貴重で、
ほっこりとした温かみのあるサウンドを生み出しているんです。
70年代らしく、コンパ、メレンゲ、クンビアなどラテン・リズムを取り入れた曲が多く、
カーボ・ヴェルデの伝統リズムを生かした曲は登場しません。
カーボ・ヴェルデ音楽のアイデンティファイを確立する前のサウンドともいえます。

オルガンとエレクトリック・ギターのサウンドと、
サックスとトランペットの2管がブレンドした、いなたいサウンドが、サイコーです。
のちにシンセが取り入れられて、ポップ・フナナーが登場する80年代になると、
こうしたラテン風味のクレオール・ポップは一掃されてしまうので、
このシキーニョのB級サウンドは、得難い時代の音なのでした。

Chiquinho "MOÇAS DE SOMADA" Sonovox CD129 (1979)
[LP] Chiquinho "MOÇAS DE SOMADA" Iefe IEFE010 (1979)
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カーボ・ヴェルデのサックス トティーニョ [西アフリカ]

Totinho  NHA HOMENAGEN.jpg

64年、サンティアゴ島プライアに生まれた
カーボ・ヴェルデのサックス奏者トティーニョこと、
アントニオ・ドミンゴ・ゴメス・フェルナンデス。

セザリア・エヴォーラのバンドで14年間演奏してきた人で、
セザリアの06年作“ROGAMAR” のジャケットで、
セザリアの前にデカデカと写っていた人です。

この人の99年のソロ作“SENTIMENNTAL” は、
モルナを中心としたインスト集で、ムード・テナーみたいな演奏のアルバムでした。
ストリングスを施した甘ったるさもいただけず、とっくに売却処分してしまったので、
今回見つけた12年作も、ちょっと警戒して聴き始めたのでした。

ところが、出だしから、気合の入ったテナー・サックスのブロウで始まり、
おおっと身を乗り出しちゃいました。
ベースのジム・ジョブとドラムスのカル・モンテイロが
アレンジとプロデュースを務めていて、
レコーディングも二人の名前のスタジオで行われています。

アメリカで作られた自主制作盤で、
ミュージシャンに知っている名前はまったくありませんが、
アメリカ在住のカーボ・ヴェルデ人たちなのでしょうね。
モルナ、コラデイラを中心とした爽やかなインスト集で、
小編成のバックが、緩急の利いた演奏を繰り広げています。

トティーニョの歌ごころに富んだ吹奏はギミックもなく、
ストレイトに演奏していて、甘さに流れることなく、気持ちよく聴けますね。
ヴァオリンとチェロの弦セクションをフィーチャーして、
軽快なリズムを刻むコラデイラでは、ソプラノを爽やかに吹いていて、
吹き抜ける潮風を頬に感じます

Totinho "NHA HOMENAGEN" Antonio Domingo Gomes Fernandes & Fulan Productions no number (2012)
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伝統美とコンテンポラリーの調和 ドベ・ニャオレ [西アフリカ]

Dobet Gnahoré  COULEUR.jpg

コート・ジヴォワール出身のシンガー・ソングライター、
ドベ・ニャオレの昨年出た新作。チェックをもらしておりました。
コンテンポラリーなアフリカン・ファッションを打ち出したヴィジュアルが
この人らしいですね。

Dobet Gnahoré  ANO NEKO.jpg   Dobet Gnahore  DJEKPA LA YOU.jpg

04年のデビュー作を手にしたのだって、
レニ・リーフェンシュタールの『ヌバ』を思わすジャケット写真に、
度肝を抜かれたからだったもんなあ。
そのデビュー作では、ピグミーのコーラスにインスパイアされた歌などに
才気を感じさせたものの、アフリカ音楽を外から学んだような
インテリジェンスに、やや戸惑いを覚えたのが正直なところ。

それもそのはず、この人は、アビジャン近郊のキ・ユイ村で、
アフリカ各地から集まった仲間たちと音楽中心の共同生活を
送ったボニ・ニャオレの娘さんだったんですね。
幼い頃からコミューンの音楽的な環境に恵まれ、
才能豊かなシンガー・ソングライターとなったドベは、
アフリカの伝統社会から生まれた音楽家とは、まったく違う立ち位置で育ちました。
3作目となる10年作“DJEKPA LA YOU” では、ぐっとサウンドに肉体感が増し、
ドベのヴォーカルも自信に溢れて、スケールが大きくなったのを実感したものです。

