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カメルーンのアフロ・ファンカー タラ・アンドレ・マリー [中部アフリカ]

Tala A.M..jpg

オーストリアのPMGによる70年代アフロ・ソウル/ディスコのリイシューLP/CD化が、
怒涛のイキオイで進んでいますね。
DJユースのマニア向けのラインナップなので、
フツーのアフリカ音楽ファンは、無視してオッケーと言いたいところなんですが、
ファンキー・ハイライフ名盤のパット・トーマスとエボ・テイラーの共演作や、
ガンビアのゲレワルなんてホンモノの名盤が紛れ込んでたりするから、油断なりません。

マヌ・ディバンゴやソリ・バンバをストレート・リイシューしている、
パリとロンドンに拠点を置くアフリカ・セヴンも、
一部マニア向けの嗜好が強く、どうもうさん臭いレーベルですね。
このレーベルに不信感を抱いたのは、
マヌ・ディバンゴの代表作“AFROVISION” のリイシューがきっかけでした。

このマヌの大傑作、日本ではとっくの昔にボンバがCD化しましたけど、
海外でのCD化はこれが初。
ボンバ盤はすでに廃盤となって久しく、アフリカ・セヴンから原盤提供された
クレオール・ストリーム・ミュージックが紙ジャケCD化して、
日本盤としても発売されたんですが、これが許しがたいシロモノだったんです。

クレオール・ストリーム・ミュージックのふれこみが、
「2014年最新デジタル・リマスター音源を使用。
「Big Blow」は貴重なロング・バージョンを収録。
アルバム・バージョンより2分ほど長いミックスになっている」というので、
“Big Blow” にロング・ヴァージョンがあるのか!と期待して聴いたら、
これがトンデモなミックス。

曲の一部をカット・アンド・ペーストして、水増ししただけの編集で、
しかもそのエディットの稚拙なことといったら、シロウトのDJがやったようなお粗末さ。
演奏の途中で音質ががらりと変わる、フンパンもののミックスなんですね、これが。
かの名演に、いったい何してくれたんだよと、頭に血が上りました。

前フリが長くなりすぎましたけれど、
そんなわけで、PMG同様アフリカ・セヴンも無視していたもので、
まさかタラ・アンドレ・マリーのこんな好編集盤が出てたとは、気付きませんでした。

タラ・アンドレ・マリーは、70年代のアフリカで、
最高にクールなアフロ・ファンク聞かせた、カメルーンの盲目シンガー。
70年代初めのデビュー時はフォーク・ロックのような音楽性だったのが、
70年代半ば頃から、ファンクへがらりとスタイルを変え、
80年代以降はカメルーンのフォークロアをファンク化して、
ベンド・スキンと称するスタイルを作り出した人です。

タラを有名にしたのが、初ヒットとなった73年の“Hot Koki”。
74年にアフリカにやってきたジェームズ・ブラウンが聴いて気に入り、
“Hustle!!! (Dead On It)” のタイトルで自作曲として発表したおかげで、
曲を盗まれたタラの名は、一躍アフリカ中に広まったのでした。
4年にわたる法廷闘争の結果、ジェームズ・ブラウンは盗作を認め、
タラに賠償金を支払っています。

今回、アフリカ・セヴンがコンパイルした編集盤も、
“Hot Koki” を皮切りに、73年から78年までのアルバムから選曲しています。
この時期は、タラはアフロ・ファンカーとして、もっともヒップなファンクを聞かせていた時期。
選曲も申し分なく、クールネスなタラのファンクの魅力を余すことなく伝えています。
なお、サブ・タイトルに「75年から78年」とあるのは誤りで、
デビュー作“HOT KOKI” のリリース年を75年と誤認したらしく、正しくは73年です。
さらに、アルバムの最後で72年のデビュー・シングル曲を選曲しているので、
正確には「72年から78年」ですね。

