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マダガスカル南東部のダンス・ポップス、マンガリバ トミノ [インド洋]

Thominot  Hazolahy.jpg

話題の映画『ギターマダガスカル』、もうご覧になりましたか?
関東近郊のアフリカ音楽ファンは、みなさん観たことと思いますが、
これから全国各地で公開されるので、お近くの際はぜったい必見の映画であります。
こんな本格的なアフリカ音楽のロード・ムーヴィーが日本で製作されるなんて
夢のようですよ、ホント。監督含む製作スタッフの若い世代の活躍に、
惜しみない拍手を送りたい気持ちでイッパイです。

映画にも出演しているギタリスト、デ・ガリが06年5月に来日した際、
当時小学6年生だった次女と一緒に日比谷公園のライヴに行ったことがあったので、
「観る?」と誘ったら、「行く~♡」というので、一緒に観てきました。
次女も今は大学3年生で、時の流れを感じずにはおれませんね。
デ・ガリのライヴ(イヴェント「アフリカン・フェスタ」への出演)を観ていた当時、
まさか彼が出演する映画を日本人が撮るなんて、想像だにしませんでしたもの。

D'Gary.jpg

映画館に行ったら、出演者のCDも販売していて、
トミノのマダガスカル盤が置いてあったのには、びっくり。
トミノのCDは持っていなかったので、これ幸いと買ってきました。
実はこの映画を観てはじめて、トミノがやっているマンガリバという音楽が
マダガスカル南東部にあることを知ったんでした。

いや、正確にいうと、マダガスカル南東部にすごく面白い音楽があることは、
トラニャロ(フォール・ドーファン)のグループ、ラバザで気付いていたんですけれど、
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2012-04-13
それをマンガリバと呼ぶことは、この映画で初めて知ったんです。

しかも、ラバザのリーダーであるR・クリスト・ベニーは、トミノのグループ、
ハズライの元メンバーで、04年にハズライを脱退し、ラバザを結成したのだそう。
アンタヌシ人の伝統音楽をポップ化したこのマンガリバは、
前のめりに疾走するダンス・ミュージックで、映画の中でも、
トミノに「故郷のステップをやってくれよ」と促された少女が、
鮮やかなダンスを披露するシーンが印象的でした。
マンガリバという音楽は、トミノの父親が60年代に作り出したというので、
そうだったのかあと、思わず膝を打ったのでした。

この映画を初めて見た時、5人ものミュージシャンのロード・ムーヴィーという贅沢な内容に、
これを完成させるまで、いったい何度現地に足を運び、
何年かかったのかと思わずにはおれませんでした。

106分に詰め込まれた情報量の多さは、
たとえば、故郷へ向かうギタリストの旅に同行し、親戚一同との再会シーンばかりでなく、
憑依儀礼や改葬の儀式といった宗教儀礼まで撮っていて、
撮影の許可を得るのは、けっして容易ではなかったはずです。
ちらっとしか登場しないシーンに、
使われずじまいとなったフィルムに記録されているだろう部分を想像しては、
その内容の濃さに圧倒されてしまいました。

だから、この映画がたったの2か月間で一気に撮ったという話を聞いた時は、
そんなことが可能なものなのかと、本当にビックリしてしまいました。
アフリカで仕事をした経験のある人なら、よくわかると思うんですが、
とにかく思うように事の運ばないのが、アフリカという土地柄です。
日本なら1日でできることが、平気で1週間、
ヘタすれば1か月かかってもできないなんてことがザラな場所で、
これを2か月で撮ったなんて、奇跡としか言いようがありません。

その秘密を、パンフレットにあったトミノの言葉に見つけました。
「撮影の中で一番印象深かったことは何ですか」という問いにトミノは、
「私の生まれた村を訪ねた時、私たちが訪ねたライ・アマン・ドゥレニベと呼ばれる
村々の長たちに対し、日本の人たちが示した敬意です」と答えています。
『ギターマダガスカル』でマダガスカルの人々が彼らの生活と文化を包み隠さず見せたのは、
撮影クルーたちが敬意と共感を持って彼らに接した、その姿勢こそにあったのでしょう。

Thominot "HAZOLAHY" Gasy Karavane no number (2013)
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地産地消されるマラガシ・ポップ ラダマ・アントワーヌ [インド洋]

Radama Antoine  Ry Malala.jpg

今回手に入れたマダガスカル盤のディスクは、すべてCD-R。
インレイ、ディスクがちゃんと印刷されているCDが3分の1、
ソフトケース仕様のCDが3分の1、
インレイもレーベルも家庭用のジェットプリンターで印刷した
ホームメイドCDが3分の1といったところで、
正直、この粗製CDじゃ、海外で販売しようにも、輸入業者は扱わないでしょうねえ。
先月入手したセネガル盤もほぼ全部CD-Rでしたけど、
パッケージのクオリティは一応ちゃんとしてたもんなあ。

というわけで、地産地消されるのみの、国外には知られぬままのマラガシ・ポップ。
かつてのワールド・ミュージック・ブーム時代には、
ヘンリー・カイザーとデヴィッド・リンドリーが水先案内人を務めたり、
フランスのコバルトがマダガスカルのさまざまな音楽を紹介していましたけれど、
それも今や昔。またもミュージック・リスナーにとって、秘境の地に戻った感があります。

マダガスカル音楽の記事連投の最後にご紹介するのも、そんな現地仕様の1枚。
ソフトケース入りの粗製CDで、ミャンマーやカンボジアのCDソフトケースより一回り小さく、
ディスク1枚ぎりぎり入る四角形のサイズ。
そのボロっちさにタメ息ももれますが、
現地の人にとっては、このCDだって、けっして安い値段ではないはず。

聴く前から、いろいろ考えさせられてしまいますが、
ラダマ・アントワーヌとは、ジャケットにも写るギタリスト兼作曲家の名前。
タリカ・ラダマ・アントワーヌのタリカ(グループの意)を省いて、グループ名にもしていて、
脇に写る奥さんのハガが歌手を務めています。

中央高原南部フィアナランツォアのグループのようで、ラダマが弾くギターのほか、
ベース、シンセサイザー、ドラムスにサックス2人が加わった7人編成のようです。
「ようで」を連発して恐縮ですが、クレジットはないし、情報がなくてよくわからないのですよ。
軽快なハチロクに加え、歌謡調ポップスも歌っているところが、
中央高原のグループらしいところ。
ハガのヴォーカルがさわやかで、メンバーとのハーモニーも飾らない素朴な美しさがあり、
とても気持ちよく聞けます。

ヴァリーハなどの伝統楽器を使用せず、普通のギター・バンド編成ながら、
マダガスカルらしさを溢れさせているところがこのグループの良さで、
とりわけ、シンセのセンスがいいのには感心させられました。
アフリカのローカル・ポップスのダメさが、シンセの使い方にあるといっても過言でないので、
このグループのシンセ奏者のパートごとに音色を使い分ける的確さは、花丸もの。

べったりと和音でスペースを埋めるようなことをせず、サウンドに適度なスキマを与え、
アコーディオンやヴァイオリンの音色を模したりしながら、華やかに盛り立てています。
サックスの使い方も効果的で、こういったサウンドの組み立てが全くできない、
今のナイジェリアのフジのミュージシャンたちに、これをお手本に聴かせてやりたくなりますね。

Radama Antoine "RY MALANA" S’Peed Pro/Super Music Pro/Mada Pro no number
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ぴっちぴちのツァピキ オンジャ [インド洋]

Onja.jpg

ダミリやテタといったギター・バンド・ミュージックで、
すっかり有名になったマダガスカル南部の音楽、ツァピキ。
これまで男性シンガーしか聴いたことがありませんでしたが、
オンジャという南部トリアラ出身の女性シンガーを知りました。

09年の本作がデビュー作だそうで、
ぴちぴちとはじける健康的な歌声は、痛快そのもの。
すっかり気に入っちゃいました。
でも聴く前は、ちょっと心配してたんですよねえ。
というのも、深澤秀夫先生が「音楽や曲として見るべきものがありません」と、
ブログで酷評されていたもんだから。
オンジャがソロ・デビュー前に在籍していたトリアラの人気グループ、
ティノンディアで再出発すべきとまでおっしゃられてたので、どんなものかと思ってたんですが。

伝統色を強く打ち出すティノンディアに比べ、
オンジャの方はポップ色を強く打ち出していて、
そこが先生はお気に召さなかったのかな。
でも、ぼくはこのデビュー作、いい出来だと思います。

のっけからすごいスピード感で飛ばしていて、
ハイトーンでシャウトするオンジャのヴォーカルは切れ味鋭く、爽快です。
南ア音楽とも親和性の高い、ツァピキ特有のグルーヴィなサウンドが全面展開されていて、
アコーディオンや硬質なベース・ラインがいいアクセントとなっています。

3曲目の泥臭いコール・アンド・レスポンスなんて、もろに伝統音楽といった感じで、
女声のヒーカップ唱法も飛び出すかけ声の激しさに、気分もあがります。
ハチロクの3拍目を強調したこのリズム、すごく耳残りしますねえ。