コート・ジヴォワールの内戦を逃れてフランスへ渡り、
フランス人ギタリストでパートナーのコラン・ラローシュ・ド・フェリーヌとともに、
ヨーロッパで活動していたドベでしたが、
コロナの蔓延によって故国へ戻ることを決意し、
地元のミュージシャンたちとともに制作したのが、この新作だったのですね。

アビジャンのダンス・ポップス、スーグルーのトップ・スター、
ヤボンゴ・ロヴァをゲストに迎え、ズーグルーにアフロビーツなどを取り入れた、
コンテンポラリーなアフロ・ポップを聞かせてくれます。
ドラムスはすべてプログラミングで、ハウスぽいビート使いもあるものの、
きらびやかなギターやグルーヴィーなベースが生み出すサウンドは生命感に溢れ、
未来への希望を感じさせます。

Dobet Gnahoré  COULEUR  liner.jpg  Dobet Gnahoré  COULEUR back.jpg
Dobet Gnahoré  COULEUR  inside.jpg

そんな希望に満ちた明るさは、6面パネルのジャケットや歌詞カードに収められた
ドベの装いにも溢れているじゃないですか。
伝統美とコンテンポラリーを調和させたファッションは、美麗の一語に尽きます。
アート・ディレクションを誰がしたのか、気になるところなんですけど、
なぜかクレジットはありません。スゴイ才能だと思うんですけれども。

Dobet Gnahoré "COULEUR" Cumbancha CMBCD145 (2021)
Dobet Gnahoré "ANO NEKO" Contre-Jour CJ014 (2004)
Dobet Gnahoré "DJEKPA LA YOU" Contre-Jour CJ024 (2010)
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トーゴのクール・カッチェ ジェイ=リバ [西アフリカ]

Jey-Liba  ODYSSEE.jpg

トーゴの国旗をバックにした若者が二人。
一目でトーゴのヒップ・ホップとわかるジャケットなれど、初めて目にするCD。
ジャケットを裏返すと、12年に出ていたルサフリカ盤と判明。
十年近くも前のCDなのかあ、ぜんぜん見たことないなあと、独り言ちしながら、
ワン・コインもしないアウトレット品を、救出してまいりました。

で、これが思いのほか、面白かったんですよ。
アッパーなダンス・オリエンテッドなアルバムで、
歌手とラッパーのデュオ・チームなんですね。
歌手はアブー・ジェイ=リバ、ラッパーはティエリー・ジェイ=リバとあり、
本当の兄弟かどうかは不明。

コート・ジヴォワールのクーペ=デカレによく似てると思ったら案の定で、
クーペ=デカレをトーゴ風にアレンジした、
クール・カッチェと呼ばれるスタイルなんだそう。
06年にトゥーファンというデュオが考案したダンスだといいます。
クール・カッチェは、トーゴの若者の間で瞬く間にブームとなり、
さまざまな大会が定期的に開かれているそうです。

トーゴ北部ダパオン出身の二人が、ジェイ=リバを結成したのは98年のこと。
05年のヒップ・ホップ・アワードで受賞し、
アクラでレコーディング・デビューを果たしたあと、
2枚のアルバムによって、トーゴの人気グループとなります。
3作目となる12年の本作は、インターナショナル・デビュー盤で、
ソニー・フランスの後押しにより、フランスでプロモーションもされた模様。

ポップな楽曲にダンサブルなビート、適度にヌケのあるサウンドスケープは、
ドープすぎず、リスニング用にも対応可能なアルバムとなっています。
アクースティック・ギターとジェンベの生音を生かしたトラックもあり、
エレクトロと生演奏のバランスも、いい感じですね。

トーゴのロメとブルキナ・ファソのワガドゥグを繋いだタイトルのトラックでは、
ブルキナベのラッパー、イェリーンをフィーチャーするなど、
近隣国とのコラボも盛んなようです。
クール・カッチェを知るのに、絶好な1枚でありました。