これまでタラの編集CDでは、レトロアフリックが09年に出していますが、
72年のデビュー・シングルから98年録音までを、アトランダムに並べた曲順が難でした。
前にも説明した通り、タラは時代によってがらっと音楽性を変えたミュージシャンなので、
その変遷を理解できるような曲順にすべきだったのに、
冒頭に90年代に完成させた自己のスタイルをタイトルとした92年の曲から始め、
次いで先ほどの73年の“Hot Koki” (レトロアフリックは74年と誤記)を置くのは、
なんとも座りが悪いものでした。せっかくの内容も、曲順が台無しにしていて、
拙著『ポップ・アフリカ800』に選ばなかったのも、そういう理由からです。

今回は70年代のファンク期にスポットをあてることで、
希代のアフロ・ファンカーの魅力を、くっきりと打ち出すことに成功しています。
さらに、そうしたファンク・チューンをずらりと並べたあと、
最後に72年のデビュー・シングル曲“Mwouop” で締めくくったのは、粋な計らいです。

タラのデビューに力を貸した、同郷のマヌ・ディバンゴがマリンバで参加した
爽やかなポップ曲で、フォーク・ロック期のタラの名曲です。
前のレトロアフリック盤でも収録されていましたが、
アルバム・ラストにそっと添えたという曲順が実に効果的で、
編集盤での曲順の大事さが、如実に示されたといえますね。

“Mwouop” を選曲するとは、コンパイラーのジョン・ブライアンという人、
タラの魅力をよくわかってますね。グッド・ジョブです。

Tala A.M. (Tala André Marie) "AFRICAN FUNK EXPERIMENTALS 1975-1978" Africa Seven ASVN018CD
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コンゴ音楽のベル・エポックを回顧して ディノ・ヴァング&ントゥンバ・ヴァレンティン [中部アフリカ]

Dino Vangu & Ntumba Valentin.jpg

ロシュローのアフリザ・アンテルナシオナルで活躍した
コンゴ・ルンバレーズの名ギタリスト、ディノ・ヴァングが、
ントゥンバ・ヴァレンティンというトランペッターと共同名義で、
新作をリリースしましたよ。
これがなんと、コンゴ音楽のベル・エポックを回顧した60~70年代の名曲集なんですね。

オープニングは、グラン・カレとアフリカン・ジャズ時代に
ロシュローが作曲した“Adios Tete”。
続いて2曲目は、グラン・カレと袂を分かったロシュロー、ニコ、ロジェらが旗揚げした
アフリカン・フィエスタ時代のロシュローの曲“Ndaya Paradis” です。
途中にディノ・ヴァングの代表曲“Kiyedi” も挟んで、
ラストはグラン・カレの一大名曲“Independance Cha Cha” で
締めくくるというレパートリー。

う~ん、このまろやかさといったら。オールド・ファン泣かせですねえ。
ギターは、ソロもミ・ソロ
(リード・ギターとリズム・ギターの間を取り持つ役割を果たすギター)も
ディノが弾いていて、ントゥンバともう一人のトランペッターとサックスの3管編成。
エレガントなルンバ・コンゴレーズに、メロメロになるほかありません。
オールド・スクールだの、ただの懐メロだのと、
言いたいヤツには、言わせときゃいいんですよ。
このニュアンス豊かなサウンドは、
ウチコミのジャストなリズムで満足できるような鈍感なヤツには、もったいないって。

ベラ・ベラ、マキナ・ロカ・ディマイェなどのバンドを経て、
78年にロシュローのアフリザ・アンテルナシオナルの参加したディノ・ヴァングは、
ディジー・マンジェクとのコンビによる
シャープなギター・ワークで一時代を築いたマエストロ。
本作はアンサンブルを重視したサウンドで、目立つソロなどは弾いていないものの、
多重録音したソロとミ・ソロのギターの絡みのうまさや、
ソロのトーンのきらきらとした響きに感じ入っちゃいますね。

フィーチャーされる5人の歌手いずれも、
黄金時代のルンバを歌うにふさわしい声と歌いぶりで、申し分ありません。
この優雅なダンス・ミュージックが、40年後にはケツをぐりんぐりん回して踊る
エロ・ダンスのンボンドロに変化してしまうなぞ、誰が予想できたでありましょうか。

Dino Vangu & Ntumba Valentin "LA BELLE EPOQUE MUSICALE DU CONGO" Ya Dino & Ntumba no number (2016)
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並外れた音楽家としてのスケールの大きさ リシャール・ボナ [中部アフリカ]