オンジャのインタビューを読むと、南部で行われる伝統的な儀式で、
男たちの格闘技の試合の際に、選手を激励するために女性たちによって踊られる
ロドリンガというリズムを取り入れているほか、バナイキというリズムもやっているそうです。

そうした南部のルーツを取り入れつつ、レゲエやスローな歌謡調のナンバーも取り上げ、
バラエティ豊かにポップにまとめあげたサウンドは、上出来じゃないですかね。
楽曲もオンジャ自身が書いていて、ソング・ライティングの才能も確かです。
ちなみにオンジャは、ティノンディア時代に07年の民音の招きで来日しているんですね。
その時はティノンディアTinondia が、ティノディアTinodia と書かれていました。

最後に、お断りを。
出身によって、「ツァピク」「ツァピカ」とさまざまに発音されますが、
今後は「ツァピキ」で統一したいと思います。

生気溢れる健康的なツァピキ、ぴっちぴちのオンジャです。

Onja "TAMBITAMBY" Tropik Prod/Super Music Pro no number (2009)
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バオバブの並木道でキララキ バリンジャカ [インド洋]

Barinjaka.jpg

マダガスカル南部のダンス・ポップで、キララキというスタイルが流行しているということは、
何かの記事で読んだような、おぼろげな記憶はあったものの、
代表する歌手やバンド名もわからなければ、
ぼくもそれ以上、YouTube などで探したりもしなかったので、
すっかりキララキという名前自体を忘れていました。

つい最近深澤先生のブログで、ツィリバという男性シンガーが
キララキのトップ・スターだということを知り、がぜんキララキに興味がわいたんですが、
VCDはあるものの、CDが見つかりません。
現在のマダガスカルのメディアの主流はVCDなので、
人気歌手でもCDがなく、VCDとDVDしかないということも珍しくないんですよ。
なんだか、インドネシアやミャンマーあたりの事情と似ていますね。

結局ツィリバはベスト盤しか見つからず、ベスト盤を敬遠するワタクシとしては、
他にキララキのシンガーを探して見つけたのが、バリンジャカという若手シンガー。
ヤスっぽいジャケット・デザインが、もろにローカル仕様ではありますが、
主役のバリンジャカくん、まだ十代にも見えるルックスで、ティーン・アイドルといった雰囲気。
マラガシ・ガールから、キャーキャーいわれてるんじゃないですかね。

さー、どんなサウンドが出てくるのかと、CDをトレイにセットすると、
急速調のダンス・ナンバーが飛び出し、あ然。うひゃー、こりゃ痛快ですねえ!
身体が痙攣するかのようなこのビート感、シャンガーン・エレクトロに通じるところもありますよ。
前のめりに突っ走るリズム感の気持ちよさったら、ないですねえ。

ベースがヴォーカルとユニゾンでメロディを弾いたり、奔放なラインを生み出すあたりは、
ジンバブウェのスングラをホーフツとさせます。
カボシをカッティングする軽やかなリズムが、風のように吹き抜け、
曲によって使い分けられたアコーディオン、オルガン、シンセの鍵盤楽器が、
サウンドを豊かに染め上げていきます。
バリンジャカくんのヴォーカルには、うっすらとオートチューンもかけ、
コミカルな味も出しつつ、キュートな魅力をアピールしていますよ。

プロダクションはローカルそのもののチープさなのに、
それが音楽をまったく損なってないという、このすばらしさ。
むしろ立派なスタジオで高価な機材を使ったら、
このサウンドの味は出せないだろうなあと思わせるところが、痛快です。

このキララキを生んだのは、チュレアールに次ぐマダガスカル西部第2の港町のムルンダヴァ。
メナベ地域圏の州都であるムルンダヴァは、マダガスカルの代表的な風景として有名な、
バオバブの並木道で知られるところですね。

あの風景の下では、こんな音楽が奏でられてるのかあ。
人々が中腰で連なりながら、腰を振ってダンスする様子が、ヴィデオでも観れますけど、
ああ、現地でキララキを体験してみたいですねえ。

Barinjaka "BEVOHOKA TSY MANAMBADY" no label no number (2013)
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サレギのプリンセスからクイーンへ ヴァイアヴィ・シラー [インド洋]

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社会人類学を専門にマダガスカルで長年研究されている深澤秀夫さんから、
最近のマダガスカルのポップスで面白い人を、いろいろと教えていただきました。
なんせマダガスカルのローカル・ポップはあまりに数が多くて、
どの人を聞けばよいのやら、困っていたところだったんです。

現地を誰よりよく知る深澤さんの水先案内があれば鬼に金棒なわけで、
教えていただいた名前を頼りにCDを聴いてみたら、これが全部大当たり。
うっひゃー、マダガスカルのポップ・シーン、活気に溢れていますねえ。
見てくれこそ、ボロっちい感は否めないローカルCDですけれど、
中身の音楽はピカイチ。欧米人が関わってお行儀よく作られたアフリカン・ポップスを
蹴散らすような痛快なアルバムばかりで、すっかり嬉しくなってしまいました。

まず、このけばけばしいジャケをご覧くださいな。
まるでテクノ・クンビアみたいなお水っぽいデザイン。
これ、アフリカン・ポップスのセンスと、ちょっと違うよねえ?
強烈な場末感漂うCDは、水先案内がなければ、とても手を伸ばせません。

もろウィッグとわかるパツキン・ヘアのぽっちゃりオネエさんは、ヴァイアヴィ・シラー。
マジュンガ州北西部出身のサレギの女性歌手です。
のっけから、スピード感いっぱいのハチロクのサレギが飛び出して、
うひゃーとのけぞり、目の覚める思いがしました。
主役をステージに呼び込むかの如く、
コーラスが「シ・ラー! シ・ラー! シ・ラー! シ・ラー!」と掛け声を上げ、
いきなりもう総立ちなライヴ気分。いやー、アがるねえ!

ブレイクを多用したリズム・アレンジ、
打ち込みなど一切使わない、人力リズム・セクションの小気味よさといったらありません。
シンセを使いつつも、アコーディオンを巧みに絡ませるので、
サウンドが単調にならず、チープな印象もぜんぜんないところが花丸もの。

ティアンジャマというグループのダンサーからキャリアをスタートし、
歌手に転向してからは、サレギのトップ・グループ、
ジャオジョビのジュニア・メンバーなどの活動を経て、
04年にソロ・デビューをしたシラー。

サレギ初の女性歌手で、「サレギのクイーン」と称されるニニ・ドニアにあやかって、
当初シラーは「サレギのプリンセス」と呼ばれたそうですが、
人気の移り変わりが激しいマダガスカルのポップス・シーンにあって、
いまや「サレギのクイーン」の称号はシラーのものになってしまったのだとか。
それもナットクの、全編ゴキゲンなダンス・ミュージック、
サレギ100%なヴァイアヴィ・シラー、11年の4作目です。

Vaiavy Chila "ZAHO TIAN’NY VADIKO" Tropik Prod no number (2011)
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前進するマロヤ ランディゴ [インド洋]

Lindigo Mile Sek Mile.jpg

すごいぞ、ランディゴ。進化し続けてますね。

前作からまたひと回りスケール感を増した新作を聴いて嬉しくなり、
リーダーのオリヴィエに、「素晴らしいね」とフェイスブック経由でメッセージを送ったら、
10分と経たずにリプライが帰ってきました(あれ? レユニオンとの時差って…)。
文面は、今まさにノッてるミュージシャンならではの、
自信に満ち溢れた言葉が溢れていて、来日した時の人懐っこい、
くりっとしたアリヴィエの目が思わず瞼に浮かびましたよ。

新作はパーカッション音楽であるマロヤをミクスチュアしてモダン化する方向性と、
ルーツを掘り下げながら自分たちの立脚点をしっかりと見据えようとする二つのベクトルが
がっぷり四つに組んで、どちらも譲らぬところにスゴみを見せた快作といえます。

なんでもオリヴィエの自宅の中庭で、たった3日感で録音したそうですが、
聴けばなるほどとナットクできる、すさまじい集中力がびんびん伝わってきます。
日頃のライヴで鍛えた実力が、ぎゅっと凝縮されて爆発していますよ。
ヘヴィーなビートを繰り出すパーカッション陣と
コーラスとコール・アンド・レスポンスするオリヴィエのヴォーカルが弾けまくりながらも、
演奏はけっしてラフにはならず、キリリと引き締まっているところが素晴らしいんですねえ。

一方、アフロビートやファンク、エレクトロの要素を取り込んで、
マロヤをイマの音楽として前進させようとする取組みも、前作以上にこなれています。
共同プロデューサーでもあるフランス人アコーディオン奏者のプレイが、
まるでマダガスカルのアコーディオンのように響き、
う~ん、インド洋音楽がわかってるなあ、という感じがします。
サックスを起用したトラックでも、新たな可能性を感じさせてくれますよ。

そして今回ウナらされたのが、南インドの打楽器を取り入れたトラック。
まるでインドの民俗音楽のように聞こえるこの曲は、
レユニオンに南インドから大勢の季節労働者が流入した歴史を踏まえています。
04年にこの世を去った伝統マロヤの重鎮グランムン・レレのアルバムで、
マロヤにタミール文化が溶け込んでいることを示す曲があったことを思い出しました。