Jey-Liba "ODYSSEE" Lusafrica 662072 (2012)
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ハイブラウなアルテ トミ・トーマス [西アフリカ]

Tomi Thomas  HOPELESS ROMANIC.jpg

ナイジェリアの新興ジャンル、オルテがCDで聴けるとは珍しいじゃないですか。
オルテのプラットフォームは、サウンドクラウドやYouTubeがメインなので、
フィジカルがほぼ存在しないジャンル。
日本盤が出たレディ・ドンリは、ゆいいつの例外でした。

オルテは、アフロビーツとほぼ同じ音楽性、というより、
アフロビーツを相当聴き込んでいる人でないと、その差異を感じ取るのは難しく、
ぼくもオルテとアフロビーツの違いは、さっぱりわかりません。
オルテは音楽ジャンルとしてより、
オルタナティヴな文化運動として登場したムーヴメントと認識したほうがよく、
MTVやインターネット第一世代ともいえる、
ナイジェリアの富裕層の子女が生み出したところが、キモなんじゃないですかね。

アフロビーツのミュージック・ヴィデオを観ていると、
ハリウッドをホウフツさせる豪奢なセットやファッションに目を見張らされ、
これがあの巨大なスラム街を抱えるナイジェリアで、
本当に作られているのかと、驚かされます。
ナイジェリアの富める若者たちというヴィジュアル・イメージに戸惑いながらも、
ナイジェリア経済の急成長によって、
欧米の音楽文化を内面化した新世代の登場がそこには投影されていて、
それが、アルテだといっていいんでしょうね。

今回聴いたトミ・トーマスは、そんなアルテのシーンから出てきたアーティスト。
92年レゴスに生まれ、カノで育ち、アトランタと行き来するトミは、
L.O.S.というティーンエイジャーのR&Bグループに、
3人のラッパーとともにシンガーとして加わって10年に成功を収め、
13年からソロ活動をスタートさせています。

90年代生まれという点と、幼年・青年期に各地を転々とした育ちが、
アルテのアーティストのレーゾンデートルでしょうか。
15年に初EPを出し、16年に初アルバムを出していますが、
フィジカルで出したのは今回が初。ユニヴァーサルという大メジャーが配給しています。

R&B、ヒップ・ホップ、レゲエ、ハウス、エレクトロなど、
さまざまな音楽要素をクロスオーヴァーしていて、
アフロビーツのなかでも、とびっきり洗練されてるのがアルテだと、受け取れますね。
19分にも満たないEPですけど、ブジュ・バントンとの共演曲を含む6曲は、
どれも理屈抜きカッコいいトラック揃い。メロウなサウンドの質感にヤラれます。

Tomi Thomas "HOPELESS ROMANIC" Tomi Thomas Music 00810061165699 (2021)
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バンバラ・グルーヴの元祖 シュペール・ビトン・ド・セグー [西アフリカ]

Super Biton de Segou  Afro Jazz Folk Collection.jpg

リリース告知以来、胸をときめかせて待っていたアルバムが、ついに届きました!
かつてのバンバラ王国の都セグーが生んだ、
マリ最高のバンド、シュペール・ビトンの未発表音源集でっす!!

1曲目の‘Ndossoke’ から、バンバラ独特の泥臭いグルーヴが爆発。
期待どおりのサウンドが飛び出して来て、もう心臓バクバクもんです。
タイトルから察するに、バンバラの猟師を称える口承伝統から着想を得たものや、
バンバラ文化に敬意を示した曲で占められていると思われます。

しつこく反復を繰り返すメロディが印象的な17分を超す‘Kamalen Wari’ は、
セグーに暮らす民族のひとつであるボゾの物語のようですね。
落ち着いたリズムがバンバラとはまたひと味違い、
ボゾの漁民由来のリズムが反映されているのかもしれません。

リーダーのアマドゥ・バのトランペットが、きらびやかなロング・トーンをきめれば、
ママ・シソコのリード・ギターもよく鳴っていて、ゾクゾクしますねえ。
未発表音源集とばかり思っていたら、6曲目の‘Bwabaro’ は、
86年の最高傑作“AFRO JAZZ DU MALI” 収録の‘Bua Baro’ と同音源。
あ、既発曲も交じっていたんですね。