Richard Bona & Mandekan Cubano.jpg

リシャール・ボナの最高傑作“BONAFIED” から3年、新作はラテンです。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2013-04-30

ルイ・ヴェガのプロデュースで一躍有名になった、
カラカス出身のトップ・パーカッショニスト、ルイシート・キンテーロに、
その従弟であるロベルト・キンテーロ、そしてピアニストのオスマニー・パレデスに、
ドラマーのルドウィッグ・アフォンソという、
二人のキューバ出身の俊才を擁するマンデカン・クバーノは、
ニューヨークのラテン・ジャズ/サルサ・シーンの腕利きプレイヤーを集めたユニット。
すでに4年前にこのユニットで来日していますけれど、アルバムは初ですね。

これまでのアルバムでも、ボナはラテン/サルサ調の曲をやっていたので、
異種格闘技的なところなどまったくなく、
いつもどおりドゥアラ語で歌うボナのまろやかな歌も、しっくりとなじんでいます。
腕っこきのトップ・プレイヤーが奏でるトゥンバオが、
キューバン・サルサになるのでもなければ、ソンになるのでもない、
ラテンのフォーマットを借りながら、そのスタイルを超えた音楽に仕上がるのは、
毎度のことながら、ボナの音楽家としての器の大きさに感じ入ります。

ラテンを基調とした表現を借りつつ、どこまでも柔和なボナの音楽の表情はいつもと変わらず、
アフリカ、カリブ、アメリカ、ヨーロッパを往来したトランスアトランティックの旅を経て、
ますます音楽性が懐の深いものに積み上げられてきましたね。
ライヴでもおなじみのサンプラーを使ったループによるヴォイス多重表現では、
母語のドゥアラ語で歌うことにこだわる、ボナの音の響きに対する繊細な感性が表われています。

以前、ボナにインタヴューした時に印象的だったのが、彼のベース訓練法。
ボナが片時もベースを放さず訓練する「ベースの虫」であることは知っていましたけど、
旅先で聴く鳥の鳴き声、渋滞のクラクションの音といった自然/人工音や、
異国で耳にした人の会話を録音して、
その音をベースで再現するというユニークな訓練法には驚かされました。

ちなみにボナは「練習」ではなく、「訓練」というんですね。
スケールの運指練習なんて退屈なことをいくらしても、音楽の訓練にはならない、
新しいアイディアなんか生まれないと、ボナは言います。
自然音や人の会話までもメロディ化するというトレーニングは、チャレンジングです。

「だからこそ新しいアイディアが生まれるんだ。どうすれば弾けるだろうかってね。
出来るまで弾き続けるんだ。楽しくってしょうがないよ。
単調でつまらない練習をいくらしたって、新しいテクニックなんて生み出せないよ。
そんな苦労は、意味ないんだ」

日本の女子高生の会話は、リズムに溢れてる!と強調していたボナ。
音楽をクリエイトすることについての考え方が、もう並外れていて、
音楽家としてのスケールの大きさに、あらためてぼくは敬意の念を持ちました。

繊細にして大胆。
共演者の出す音に即応して、場面をがらりと転化するジャズ・ミュージシャンとしての才気は、
やはり天才という言葉がふさわしく、マンデカン・クバーノを率いても、
そこから生み出されるのは、ボナ・ミュージックそのものです。

Richard Bona & Mandekan Cubano "HERITAGE" Qwest 234245 (2016)
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お悔やみ パパ・ウェンバ [中部アフリカ]

1986 パパ・ウェンバ パンフレット.jpg   Papa Wemba TIP001.jpg

「コンゴのシンガー、パパ・ウェンバ死す」。
4月24日、BBCニュースが流した第一報に、えっ!とびっくりして、
あわててネットで情報を探すと、ウェンバがステージで倒れた時の映像が上がっていて、
雷に打たれるような衝撃をおぼえました。

アビジャンで開催されていた、マヌアボ・ミュージック・フェスティヴァルでのステージ。
4曲目が始まったところだったといいます。
まさかステージで倒れて、そのまま逝ってしまうなんて。
プリンスの急死で世界に衝撃が走った矢先、まさかの出来事に、ちょっと茫然自失です。