ラストにボーナス・トラックとして収録された、オリヴィエ家の中庭で行われたとおぼしき、
マロヤ・セッションのセルヴィ・カバレに、伝統マロヤがいきいきと息づいているのが感じられます。

Lindigo "MILÉ SÈK MILÉ" Hélico HWB58125 (2014)
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ツァピキの結晶 テタ [インド洋]

Teta  BLUE TSAPIKY.jpg

潮騒の響きと超絶技巧のギターが鮮烈だった、
マダガスカル南部ツァピキのギタリスト、テタのデビュー作。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2011-11-21
3年のインターバルを経てリリースされた2作目は、
前作同様、テタのギターと歌をクローズ・アップしたアルバムに仕上げられています。

キラソア・ノメンジャナハリーがバッキング・ヴォーカルと小物打楽器を奏するほかは、
1曲でアコーディオンがゲストに加わるのみというシンプルさで、
その一貫した制作姿勢には潔さを感じますね。
ツァピキの魅力を広く世界に紹介する、フランス生まれのマダガスカル人プロデューサー、
フランソワ・バラフォマンガの仕事です。

自在に指盤を飛び回りながら、弦を爪弾くギターと、
つぶやくように歌うかと思えば、奔放にシャウトもする、
ちょっと若い頃のジルベルト・ジルに通じる、ひょうひょうとしたヴォーカルの魅力は、
今作でも存分に発揮されています。
テタが弾くギターのフレージングって、彼が歌うヴォーカル表現そのままをなぞったものなんですね。
アフリカン・ギターの中でももっとも高度なテクニックを駆使したギターと、
野性味あるヴォーカルは、ツァピキの泥臭い音楽性を純化させた結晶のように、
ぼくには聞こえます。

マダガスカルの太陽、風、海の匂いを運ぶオーガニックなサウンドは、
インド洋音楽らしい突き抜けたものを感じさせる素晴らしさ。
アフリカ音楽ファン、ギター・ファンの双方にアピールする快作です。

【お断り】 当初この記事は「ツァピク」と書いていましたが、
その後「ツァピキ」が一般的な読み方と判明したため、タイトル・本文を修正しています。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2015-06-07

Teta "BLUE TSAPIKY" Balafomanga 860262 (2014)
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アフロ・オリエンタル・ポップ シェブリ・ムサイディ [インド洋]

Chébli Msaïdie  HEZA.jpg

うわぁ、すごく軽やかになったなあ。
コモロ(グランド・コモロ島)出身のシンガー、シェブリ・ムサイディの新作。
前作でもアクースティック主体のヌケのいいサウンドを聞かせていましたけど、
本作はさらに前作の路線を推し進めて、
シンプルなサウンドを保ちながら、より完成度をあげることに成功しましたね。

シェブリ・ムサイディはフランスのアフリカ音楽レーベル、ソノディスク社のプロデューサーで、
パパ・ウェンバやコフィ・オロミデなどのプロデュースを務めるかたわら、
ソロ・アルバムを制作してきた人です。
ソロ・デビュー当初は、スークース調の無国籍風アフロ・ポップといった感じで、
あまり興味を持てなかったんですが、前作の“HALLÉ” からプロダクションがぐんと良くなりました。

今作もアクースティック・ギターを軸に、ソプラノ・サックス、アコーディオン、親指ピアノのサンザに
男性/女性コーラスなどを曲によりフィーチャーして、爽やかな海洋性ポップを聞かせます。
リシャール・ボナの影響をうかがわせるコーラス・ワークなど、
ナイーヴな美しさに満ちたサウンドの心地よさは、もうパラダイス気分になりますね。

前作では自身のルーツであるターラブを歌っていましたけれど、今回はターラブはなし。
かわりに、ムラユぽいメロディをチャチャチャにのせて歌う“Parfum” のほか、
ハワイ音楽を聴いているような錯覚を覚える“Mungu” など、
コモロ人らしいインド洋文化混淆の音楽性をさりげなく示しています。
う~ん、アフロ・オリエンタル・ポップでしょうかね。

異色のトラックは、コロンビアのボゴタでリミックスしてチャンペータに仕上げた“Ulaya Colombia”。
ルンバ・コンゴレーズとチャンペータをミックスするとは面白い試みです。
元バントゥー・ド・ラ・カピタールのヴェテラン・シンガー、テオ・ブレイス・クンクをゲストに迎え、
デュエットしたルンバ・コンゴレーズのラスト・ナンバーまで、あっという間の13曲。
長年のプロデューサー業の手腕が冴えたインド洋ポップスです。

Chébli Msaïdie "HEZA" Weedoo no number (2013)
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マラガシ・ブルージー ララ・ジャーヴァ [インド洋]

Lala Njava  MALAGASY BLUES SONG.JPG

マダガスカルでこんなブルージーな歌、はじめて聴きました。

『マラガシ・ブルース・ソング』というタイトルそのものの曲が並んだアルバム、
5人兄弟姉妹グループのジャーヴァで歌手を務めていた
ララ・ジャーヴァのソロ・デビュー作です。

ララは若い頃、近所に暮らしていたママ・サナが歌うシャーマニックな歌に強い影響を受け、
マダガスカルの伝統的なメロディにエモーショナルな歌の表情を吹き込んだ、
独自の個性を作り出していったんだそうです。

内面にぐーっと沈み込んでいくような歌は、なるほどシャーマン的。
喉をつめた苦味のある発声はブルージーな薫りを放ち、聴き手を捉えて放さない魔力があります。
ララがフランスのディープ・フォレストや
フレデリック・ガリアーノのアルバムにゲストに起用されたのも、
心の奥底の襞を揺らすような、ディープな歌声の質にあったのかもしれませんね。

このアルバムでは、元ジャーヴァのメンバーたちがララのバックを務め、
ギター、ベース、ドラムスという標準編成で、マダガスカルの伝統楽器はまったく使っていません。
それにもかかわらず、ヴァリハのフレーズを移し変えたギターなど、
サウンドは強烈にマダガスカルの伝統を感じさせるものとなっていて、
従来のマラガシ・ポップにない新鮮さに溢れています。

以前、マリのグリオ歌手バコ・ダニョンが、ンゴニやコラなどの伝統楽器を一切使わず、
ギターを中心にしたアンサンブルで聞かせたアルバム“TITATI”(07) がありましたけれど、
ララが本作で聞かせたアンサンブルも、あの名作に匹敵するものといえますね。

マダガスカルを代表するアコーディオン奏者レジス・ジザヴがゲスト参加しているんですが、
ララの音楽性をよく理解し、アコーディオンの華やかな響きを抑えたのは大正解。
ハーモニカのようにも聞こえる蛇腹の響きを強調し、
ブルージーなサウンドを盛り立てて効果を上げています。

寄せては返す波のような静かな反復を繰り返す“Blues Song” は、
メロディが希薄で語り物ともいえるような曲ですけれど、
マラガシ・ブルージーな魅力をいっぱいに湛えています。

Lala Njava "MALAGASY BLUES SONG" Riverboat TUGCD1069 (2013)
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伝統マロヤをアイデンティファイした新世代 サルム・トラディシオン [インド洋]

Salem Tradition Waliwa.JPGSalem Tradition  KRIE.JPGSalem Tradition  FANM.JPG

インターFM「ザ・セレクター」の次回テーマは、「レユニオン音楽歴史物語」。
インド洋に浮かぶレユニオン島音楽の戦前録音から現在までの歩みを追いながら、
古くから歌謡化して発展してきたセガと、
近年再評価されるようになったマロヤの17曲を選曲しました。

選曲をしていてあらためて感じ入ったのが、伝統マロヤの魅力です。
もう7年も前の話になりますけれど、マロヤの重鎮グランムン・レレの日本盤解説(*)で、
「クレオール文化が生んだ豊かで繊細なパーカッション音楽」と表現したことがあります。
*『ゼルヴラ』ライス HMR-5013

パーカッション音楽のマロヤに、あえて「繊細」という形容詞を付けたのは、
当時絶賛されていたコノノへのあてこすりでした。
コノノのうわっつらの<音の衝撃>ばかりがもてはやされ、
かなりアフリカ音楽を聴き込んでいるようなファンですら、
パーカッションのみを伴奏に歌うマロヤのことを、「素朴で単調」などと言うのに反発して、
解説ではかなり皮肉ぽい書き方をしたおぼえがあります。

コノノのわかりやすい<爆音グルーヴ>には飛びつけても、
パーカッション・アンサンブルが織り成す複雑なリズムや、
ポリリズムの面白さに気付けないというのは、
要はアフリカ音楽の魅力がわかってないってこと。
そんな批判を書き連ねた一文だったわけなんですが、
最近ではジェンベやンビーラを演奏する人も増え、
パーカッション音楽の繊細なニュアンスやグルーヴが
かなり理解されるようになったんじゃないのかなあ。