ラストの“Garan” も、77年にマリ、クンカンから出た青盤(KO/77.0414)の収録曲。
イントロのアタマを少しカットして、最後もフェード・アウトした
短縮ヴァージョンとなっていて、音質がやたらと悪いのは、いかがなもんすかね。
ほかにも、マスター・テープの不良箇所が数カ所あって、気がそがれます。

今回のリイシューは、シュペール・ビトンの元メンバーの、
ママ・シソコ(リード・ギター)、モディボ・ジャラ(キーボード)、
アブバカル・キサ(リード・ヴォーカル)が選曲したとのこと。
アブバカル・キサは今年4月21日に亡くなってしまい、
完成したLP/CDを見ることができなかったのは残念でしたねえ。

シュペール・ビトンは、アマドゥ・バが87年に脱退して、事実上解散となっていましたが、
08年に残されたメンバーたちによって再結成されたそうです。
え~、初耳。
それならなぜレコーディングしないんだろう。コーディネートする人間がいないのかなあ。
70~80年代の活動当時だって、録音の機会は恵まれていたとはいえなかったしねえ。
70年代のビエンナーレで何度も優勝して国立バンドへ昇格し、
名実ともにマリのトップ・バンドとなったシュペール・ビトン。
バンドの実力からしたら、レイル・バンドより確実に格上だったのに。

そんなシュペール・ビトンがマリ音楽史に残した偉業を、新しく聴くリスナーにも届くよう、
しっかりとした解説が欲しかったところなんですが、テキストは皆無。
録音データ、メンバー・クレジットなども、いっさいなし。
これははっきりいって、リイシュー・アルバムとしては失格ですね。
だって、これじゃあ、配信とおんなじじゃないの。
フィジカルで制作する意義を、どう考えてんのかねえ。
レーベル元に猛省を促したいですな。

Super Biton De Segou “AFRO, JAZZ, FOLK COLLECTION VOL.1” Mieruba/Deviation no number
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快調示す復帰作 オマール・ペン [西アフリカ]

Omar Pene  NDAYAAN.jpg   Omar Pene  CLIMAT.jpg

オマール・ペンが11年に出した“NDAYAAN” は、
オマールのソロ・キャリアとしては最高のアルバムでしたね。
シュペール・ジャモノの看板歌手として、長年にわたって活躍してきたオマールですが、
“NDAYAAN” は、シュペール・ジャモノと離れ、
フランス人ミュージシャンたちとともに制作したアルバムでした。

コロコロと鳴るバラフォンに柔らかく響くコラの音色にのせて、
優しく歌うオマール・ペンのハイ・トーン・ヴォイスは、
ヴェテランらしい円熟した味を出していて、
音数を抑えたアクースティック主体のサウンドは、シュペール・ジャモノとは対極でした。
フランス人ギタリスト、ティエリー・ガルシアが弾く、
ウクレレやウードが効いていましたね。

余談ですけれど、『ポップ・アフリカ800』に
このアルバムを選盤できなかったのは、残念でした。
ンバラの代表シンガーとして、ユッスーと並ぶオマールの立ち位置をはっきりと表すために、
シュペール・ジャモノとの25周年記念作を選んだので、
ソロ・キャリアのこちらは、泣いてもらったんです。

さて、“NDAYAAN” 以来となる、オマールのスタジオ録音が届きました。
なんと10年ぶりですね。その間にセネガルでは、
シュペール・ジャモノとの40周年記念盤が1枚出ていたようなんですが、
それはぼくも聴いていません。
なんでもオマールは体調を崩して、数年間寝たきりの生活を送っていたらしく、
復調してから、3年をかけてじっくり制作したアルバムなのだそう。
北西部のサン=ルイで深刻となっている海面上昇などの温暖化問題や
テロリズムなど、社会的なテーマが取り上げられています。