そうは言っても、今回の選曲にあたっては、
伝統マロヤばかり何曲かけても飽きられそうだから、
1曲だけにするかななどと、最初は考えていたのでした(←弱気)。
そこで、グランムン・レレ、ダニエル・ワロ、
サルム・トラディシオンを選曲してみたんですが、
軽妙なレレ、重厚なワロ、フレッシュなサルムと、三者三様でとても1曲に絞れず、
結局3曲ともかけることにしました。

なかでもサルム・トラディシオンのみずみずしさは、飛び抜けてましたね。
シャーマンの民間信仰や奴隷文化のくびきから解き放たれた
若き世代のレユニオン人のアイデンティティを高らかに表現していて、
聴いているだけで、背筋がぴんと伸びるかのような思いがしたものです。

今回選んだサルム・トラディシオンの曲は、ぼくが彼らの最高傑作とみなしている、
レユニオンのインディからリリースされた、01年のデビュー作のライヴ盤の中の1曲です。
本作のあと、彼らはフランスのインディゴに移籍して、
スタジオ録音の傑作“KRIE” “FANM” の2作を出して解散してしまいましたが、
デビュー作のエネルギッシュなライヴ演奏は、そのスタジオ録音さえも凌いでいました。

このローカル・リリースのデビュー作はほとんど出回らず、
日本に入ってきていないので、聴いたことのある人は皆無かも。
楽しみにしていてくださいね~♪
もちろん伝統マロヤばかりでなく、
ノスタルジックな南国歌謡のセガから最新のマロヤ・ジャズまで、
レユニオン音楽の歴史を振り返ります。放送は8月29日木曜日23時からです。

Salem Tradition "WALIWA" Les Escales LEM0104 (2001)
Salem Tradition "KRIE" Cobalt 09358-2 (2003)
Salem Tradition "FANM" Cobalt CD100 (2005)
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未来へ進め、少年少女マロヤ団 ザナカ・マロヤ [インド洋]

Zanaka Maloya  KWEZI.JPG

これはびっくり。
なんとレユニオンの少年少女によるマロヤ・グループですよ。
メンバーは9歳から15歳までの男の子6人と女の子1人。

顔や身体に南部アフリカの民族にみられるようなペインティングを施し、
カヤンブやルレほか各種パーカッションを奏でながら、
伝統的なマロヤを元気いっぱいに歌います。

まだ子供なのでビートは軽く、重厚なリズムは打ち出せませんけど、
大人が手伝わず、全部自分たちで演奏してるんだから立派です。
なんだか聴いていたら、自分の子供が演奏してる親の気分になってしまって、
がんばれーと、声援を送りたくなってしまいました。

Youtubeで検索してみると、CD収録曲のPVのほかにも、
アマチュアが写した地元のコンサートなどが多数あがっていました。
メンバーがバク転したり、アクロバットなダンスを披露したりと、
元気ハツラツなパフォーマンスぶりも、なんとも微笑ましい限りです。
さらに頼もしく思ったのは、全曲、リーダーのギャエトン・ニトハムくんが
作曲していること。大人顔負けというか、今後がますます楽しみじゃないですか。

マロヤが09年にユネスコの無形文化遺産に登録されてからは、
ネガティヴにとらえられていた奴隷文化が、
レユニオン文化のアイデンティティとしてポジティヴに再評価され、
教育の場でも活用されていると聞きますが、
果実は確かに実っているんですね。

未来へ進め、少年少女マロヤ団!

Zanaka Maloya "KWEZI" Klbass Production KL055 (2012)
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レユニオンのクレオール・ポップ イェラ [インド洋]

Yela  MA KALOU.JPG

世界的なマーケットにのることなく、レユニオン島の中だけで流通しているアルバムは
かなりの数があるようですが、入手するのが難しくてフォローするのもひと苦労です。
今回いくつか聴くことのできたレユニオンのアルバムの中では、
ファブリース・ルグロがダントツの出来でしたけど、
このイェラという女性シンガーのアルバムもなかなかポップで、気に入りました。

ぼくの大好きなマルチニーク出身のジャズ・ピアニスト、マリオ・カノンジュが全面参加し、
リシャール・ボナの良きライヴァルのカメルーン人ベーシスト、
エティエンヌ・ンバッペも1曲参加しているんですよ。
エティエンヌはボナほどの知名度はまだありませんが、
ザヴィヌル・シンジケートで活躍し、ジョン・マクラフリンなどとも共演した人。
フーン・タンの『ドラゴンフライ』にボナとともに参加してるといえば、
ワールド・ファンも興味をそそられるかな。
この二人が脇を固めているんだから、サウンド・クオリティはばっちりですね。

イェラはセガやマロヤといった地元レユニオンの音楽はもとより、
マダガスカルのサレギにアフロビートやグナーワまで取り入れ、
ソウル/ジャズのテイストで無理なくミックスした、クレオール・ポップに仕上げています。
イェラのチャーミングなヴォーカルがさわやかなタイトル曲では、
マリオ・カノンジュのスウィンギーなピアノ・ソロも楽しめます。

♪Africa, Maloya ♪と女性コーラスが連呼する、
グルーヴィーなアフロビートの“Dodosya” とは対照的に、
マロヤ・ナンバーの“Oyala” “Ti Moon V.2” や、
ゲンブリをフィーチャーした“L'exilee” は一転してミスティックでクールな仕上がり。
その洗練されたサウンドに、思わず引き込まれます。
ラストのシークレット・トラックまで聴きどころ満載で、耳をひきつけて離さない1枚です。

Yela "MA KALOU" Yela Mizik DMC004R (2007)
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マロヤを生かしたシンガー・ソングライター ファブリース・ルグロ [インド洋]

Fabrice Legros  NÉNIN.JPG

すごいな、レユニオン。

マロヤ再興に沸き立って、若い才能がぞくぞくと現れているんですね。
去年来日したランディゴのような伝統寄りのマロヤを演奏するグループから、
現地で圧倒的人気のダヴィ・シカールのように、コンテンポラリーなサウンドの中に
マロヤをブレンドしてみせるシンガー・ソングライターまで、若いレユニオン人たちが
マロヤの伝統を多彩な方法でブラッシュ・アップしているのには、目を見張ります。

そうした中で、ぼくがもっとも買っているのがメディ・ジェルヴィル。
ジャズ・ピアニストとしてマロヤ・ジャズを進化させるだけでなく、
一級品のクレオール・ポップに仕上げるセンスは、
これまでのレユニオンのミュージシャンにない抜きん出た才能を感じさせます。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2012-04-15

とりわけ11年改訂作“FO KRONM LA VI” は、ルーツ・オリエンテッドでありつつ
ハイブリッドなミクスチャー・センスをいかんなく発揮した快作。
これまでレユニオンのどんなミュージシャンも到達できなかった、
高度なレヴェルの音楽性を獲得した歴史的傑作です。
『定盤1000』のアフリカ音楽の40枚にも、
レユニオンを代表する1枚として迷うことなく選んだんですけど、
輸入盤も入ってこなければ、日本盤もいっこうに出ないし、
まったく知られないままとなっているのが、くやしいったらありません。

そのメディ・ジェルヴィルがプロデュースに加わったシンガー・ソングライター、
ファブリース・ルグロが08年にリリースしたデビュー作を聴いたら、
これがまたとびっきりの快作で、驚くやら嬉しいやら。
コンテンポラリーなサウンドの中に、しっかりとマロヤの伝統を活かす一方、
メランコリックなソングライティングやソフトな歌い口は、
広くポピュラリティを得られる資質の持ち主といえます。
ラウル・ミドンがマロヤを歌ったみたいな曲もあったりして、
アピール次第で十分ヒットも期待できる人ですよ。

経歴を調べてみると、69年、レユニオン島南部の町サン・ピエールの生まれ。
90年から94年までレゲエ・バンドのバスティエにサックス奏者として参加したあと、
95年から1年間パリへ渡って音楽を勉強し直し、
レユニオン帰郷後、メディ・ジェルヴィルなどのグループで活動してきたそうです。

これまで書き溜めてきた曲を歌ったこのデビュー作は、
メディ・ジェルヴィルのバンド・メンバーを中心に20人近いミュージシャンが参加。
自主制作に近いインディ作品ながら、そのクオリティはハイ・レヴェルで、
世界的なマーケットに十分耐えうる内容となっています。
ぜひ流通を良くして、多くの人に届けてほしい作品ですね。

Fabrice Legros "NÉNIN" no label FL001.08 (2008)
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コモロの月 ムウェジ・ワック [インド洋]

Mwezi WaQ..JPG

インド洋に浮かぶ群島のコモロというと、忘れられない写真があります。
夕闇に落ちていく港を広角レンズで切り取った遠景写真で、海沿いの白く大きなモスクと、
停泊している舟が夕陽の残照を浴びて黄金色に光る様子が、強く目に焼きついています。
アフリカとアラブとアジアが海のシルクロードで結ばれたイスラームの島という
エキゾティックなイメージは、ザンジバルとも共通していますが、
ザンジバルのように観光化されていないコモロは、
どこかうらぶれた貧しさを隠せず、その写真もどこか儚く、哀しくみえました。

そんなコモロの日常を活写したムウェジ・ワックのアルバムは、
コモロの歴史や文化を継承した、質の高いポップ・アルバムに仕上がっています。
漁に向かう男が歌うワークソングをフィールド・レコーディングした曲に始まり、
海の男を象徴する逞しいポリフォニー・コーラスや、
ハチロクのはじけるビートにのったダンス・チューンを聞かせます。
ほかにも、住民の多くが信仰するスーフィーのチャントを取り入れた曲や、
70年代のターラブのヒット曲のカヴァーなども収め、
コモロ文化の多様性がにじみ出たバラエティ豊かなアルバムとなっています。

<コモロの月>を意味するムウェジ・ワックは、中高年メンバー9人によるグループ。
メンバーの中にバコがいたのには、おやと思いました。
バコは、フランスのコバルトから00年に“QUESTIONS” という傑作を出した
マヨッテ島出身のシンガー・ソングライター。

Baco.JPG

“QUESTIONS” では、ンゴドロやンゴマなどのコモロの伝統リズムを生かしながら、
レゲエやフラメンコも取り入れたモダンなコモロ音楽を聞かせていましたが、
本作はより伝統寄りのサウンド・アプローチによって、
アンディ・パラシオのガリフナ音楽とも共通する、ディープなアウラを獲得しています。

メンバーが操る楽器も、マダガスカルのマルヴァニと同じ起源を持つ箱琴のンゼンゼや、
アラブのガンブースを起源とする5弦楽器のガブシなど、
アジアとアラブから流れ着いてコモロで土着化した楽器がフィーチャーされ、
コモロ音楽を知るのにも絶好の1枚といえます。

Mwezi WaQ. "COMORES : CHANTS DE LUNE ET D’ESPÉRANCE" Buda Musique 3721042 (2012)
Baco "QUESTIONS" Cobalt 09300-2 (2000)
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レユニオンのクルーナー マキシム・ラオープ [インド洋]

Maxime Laope  CHAPEAU L’ARTIST.JPG

レユニオンのヴィンテージ録音を復刻するタカンバから、クレオール歌謡の名歌手
マキシム・ラオープのキャリアを集大成した2枚組アルバムが、
ついにリリースされましたよ!
タカンバがリイシューしたレユニオンの名楽団、ジュール・アルランダ、ルル・ピトゥ、
クロード・ヴィン・サンの編集盤にマキシムが歌った録音が多数収録されていたので、
いずれマキシムの単独フル・アルバムも出すだろうと思ってたんですよね。

マキシム初録音の49年のSPから、89年のEPまで録音順に44曲を並べた本作は、
タカンバならではといえる、ずっしりと重みのあるCDブック仕様。
120ページに及ぶブックレットには、全曲歌詞はもちろんのこと、
解説、バイオグラフィ、ディスコグラフィが完備されており、
これぞリイシューの鑑といいたい労作です。

ディスコグラフィを見ると、マキシムの録音のほとんどはSPとEPで、
ソロLPは90年に出した1枚だけ。
このレコードは、ぼくもお目にかかったことがありません。
ぼくがマキシムを初めて知ったのは、晩年にあたる94年に出したCD“HOMMAGES” で、
アコーディオンやバンジョーの響きもノスタルジックなセガの味わいに、
いっぺんでファンになったものでした。

Maxime Laope_Hommages.JPG

その後マキシムのアルバムを探し回りましたけど、
CD時代になって出した5作は、アクースティック・サウンドの“HOMMAGES” を除き、
すべてチープなシンセがメインのエレクトリックなセガばかりで、がっかりでしたね。
“HOMMAGES” に収録された曲のオリジナル録音を聴きたくても、
LP時代にも過去のSPやEPがLP化されたことはなく、
タカンバが復刻するまで、ずっと聴くことができなかったのです。

あらためて録音順に並べられたCDを聴いていくと、
シャンソン・クレオールにセガのリズムが溶け込み、
歌謡セガが成熟していくさまが手に取るようにわかりますね。
解説によれば、レユニオンの多くの流行歌手は
シングル片面でクレオール語によるセガを歌い、
もう片面でフランス語によるポップスを歌うのが常だったそうですが、
マキシムはフランス語のポップスを嫌い、レユニオンのフォークロアに根差した
クレオール・ソングを歌うことにこだわったのだそうです。

当時公衆の面前で歌うのがはばかれていたマロヤも歌い、
このCDにも<マロヤ>をタイトルに織り込んだ3曲が収録されています。
のどかなラジオ時代を思わせるほっこりとした歌ですけれど、
マキシム、気骨の人だったんですね。

レユニオンを代表するクルーナー歌手であり、セガ黄金時代を飾った
マキシムの代表曲を完全網羅した本編集作は、
クレオール歌謡の粋がぎゅっと詰まった最高作。
最近マロヤの再評価によって注目の集まるレユニオンの音楽ですけれど、
LPやCD時代には聴くことのできなかった、
レユニオン音楽がもっとも良かった時代の録音も、お聴き逃しなく。

Maxime Laope "CHAPEAU L’ARTIST!" Takamba TAKA1218
Maxime Laope "HOMMAGES" Piros CDP5209 (1994)
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インド洋のポリリズム ランディゴ [インド洋]

20120729_Lindigo_Lafrikindmada.JPG   20120729_Lindigo_Maloya Power.JPG

レユニオンの新進マロヤ・グループ、ランディゴがフジロックに出演すると聞き、
あ~あ、またフェスだけ参加かと盛り下がっていたら、なんと単独コンサートが実現。やったあー。
マロヤのグループが来日するなんて、本当にひさしぶりのことですよ。
最初に来たのがダニエル・ワローで90年、その次がグランムン・レレで95年だから17年ぶり。
そのレレ翁も04年、74歳で亡くなってしまい、時は流れるですね。
予習用にランディゴの前作“LAFRIKINDMADA” も買って、準備万端。

Lindigo01.JPG気分わくわくで迎えた7月29日、
いやー、インド洋のポリリズムに気持ちよく踊れました。
サラヴァ東京というハコもステージと
お客さんの距離が近く、
一体感があって良かったですね。
リーダーのオリヴィエ・アラストのヴォーカルは、
CDで聴く以上にパワフルなうえ、
パーカッション・アンサンブルも
キレのあるビートを叩き出していました。

感心したのはリズムのヴァリーションが豊かなことで、
伝統的なマロヤばかりでなく、
カボス、ジェンベ、バラフォン、
コラのミニチュアみたいな8弦ハープといった
マダガスカルやアフリカ内陸の楽器も使って、
バラエティ豊かなリズムを楽しませてくれました。

特に面白かったのが、明らかにアフロビートの影響を感じさせる4分の4拍子。
ウッドブロックやハイハットを使いながら、ホーン・セクションもギターもキーボードもいないのに、
アフロビートそのもののビートを繰り出すのは新鮮でした。
CDでマロヤを聴くとフェイドアウトで終わる曲が多く、
グランムン・レレの時もなんとなく終わるエンディングが、ピリッとしないなあと思ったものですけど、
ランディゴは全曲ばちっとキメて終わるんですね。
曲の途中でブレイクを入れるアレンジも巧みでした。

Lindigo02.JPGLindigo03.JPG

終演後、リーダーのオリヴィエ・アラストにグランムン・レレが来日した時の写真をみせると、
なんとメンバーのフレデリック・マディアがグランムン・レレの親戚とのことで、
オリヴィエもフレデリックも写真に大興奮。
その写真はコンサートを撮ったものではなく、
小学校で行われたワークショップで、サトウキビを材料に
レユニオンの打楽器であるカヤンブ(大型のシェーカー)を小学生たちと一緒に作り、
最後に小学生たちとグループが共演した風景を撮ったものだったんですけど、
オリヴィエもフレデリックも写真に指さしては、
「あいつは……、こいつは……」と話がはずみました。
やっぱり狭い島のこと、マロヤを演奏する同士はみな知り合いなんですね。
オリヴィエは、「今日歌った曲にもレレ翁に捧げた歌詞があったんだよ」と言い、
マロヤの伝統が若い世代に逞しく継承され、
確かな発展をしていることを目撃できた一夜となりました。

【蛇足的疑惑】ステージでオリヴィエがバンドを紹介するとき、
「リンディゴ」と発音していて、あれっ?
フランス語の発音だと「ランディゴ」だけど、
レユニオン・クレオール語では「リンディゴ」と読むのかな。
オリヴィエに質問するのを忘れちゃって、あとになって後悔。訊いとけばよかったなあ。

Lindigo "LAFRIKINDMADA" Cobalt 138829 (2008)
Lindigo "MALOYA POWER" Hélico HWB58123 (2011)
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奴隷文化が生んだマロヤを掘り下げて ランディゴ [インド洋]

Lindigo Maloya Power.JPG

海老原政彦さんがレユニオン音楽を紹介した音樂夜噺で、
メディ・ジェルヴィルに次いで印象に残ったアルバムが、このランディゴでした。
マロヤをベースに、バラフォンやンゴニといったアフリカの楽器も使って、
マロヤのアフロ的成分をより深く掘り下げようとしているグループです。