新作をプロデュースしているのは、ジャズ・ギタリストのエルヴェ・サンブ。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-06-17
驚いたのは、エルヴェ・サンブが全曲を作曲しています(作詞はオマール・ペン)。
曲づくりをすべてエルヴェ・サンブに任せるとは意外でしたが、
エルヴェはヴァラエティ豊かないい曲を書いていますよ。
プロダクションも生音主体で、ヌケのいいサウンドで、
ストリング・カルテットを効果的にフィーチャーしてます。

ドラムスにマコドゥ・ンジャイと、ユニヴァーシティ・オヴ・グナーワのメンバーでもある
フランス人ドラマーのジョン・グランドキャンプを起用したのも成功しましたね。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2019-05-09
ジョン・グランドキャンプのハネるビートが、気持ちのいいグルーヴを生み出していて、
ハネのない重いビートを叩くマコドゥ・ンジャイと曲によって使い分け、
アルバムに起伏を与えています。

アルバムのハイライトは、ファーダ・フレディとデュエットした‘Lu Tax’。
円熟して落ち着いたオマールの歌声に、
若々しいファーダの張りのある声が引き立ちます。

Omar Pene "NDAYAAN" Aztec Musique CM2340 (2011)
Omar Pene "CLIMAT" Contre-Jour CD037 (2021)
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デビュー作は朱盤でなく青盤で ルシベラ [西アフリカ]

Lucibela  2018.jpg   Lucibela   2019.jpg

わーい、ルシベラの新作が出たよと、ソッコー買ってきたら、なんと早とちり。
18年のアルバム(青盤)に1曲を追加し、
ジャケットを変えて出し直した19年新装版(朱盤)でした。
なんだよ~、それ~。こんなの、いつの間に出てたの?
新曲‘Cupim Sab’ のミュージック・ヴィデオが公開されたばかりだったから、
てっきり新作だとばかり、思いこんじゃったじゃないの。

ちぇ~、しかたないから、このアルバム、紹介しておきましょう。
思えばせっかくの良作なのに、ここでは書いていなかったもんね。

ルシベラは、86年サン・ニコラウ島の生まれ。
のちに家族とサン・ヴィセンテ島へ引越して、
ハイ・スクール時代に地元のグループ、ミンデル・ソムに参加して歌いました。
高校卒業後は、サル島やボア・ヴィスタ島のホテルで、
セザリア・エヴォーラやバナ、ティティナの曲を、観光客相手に歌っていたそうです。
12年には首都のサンティアゴ島プライアへ進出して、
セザリア・エヴォーラのギタリスト、カク・アルヴェスとも親交を持ちました。

16年にリスボンで歌手デビューを果たし、
17年秋にトイ・ヴィエイラのディレクションのもと、デビュー作を録音、
翌18年に出たのが、本作(青盤)なのでした。
デビュー作にしてこの落ち着きぶりは、相応のキャリアを積んできたことの証しですね。

柔らかな歌声で、ほんのりとした情感、爽やかな哀愁を伝える歌い口が、
モルナやコラデイラにベスト・マッチで、クレオール歌謡の良さを引き立てています。
トイが弾くアクースティック・ギターの柔らかな響きを中心に、
カヴァキーニョやヴァイオリン、アコーディオンなどのアクースティックな音づくりによる
過不足ない伴奏も上質で、申し分ありません。

ところが、19年改訂版(朱盤)はちょっと驚きました。
ラストの追加曲のほかにも、違いがあって、
ゲスト歌手2人を招いてオーヴァーダブを施し、
ルシベラとデュエットを演出した曲が2曲あるんですよ。

‘Mal Amadu’ には意外や意外。ライ歌手のソフィアン・サイーディを迎えています。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-04-28
ライの節回しでなく、モルナに合わせた泣き節を聞かせてはいるものの、
う~ん、どうでしょうねえ。あんまりいい相手役だとは思えないなあ。
アントニオ・ザンブージョとかの方が良かったんじゃないですかね。
ちなみにこの曲、19年版では‘Sai Fora’ とタイトルが変えられています。

そしてもう1曲、‘Dona Ana’ が、さらにオドロキというか、うげっ!
なんと、アンゴラのボンガだよ。はぁ、カンベンしてくれ~。
いつものボンガ節で、キモイ震え声に、げんなり。