このグループの面白さはなんといっても、効果的な楽器の使い方にあります。
たとえば、ビリンバウ、カポエイラ、サンバ・ジ・ローダなどを歌詞に織り込んだ“Beleza” では、
ブラジルのビリンバウと同じ楽器で、レユニオンでボブレと呼ばれる民俗楽器を大きくフィーチャーし、
バイーアのアフロ・ブラジリアン音楽と共振してみせます。
ボブレは、普段マロヤの演奏のなかであまり目立った使われ方をしないので、
これほど鮮やかにボブレとビリンバウの関係を示して見せたのには感心しました。

この曲では、16世紀、無人島のレユニオンにアフリカの奴隷が連行されて生まれたマロヤと、
ブラジルに送られた奴隷たちが生み出したバイーアの音楽文化の歴史を、
鮮やかに示してみせたというわけです。
この曲を含め、アルバム全曲を書いたリーダー兼シンガーのオリヴィエ・アラストが、
マロヤの歴史を深く理解しているのはもちろんのこと、
アフリカ音楽ばかりでなく、ブラジル、ジャマイカなどの音楽にも造詣が深いことが
どの曲からもしっかりと伝わってきて、すっかりまいってしまいました。

アコーディオンを使った演奏も、クレオールぽいセガにするのではなく、
よりアフロ色の強いディープなサウンドに仕上げているし、
バラフォンを使った演奏では、マリのネバ・ソロを思わせるサウンドを聞かせます。
ンゴニを使った“Lamour” の三連リズムやメロディなんて、まるでグナーワみたいじゃないですか。

メロディカを使っているのも、またユニークですね。
ダブまで取り入れているのは、明らかにオーガスタス・パブロの影響にせよ、
マロゲなどといってマロヤとレゲエを安直にミックスしていたかつての連中とはまったく深みの違う、
ブラジルやカリブの奴隷文化が生み出した音楽への共感が伝わってくるようです。

メディ・ジェルヴィルといい、ランディゴといい、自分たちをアイデンティファイする音楽として、
マロヤを深く捉え直そうとしているレユニオン新世代の誕生は頼もしい限りで、
今後マロヤがどのように展開していくのか、楽しみです。

Lindigo "MALOYA POWER" Hélico HWB58123 (2011)
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マロヤを太い根っ子にしたジャズ・ピアニスト メディ・ジェルヴィル [インド洋]

Meddy Gerville  FO KRONM LA VI (Fr).JPG   Meddy Gerville Fo Kronm La Vi (US).JPG

先々月の音樂夜噺では、海老原政彦さんがレユニオンから持ち帰られたCDを
いろいろ聞かせていただいたんですが、
なかでも抜きん出ていたのが、
マロヤ・ジャズを演奏するピアニスト、メディ・ジェルヴィルでした。
その時に流されたダニエル・ワロ作のマロヤ・ナンバーの“Barmine” にシビれ、
曲が終わるなり、イェー!と思わず声を上げ拍手してしまった、おバカな私。
すんません、場所もわきまえず。あんまりにもカッコよかったもんで。

で、その“Barmine” が収録されたメディのアルバム
“FO KRONM LA VI” をソッコー手に入れたんですが、
いや、このアルバム、すごい傑作ですね。
コンテンポラリー・ジャズの側面も楽しめる、一級品のクレオール・ポップ・アルバムです。
メディはピアノをプレイするばかりでなく、全編で歌ってもいるんですが、
甘い声の持ち主で、歌手としても魅力のある人です。

マロヤ・ジャズというので、聴く前は、また小器用なジャズ・ミュージシャンが、
マロヤのリズムだけ借用してんだろと思ったら、そんな低次元の作品ではありませんでした。
これまでもレユニオンには、マロヤとレゲエをミックスしたマロゲだの、
ズークとミックスしたマズークだの、マロヤを表面的に取り入れた、
ココロザシの低いミクスチャー・アルバムがクサるほど出ていたので、
つい警戒してしまったんですけど、その頃から20年近く経って、
レユニオンのポップスもレヴェルが上がったのを実感します。

それにしても、メディはすごい。
自作曲はすべて6拍子か変拍子。
カヴァー曲も、スティングの6拍子曲“It's Probably Me” や
デイヴ・ブルーベックの5拍子曲“Blue Rondo A La Turk” を取り上げるなど、
変拍子の急速調リズムに鮮やかにのりながら、流麗なピアノ・ソロを披露しています。

Meddy Gerville Jazz Amwin.JPG

さらに、メディのジャズ・ピアニストとして才能を発揮したアルバムに、
06年のストレイトなジャズ作“JAZZ AMWIN” もあります。
こちらも6拍子を中心に変拍子が満載で、メディの体内に、
8分の6拍子のマロヤのリズムが完全に血肉化しているのを実感できます。
どの曲からも、じっさいは鳴っていないカヤンブ(マロヤで使われる大型シェイカー)の
リズムが聞こえてくるようです。

ドラムスにオラシオ “エル・ネグロ” エルナンデス、
ベースにドミニク・ディ・ピアッツァを起用したのも大正解で、
二人の卓越したテクニックによって、6拍子系のリズムがしなやかにグルーヴします。
この二人が参加していると聞いたら、興味をそそられるジャズ・ファンも多いのでは。

“FO KRONM LA VI” はレユニオンでも大きなセールスを上げ、
その後、曲を一部削り曲順を変えた新装版が、全世界に向けて再発売されました。
ぼくも最初に買ったのが12曲入りの新装版のアメリカ盤(写真右)の方で、
後から17曲入りのオリジナルのフランス盤(写真左)の存在を知りました。
どちらもジャケットはほぼ同じで、
わずかにロゴタイプのみが微妙に違っていますが、CD番号は異なります。

オリジナルから削られたのは、
メディのピアノとマロヤのパーカッション隊による短いインタールードのインスト演奏で、
逆に新装版には、スティングの“It's Probably Me” が追加収録されています。
マロヤ・ジャズを標榜するメディらしさは、
オリジナル盤の方がくっきりと表れているといえますが、
新装版のスティングのマロヤ・カヴァーも秀逸なので、
どちらが良いかは迷うところです。

Meddy Gerville 7eme Ciel.JPG

昨年リリースされた新作“7ÈME CIEL” は“FO KRONM LA VI” のヒットの余勢で、
よりコンテンポラリーな仕上がりとなっていて、
クレオール・ポップの好アルバムとなっています。
こちらはジャズ色がやや後退して、フュージョンぽくなったともいえるかな。
メディのマロヤ・ルーツがホンモノであることが、ラスト曲でさらりと表れていて、
ゲスト参加したサックス奏者の父とともにマロヤを演奏しています。
メディがマロヤを太い根っ子としていたのは、父親譲りだったというわけですね。

Meddy Gerville "FO KRONM LA VI" Muzik Export Association MG006.08 (2008)
Meddy Gerville "FO KRONM LA VI" Muzik Export Association MG008.11 (2011)
Meddy Gerville "JAZZ AMWIN" Muzik Export Association MG005.06 (2006)
Meddy Gerville "7ÈME CIEL" Muzik Export Association MG007.11 (2011)
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アンタヌシのダンス・ポップ ラバザ [インド洋]

Rabaza  Mitsangana Zanaray.JPG

カネラ嬢があまりにかわいくって、思わず最初に取り上げてしまいましたけど、
ひさしぶりに、マダガスカルの地元CDをあれこれ手に入れました。
マルヴァニの名手トンボ・ダニエルや、マダガスカル特有のブラスバンドなど、
その中身はさまざまなんですけど、ディスクがどれもCD-Rというのは、少々残念。

とはいえ、内容はいずれもしっかりとスタジオで制作されたものばかりで、
なかにはそのまま世界で通用しそうなクオリティのものもあります。
これだけのものがありながら、国外に流通しないのは、もったいないですね。

なかでも注目したいのは、2001年に結成されたラバザというグループ。
マダガスカル南東部、トゥリアラ州アヌシ地方フォール・ドーファン出身のグループで、
この地方に暮らすアンタヌシ人の伝統的なダンス音楽を現代化し演奏しています。
ここのところマダガスカル南部の音楽に注目を集まるようになり、
南西部の町チュレアールで盛り上がるツァピキは世界にも届くようになりましたが、
ラバザは同じ南部でも、東側のアヌシ地方の伝統音楽をベースとしています。

ラバザが演奏するのは、ダンス音楽のカトレハキ、冠婚葬祭の音楽サランドラ、
トランスするための儀式音楽カラタキというアンタヌシ人の伝統音楽だそうで、
アンタヌシの民俗楽器にベースとドラムスを導入し、ダンス・ポップに仕上げています。
ちなみにドラムスは、ベース・ドラム抜きのスネア、ハイ・ハット、フロア・タムのみのセットです。

リーダーのR・クリスト・ベニーが、素朴な手製の弦楽器ピティキ・ランガイを掻き鳴らし、
男女コーラスを従え、目の覚めるようなビートで駆け抜けるんですが、これがスゴイ。
ぴちぴちと飛ぶ跳ねるハチロクや、疾走する4分の4拍子の小気味良さは、目の覚めるフレッシュさ。
キレのある掛け声や指笛も乱れ飛ぶ、圧巻のダンス・ミュージックですが、
イキオイ一辺倒でなく、コーラスのハーモニー・アレンジなどはよく練られています。

欧米のディストリビューターの目にひっかかれば、
このまま世界デビューできること、確実な傑作じゃないですかね。
ぜひWOMEXなどを通じ、世界に飛び出てほしいものです。

Rabaza "MITSANGANA ZANARAY" Tropik Prod/Super Music Pro no number (2009)
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マダガスカルのスウィート・リトル・シックスティーン カネラ [インド洋]

Kanella  Amoureuse De Toi.JPG

きゃ~わい~♡♡♡
偶然見つけたYouTubeのヴィデオで、ハート射ぬかれました。

マダガスカルのアイドル女性シンガー、といっていいんでしょうね。
マラガシ・ポップのニュー・スター、カネラちゃんでありまっす!
いつかこのコのアルバムを聴いてみたいなあと思っていたら、
マダガスカルの現地盤のカタログで、運良く見つけちゃいました。

kanella madagascar と打ち込んでググれば、
彼女のヴィデオがYouTubeに2本載っているので、ぜひ観てもらいたいんですけど、
簾のような編み込みのドレッド・ヘアを振り乱し、
華奢な身体で踊るその姿は、まさに熱帯の妖精。
アイドル趣味のないオヤジさえも、夢中になっちゃいましたよ。

カネラちゃんは1992年12月10日生まれ。
アルバムには2009年7月リリースと書かれているので、逆算すると、録音時なんと16歳!
スウィート・リトル・シックスティーン!! ぴっちぴちなわけだぁ。

内容は打ち込みを中心としたトロピカル・ポップで、
80年代ズークを思わせるぎんぎんのデジタル・サウンド。
時代がひとめぐりしてしまったせいか、今このサウンドを聴くと、かえって新鮮に響きますね。
ズークやメレンゲやサルサを取り入れたサウンドは、めちゃくちゃカラフルです。
ヴィデオでも観れる“Katy, Katy” は、
懐かしやメレンブーティ・ガールズを思い起こすメレンハウスで、
四つ打ちを強調したトラック・メイクは、90年代のラテンハウスを思わせます。

サウンドのキーマンは、作曲・アレンジを務めたマックセス・セプシオン。
90~00年代にマラガシ・ポップのスター歌手だったマックセスは、
プロダクションのツボをよく心得ているようです。
ローカルな低予算作とはいえ、キャッチーな曲を揃え、
抜けるような青空と白い砂浜をイメージさせる底抜けのポップ感覚は、
80年代のラ・カンパニー・クレオール以来のハジケっぷりで、胸をすきます。
こんなにケレン味のないトロピカル・ポップを聞けたのは、何十年ぶりでしょうか。

マラヴォワのようなメロディーのクレオール・ポップスもあれば、
レユニオン音楽のマロヤまでやっているのにはビックリ。
コーラス・パートで♪ マロヤ、マロヤ、マロヤ、マロヤ~♪と歌い、
マロヤの特徴であるカヤンブのリズムも取り入れています。
ヴァースのパートはマロヤのメロディーでなく普通のポップス調(セガ?)で、
アクースティック・ギターがハチロクのリズムを刻む、面白い仕上がりとなっています。

マラガシ・ポップでマロヤが聞けるのは珍しいと思うんですが、
カネラは学業のために母親とレユニオンに引っ越したというので、その影響なのでしょう。
アルバムはマダガスカルの首都アンタナナリヴでレコーディングされていて、
学校の休みに里帰りして録音したのかな。
全8曲30分に満たないミニ・アルバムというのが物足りないくらいの、
元気いっぱい、はじけるような若さがまぶしい、カネラちゃんなのでありました。

Kanella "AMOUREUSE DE TOI" Carol Tana Music OMDA45.590 (2008)
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ツァピキ・マン テタ [インド洋]

Teta  FOTOTSE RACINES ROOTS.JPG

マダガスカルには、個性的なサウンドを持ったギタリストを生み出す土壌があるんでしょうか。
独特のチューニングと奏法で国際的にも有名になったデ・ガリに続き、
新たな才能が南西部チュレアールのツァピキ・シーンから登場しました。

テタことクロード・テタは、67年マダガスカル南部の街、アンパニヒの生まれ。
ツァピキの中心地チュレアールから、140キロほど南に下った街です。
幼い頃からアコーディオン奏者の父やギタリストの兄弟とともに、
地方の祭りやダンス・パーティ、伝統的な冠婚葬祭でツァピキを演奏していたのだそうです。
テタのギターの腕前は、子供時分からずば抜けていて、
村人たちから「妖精の指を持ったギタリスト」と讃えられ、
大家族で貧しくもあったために、13歳で学業を捨て音楽で身を立てる決心をします。

88年に自分のバンドを結成して、マダガスカル南部じゅうに知れ渡るギタリストへと成長し、
やがて首都アンタナナリヴまで評判が届くようになります。
中央進出後はデ・ガリともたびたび一緒に演奏をしたり、
ジャズやブルースなどのミュージシャンとも演奏して、さまざまな音楽を学び取り、
自己のギター・スタイルを磨いていったようですね。
マダガスカルではすでに何枚かアルバムを出しているようですが、
ぼくがテタの名を知ったのは、今回のインターナショナル・デビュー作が初めてです。

このアルバムは、テタのアクースティック・ギターを前面に打ち出していて、
ゲストが加わる2曲を除き、テタの歌とギター以外、
相棒が操る小物打楽器だけというシンプルな内容。
レコーディングはチュレアールと、テタの生まれ故郷アンパニヒの西50キロにある、
アンツェポカという海沿いの町の家で行われています。
ジャケット写真の、質素な板張りの家の中でテタがギターを弾いているのが、
アンツェポカでのレコーディング風景と思われ、
ギターの響きともに波の音や機械音などが加わり、飾らない日常の姿が伝わってきます。

テタのギターは、ツァピキのトゥー・フィンガー・スタイルを基本としていますが、
その流麗なフィンガリングが奏でるメロディ・ラインやフレージングは相当に技巧的で、
泥臭いツァピキとはかなり手触りの異なる、洗練を感じさせます。
面白いのは、ゲストのアコーディオンが加わったツァピキ・ナンバーのごく一部で、
ナインスのコードを使ってモダンなセンスをちらっと聞かせるところ。
この曲以外で、ナインスなどのテンション・ノートはまったく使っていないので、
伝統的なツァピキ・ナンバーでモダンなフレージングを使う対比が、鮮やかな印象を残します。

また、どうしても鮮烈なギターばかりに耳が引き付けられてしまいますけど、
テタの野性味あるヴォーカルも魅力があります。
奔放なかけ声などエネルギッシュな面ばかりでなく、ストーリーテラーのようにじっくり歌ったりと、
幅広いヴォーカル表現を持つ奥行きのある歌いぶりを聞かせているんですね。
ツァピキの泥臭く粗削りな魅力は、テタの歌にこそあり、
タイトルどおり、テタの身体に染み付いたツァピキのルーツがにじみ出た一作となっています。

【お断り】 当初この記事は「ツァピク」と書いていましたが、
その後「ツァピキ」が一般的な読み方と判明したため、タイトル・本文を修正しています。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2015-06-07

Teta "FOTOTSE RACINES ROOTS" Balafomanga 860214 (2011)
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土埃舞うツァピキ ダミリ [インド洋]

Damily Ravinahitsy.JPG   Damily Ela Lia.JPG

ツァピキはマダガスカル南西部の冠婚葬祭で演奏される伝統音楽。
マルヴァニ(箱琴)、ロカンガ(フィドル)などの弦楽器とアコーディオンで演奏されますが、
80年代半ばに南西部の街チュレアールでエレキ化されてポピュラー化し、
中央の首都アンタナナリヴにも伝わるようになりました。
地元ではカセットやCDも出ていますが、欧米リリースのCDとしてはコンピレがある程度で、
単独アルバムを出しているのは、このダミリぐらいじゃないでしょうか。

ギタリストの名前がグループ名にもなっているダミリは、5人編成のギター・バンド。
はじけるような細分化されたビートで、きぜわしく疾走するツァピキを痛快に聞かせます。
痙攣するような独特のツー・フィンガー・ピッキングと、
16分音符を多用したウネりまくるベースが聴きどころで、
コンゴのルンバ・ロック、南アのンバカンガやマスカンダの影響をうかがわせる、
タテノリのロック・ビートが特徴といえます。

メンバー各人の作った曲をそれぞれが歌っていて、
ハイトーンのぶっきらぼうな女声がひときわ印象的です。
08年の初CDはエレキ・ギター中心のクリーンなサウンドでしたが、
新作ではアクースティック・ギターをメインに据え、ツァピキの土臭さが強調されるようになりました。

辺鄙な農村地帯のギター・バンドといった雰囲気のツァピキは、
ザンビア周辺国で演奏されるカリンドゥラといい勝負の粗野なローカル・サウンドで、
クラムド・ディスクのヴィンセント・ケニスさんが聴いたら喜ぶかも。
曲が単調なわりには尺が長いので、ずっと聴いているとやや飽きもしますが、
基本はダンス・ミュージックなので、夜通しのパーティではこうじゃなきゃ通用しないんでしょう。