なんでまた、こんな余計な演出したかなあ。
完全なるキャスティング・ミスで、せっかくの名作を汚したとしかいいようがありません。
ジャケは19年改訂版(朱盤)の方が、ステキなんだけどね。

というわけで、19年改訂版(朱盤)、オススメいたしません。
ぜひ18年のオリジナル盤(青盤)をお聞きください。
そしてなにより、新作に期待したいですね。

Lucibela "LAÇO UMBILICAL" Lusafrica 762562 (2018)
Lucibela "LAÇO UMBILICAL" Lusafrica 762972 (2019)
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アフロビート詩人は精神科医 イクウンガ [西アフリカ]

Ikwunga  DIBIA.jpg

トーシン・アリビサラのキャリアをチェックしていて、
イクウンガの15年作に、コンガとパーカッションで参加していることに気付きました。
そういえばイクウンガって、話題にしたことがありませんでしたね。
せっかくなので、イクウンガについて、ちょっと書いておこうかな。

イクウンガことイクウンガ・ウォノディは、
ナイジェリア南東部リヴァーズ州の州都ポート・ハーコート出身の詩人。
アフロビート・ポエトリー(略称 Abp)という分野を切り開いたクリエイターです。
90年代初め、レゴスのシュラインで
フェミ・クティのオープニング・アクトとして出演していたイクウンガは、
バリトンのよく響く声で、ピジン・イングリッシュの自作詩を朗読します。
そのディープ・ヴォイスは、リントン・クウェシ・ジョンソンに通ずる魅力がありますね。

Ikwunga  CALABASH VOL.1.jpg

04年に出したデビュー作は、フェラ・クティのエジプト80で音楽監督を務め、
のちにフェミ・クティのポジティヴ・フォースの音楽監督を務めたデレ・ソシミが制作、
デレ・ソシミらしいクールなアフロビート・サウンドで仕上げています。
曲は、デレ・ソシミとベーシストのフェミ・エリアスによる共作となっています。
ウガンダの少年兵を題材とした‘Di Bombs’ がヒットし、
スーダン救済プロジェクト・アルバムの“ASAP” に収録されたほか、
IBFジュニア・ミドル級チャンピオン、カシム・オウマのドキュメンタリー映画
“KASSIM THE DREAM(チャンピョンになった少年兵)” の
サウンドトラックにも採用され、イクウンガのシグニチャー・ソングとなりました。

Mr Something Something & Ikwunga  DEEP SLEEP.jpg

07年には、カナダのアフロビート・バンド、
ミスター・サムシング・サムシングとコラボしています。
イクウンガの故郷であるニジェール・デルタの原油流出汚染などの社会問題のほか、
アフリカにおける精神障害の差別や偏見の問題に取り組んでいるイクウンガの、
精神科医としての問題意識をテーマとした詩などを朗読しています。

イクウンガには、音楽家の顔のほかに、精神科医の顔もあるんですね。
アメリカ合衆国のライセンスを得た精神科医としてボルチモアで従事しており、
ボルチモアの精神医学会の主要メンバーのひとりにもなっています。

そして、トーシン・アリビサラが参加した15年の3作目は、
イクウンガの最高作となりました。
バリトン・サックスを加えたホーン・セクションに、
重低音を利かせたリズム・セクションなど、
1作目からは見違えるほどボトムに厚みが増しています。
イクウンガのポエトリー・パフォーマンスも、ツバが飛んでくるようなアグレシヴさをみせ、
グンと表現力が増しましたね。

サウンド・プロダクションも凝っていて、オープニングの‘Kola Nut’ では、
トーキング・ドラムにアップライト・ベース、さらにはコラまでフィーチャーして、
アフロビート定型のサウンドから距離を置いたデザインをしているところが新鮮です。

本作も、詩はイクウンガ、曲はデレ・ソシミとフェミ・エリアスの共作がベースですが、
キーボードのジョン・マクリーン作のレゲエでは、
イクウンガがリントン・クウェシ・ジョンソンばりのダブ・ポエットを聞かせます。
さらにそのリントン・クウェシ・ジョンソンの‘Sonny's Lettah’ に、
イクウンガのポエットをアダプトした‘Sonny Lettah’ までやっているのにはビックリ。
しかも、曲はフェラ・クティの‘Dog Eat Dog’ をまるまる借用していて、
アフロビート・ダブ・ポエットとなっています。

このほかにも、ソロ・ギターをバックに朗読するトラックがあるなど、
趣向に富んだアルバムとなっていて、アフロビート・ポエトリーの大力作です。

Ikwunga "DIBIA" Rebisi Hut & Dele Sosimi Music no number (2015)
Ikwunga "CALABASH VOL.1 : AFROBEAT-POEMS BY IKWUNGA" Rebisi Hut no number (2004)
Mr Something Something & Ikwunga The Afrobeat Poet "DEEP SLEEP" World WR004CD (2007)
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アフロ・ソウル・ジャズの傑作 トーシン・アリビサラ [西アフリカ]

Tosin Aribisala  AFRIKA RISING.jpg

アメリカ在住ナイジェリア人ドラマー、トーシン・アリビサラの18年作。
ローパドープから出ていたんですね。知らなかったなあ。

セッション・ドラマーとして活躍している人で
フェミ・クティの“SHOKI SHOKI” や
フェラ・クティ・トリビュートの“RED HOT + RIOT” で、
トーシンのドラミングが聞けるほか、
イェルバ・ブエナの大傑作“PRESIDENT ALIEN” でとりわけ印象的だった
アフロビート+ラテン・ヒップ・ホップの‘Fire’ で叩いていたのが、トーシンでした。

Yerba Buena  PRESIDENT ALIEN.jpg   Tosin  MEAN WHAT U SAY.jpg

これまでアフロビート関連のレコーディングが目立っていただけに、
トーシンが08年に自主制作で出した初リーダー作は、意外でした。
ドラムスを核にした、ドラム・クリニックのようなアルバムだったんですよね。
トーシン自身が語りを入れたり、男女コーラスを配したり、
バラフォンやパーカッションを演奏をする曲もあるんですが、
メインはトーシンのドラムス。

これを聴くと、かなり繊細なドラミングをするプレイヤーだということがわかります。
リム・クリックの音質がとてもきれいで、
軽妙なサウンドの奥義は、しなやかなグリップにありそう。
アフロビートからジャズやヒップ・ホップを柔軟に横断できる、
洗練されたスタイルを確立しているドラマーです。

そんなヴァーサタイルな才能が、18年作に発揮されています。
アメリカのメリーランドとナイジェリアのレゴスで、
別々のセッションでレコーディングされています。

レゴス・セッションでは、ドラムスはマイケル・オロイェデに任せ、
トーシンはヴォーカルに専念。バークリーで学んだマイケル・オロイェデは、
ラバジャやマーカス・ミラーとの共演歴もあるレゴスのトップ・プレイヤーの一人です。
レゴス・セッションには、シェウン・クティ&エジプト80のベーシストのカヨデ・クティが
参加しているほか、昨年リーダー作“AFRICA TODAY” を出した
トランペット奏者のエトゥク・ウボンが、フリューゲルホーンを吹いています。

アフロ・ジャズの‘Sunday Evening Mood’ の熱演も聴き応え十分ですけれど、
レゴス・セッションの白眉は‘Bekun Pe’ かな。
南アのジャイヴとハイライフのメロディを合体させた、魅力的なトラックです。

そしてメリーランド・セッションでは、オープニングのアフロビート‘Oro Ajoso’ が
キレまくっていて、実にクール。う~ん、カッコイイねえ。
続くタイトル曲は、トーキング・ドラムをフィーチャーしたアフロ・ソウル・ナンバー。
トーシンのポリリズミックなドラミングが、めちゃくちゃシャープで、
フィル・インの小技も利きまくり。バランスの良さといい、本当にいいドラマーですねえ。

ローパドープから出ていたのに、日本未入荷でまったく話題にならなかったのがナゾな、
アフロ・ソウル・ジャズの傑作です。

Tosin Aribisala "AFRIKA RISING" Ropeadope RAD403 (2018)
Yerba Buena "PRESIDENT ALIEN" Razor & Tie 7930182894-2 (2003)
Tosin "MEAN WHAT U SAY" Tosin Aribisala no number (2008)

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