土埃舞うワイルドでトランシーなツァピキの魅力は、新作でさらに増したといえます。

【お断り】 当初この記事は「ツァピク」と書いていましたが、
その後「ツァピキ」が一般的な読み方と判明したため、タイトル・本文を修正しています。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2015-06-07

Damily "RAVINAHITSY" Hélico HWB58004 (2008)
Damily "ELA LIA" Hélico HWB58120 (2011)
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アコーディオン、インド洋へ [インド洋]

Ile Rodrigues.JPG    Luc Tan Wee.JPG

19世紀、ヨーロッパの船乗りたちがアコーディオンを携えて海を渡り、
ヨーロッパの音楽を世界の各地に持ち込んでいくのと同時に、
その土地土地の音楽と交わって、数多くの文化混淆音楽を生み出していきました。

ルイジアナのザディコ、ドミニカのメレンゲ、ブラジルのフォロー、コロンビアのバジェナートなどは、
20世紀を跨いだ今なお、アコーディオンがそれぞれの音楽のアイデンティティとなっていますね。
アフリカに渡ったアコーディオンが生み出した音楽というと、
前回のエントリーで「カーボ・ヴェルデのザディコ」と口走ったフナナーがありますけど、
マダガスカルのサレギやインド洋のセガでもアコーディオンがよく使われています。

セガはモーリシャス、レユニオン、セーシェルと広くインド洋で親しまれている音楽ですが、
それぞれの島ごとに特徴があり、そのすべてでアコーディオンが使われるわけではありません。
もともとセガは、黒人奴隷たちが打楽器を伴奏に踊り歌っていたアフロ系音楽だったので、
アコーディオンを使うことによって、クレオール音楽へと変容していったわけです。

なかでも、アコーディオンが盛んなのがロドリゲス島。
モーリシャスの北東に浮かぶ孤島です。
この島ではアコーディオンで演奏するセガをセガ・コルデオンと呼んでいて、
ヨーロッパから伝わってきたポルカやワン・ステップ、マズルカとともに親しまれています。

ロドリゲス島でこれほどアコーディオンが盛んになったのは、
バル・コルデオン(アコーディオン・ダンスホールの意)が
島の社交場として発達したからだそうですが、
アンティーユにカドリーユが息づいているように、ヨーロッパから遠く離れた辺境の島々で、
19世紀のヨーロッパのダンス音楽が今も演奏されているのは、歴史の皮肉とも思えます。

タカンバ盤(祝!入荷)には12人のアコーディオン奏者による現地録音を収められていますが、
まるでヨーロッパのどこかの街町で、辻芸人が弾いているアコーディオンのよう。
明らかにアフリカ系とわかるビートが特徴的なセガ・コルデオンが出てこなければ、
これがインド洋の音楽とは、とても思えないでしょう。

リュック・タン・ウィーという華人系の苗字を持つアコーディオン奏者のアルバムには、
セガはほとんど登場せず、ポルカやワン・ステップが主なレパートリー。
全編、頭の先からシッポまでダンス・ミュージックが詰まったアルバムです。
写真を見る限り華人には見えない顔立ちですが、モーリシャスには客家人が渡ってきた歴史があり、
島の複雑な歴史の生き証人でもあるのでしょう。

V.A. "ILE RODRIGUES VOLUME 2. ACCORDÉON" Takamba TAKA0004 (2000)
Luc Tan Wee "REVOLUTION DE LA DANSE ET MUSIQUE TRADITIONNELLE DE L’ILE RODRIGUES" Vaf Diital Studio no number (2006)
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モーリシャスのセガをポップ化したチ・フレール [インド洋]

P'tit Frere_8305.JPG    Ti Frere.jpg

レユニオンでは古くからセガに西洋音楽が取り入れられ、
ダンスホールで演奏されていましたが、
モーリシャスのセガはフォークロアな姿のまま、
パーカッションを伴奏に歌とコーラスがコール・アンド・レスポンスを繰り返す、
8分の6拍子のディープなアフロ系ダンス音楽として長くその姿を保っていました。
インド系住民が多勢を占めるモーリシャスでは、アフロ系文化は隅に追いやられ、
セガが大衆文化として花開かせるための場がなかったんでしょうね。

モーリシャスで伝統セガに西洋音楽を取り入れ始めたのは、
チ・フレール(プチ・フレール)こと
ジャン・アルフォンス・ラヴァトンだったといわれます。
マダガスカル人でセガの音楽家だったチ・フレールの父親は、
アコーディオンやバンジョーを加えたセガをすでに演奏しており、
チ・フレールは父親からセガを学んだそうです。

チ・フレールは50年代にアコーディオンとトライアングルの伴奏で歌った
“Anita” “Angeline” “Charlie Oh” などの曲を録音したSPを残しますが、
モーリシャスの社会で評価を得ることもなく、引退状態にあった64年に
セガのコンテストで「セガのキング」の称号を得て、ようやく脚光を浴びます。

写真のSP原盤をもとにしたインド・プレスのシングル盤は、
その当時に出たものと思われます。
このシングルにも収録された上記3曲はオコラ盤CDにも収録され、
モーリシャスのルイ・アームストロングとも例えられた
チ・フレールのひびわれた歌声を聴くことができます。

ポップ化されたといってもずいぶんと素朴なもので、
本格的なクレオール・ポップとしてダンス・ミュージック化したセガに変貌するには、
チ・フレールのもう一つあとの世代にあたる
セルジュ・ルブラッセの登場まで待たなければなりませんでした。

[7インチ] P’tit Frère et Ses Segatiers "Anita / Ma Bohema / Angeline /Charlie Oh" レーベル名なし 8305
[CD] Ti Frere "ILE MAURICE : HOMMAGE A TI FRERE" Ocora C560019 (1991)
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ヴェトナム王朝の末裔が奏でたセガ クロード・ヴィン・サン [インド洋]

Claude Vinh-San_OM45-2077S.jpg   Claude Vinh-San_OM45-2078S.JPG
Claude Vinh san_OM45-2106S.jpg    Claude Vinh san_OM45-2153.JPG
Claude Vinh San_25019.JPG   Clauude Vinh San_J32018.jpg
  
前回ヴェトナム最後の王朝グエン王朝(阮朝)の話が出て、
インド洋に浮かぶレユニオン島でセガの楽団を率いた、
クロード・ヴィン・サンを思い出しました。

クロード・ヴィン・サンはヴェトナム阮朝第11代皇帝・維新帝の息子として
レユニオンに生まれました。
なぜレユニオン?と思われるでしょうが、
阮朝第11代皇帝・維新帝は宗主国フランスに反乱を企て、
その反乱の計画が実行前にフランスへ洩れてしまい、
レユニオンへ流刑に処されてしまったのです。
そんな数奇な運命のもとに生まれたクロード・ヴィン・サンは、
ヴェトナム名をバオ・バンといい、青年期には故国ヴェトナムへ渡り、
サイゴンのリセでヴェトナム語も学びますが、
レユニオンに帰ってマルチ・プレイヤー兼作曲家となります。

クロードは57年に自己の楽団ジャズ・トロピカルを結成、
71年の解散までレユニオンのダンスホールで活躍したといいます。
写真最上段の2枚は、60年前後にリリースしたクロード初のシングル2枚です。
シングル盤のサブ・タイトルに「セガ・クレオール」とあるとおり、
この当時のセガは、同時期のフレンチ・カリブ(マルチニーク、グアドループ)同様、
魅惑的なクレオール・ミュージックを奏でていたんですよ。
LP化されなかったため、長い間世間に知られない埋もれた音楽となっていましたが、
21世紀に入り、レユニオン文化事業の一環で誕生したタカンバというレーベルから、
豪華なCDブック形式の素晴らしい編集アルバムが昨年リリースされました。

Claude Vinh San.jpg

タカンバがリリースしているヴィンテージ・セガの編集アルバムはどれも名作揃いなのに、
いっこうに日本へ入ってこないのが残念でなりません。
ぼくも「レコード・コレクターズ」誌で熱心に紹介してきたつもりなんですが、
どうして入荷できないんでしょうね。個人では輸入できるのに。

[EP] Claude Vinh-San et Son Orchestre Jazz Tropical "FOLKLORE RÉUNIONNAIS NO.3" Festival OM45-2077S
[EP] Claude Vinh-San et Son Orchestre Jazz Tropical "FOLKLORE RÉUNIONNAIS NO.4" Festival OM45-2078S
[EP] Claude Vinh-San et Son Orchestre Jazz Tropical "DANSEZ LE SÉGA NO.10" Festival OM45-2106S
[EP] Claude Vinh-San et Son Orchestre Jazz Tropical "SURPRISE PARTIE A LA RÉUNION" Festival OM45-2153S
[EP] Claude Vinh-San et Son Orchestre Jazz Tropical "FOLKLORE RÉUNIONNAIS" Didar 25.019
[EP] Claude Vinh San et Son Orchestre "Ton P'tit Gueule Rose / Duo Sega" Jackman J32018
[CD] Claude Vinh San "CLAUDE VINH SAN ET LE JAZZ TROPICAL" Takamba TAKA0814
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