享年66。
芸能者として、サップールとして、貫きとおした人生といえるのかもしれません。
劇的すぎるその死もまた、ウェンバにとってみれば幸せな最期だったのでしょう。
でも、それを見届けなければならないファンにとっては、
本当にキツイできごとです。

悲しい、なんて言葉ではとても足りない。
とてつもない虚脱感に襲われます。
飛び込んできた訃報を咀嚼することができず、
「カンベンしてくれ」と、正直つぶやいていました。

しばらくして我に返って頭に思い浮かんだのは、
そうか、それじゃ、あの“MAITRE D’ECOLE” が遺作になったのかということ。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2014-08-09
ラスト・アルバムは、ウェンバもすばらしい作品を残せたんですねえ。
不出来な作品が続いた晩年の最後に、パッとひと花咲かせるとは、
ナイジェリアのシキル・アインデ・バリスターと同じになったなあ。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2011-01-15

03年ウェンバ逮捕の前後は、バラツキの激しい粗い作りのアルバムが続き、
もうウェンバもダメかと思ったものでした。
世紀を越えたあたりから、ウェンバの顔付きがどんどん悪くなり、
ホントにマフィアのような悪党面になっていくのが正視に絶えず、
CDを買う気が削がれたものです。これ、音楽家の顔じゃないだろうって。

ウェンバ逮捕のニュースに、裏ビジネスに顔突っ込んでいたのが、
単なるウワサじゃなかったことを知り、正直、音楽家として終わったなと思いました。
だから余計に、自然体で作った“MAITRE D’ECOLE” のポップな大人のルンバ・ロックには、
ウェンバの復活と新境地を実感させ、嬉しかったんですよ。それなのにねえ。

思い起こすのは、86年5月に初来日した時のカンゲキです。
武蔵野市民文化会館のコンサートもさることながら、
コンサートに先立って吉祥寺東急百貨店の屋上で開かれた、
来日歓迎パーティでのウェンバのニカッとした笑顔が、今も忘れられませんよ。
あの時の青空、今もくっきりと瞼に浮かびます。

さらば、ウェンバ。

[コンサート・パンフレット] パパ・ウェンバ&ビバ・ラ・ムジカ 初来日公演86 武蔵野文化事業団
[LP] Papa Wemba Et L’Orchestre Viva La Musica "LE JEUNE PREMIER" TIP TIP001
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O・K・ジャズの詩人、健在 シマロ [中部アフリカ]

Lutumba Simaro  ENCORE & TOUJOURS VOL.1.jpg   Lutumba Simaro  ENCORE & TOUJOURS VOL.2.jpg

O・K・ジャズで目立たないリズム・ギターを弾く一方で、
名作曲家として重要な屋台骨の役割を果たした御大シマロの新作。
13年にリリースされたものの、なかなか日本に入ってこなかったんですよね。
2枚組セット仕様のものもあるようですが、ぼくが手に入れたのはバラの2枚。

シマロっていくつになったんだっけと調べたら、生年が38年とあるから、
アルバム・リリース時、75歳か。
もうお爺ちゃんなわけですけれど、ジャケットはキメてますよねえ。
サップールを生むお国柄だから、やっぱオシャレだなあ。
思えばウェンドだって、晩年まで黒のスーツでびしっとキメてたもんなあ。
ギターを持った裏ジャケットは、リラックスした普段着姿で、
「詩人」と称されたシマロの職人ぽい雰囲気がよく表れています。

前作(だと思う)の08年作“SALLE D'ATTENTE” では、パパ・ウェンバ、ンビリア・ベル、
ジョスキー、フェレ・ゴラなど大物ゲストを多数招いていましたけれど、
今作のジャケットには何も書かれていないところをみると、今回はゲストはなしでしょうか。

ンドンボロ以降の、キディバだかコインビコだかなんだか知りませんけど、
徹頭徹尾ダンス仕様となったサウンドに食傷気味の当方としては、
バナOKのゆるやかにスウィングするリズム感は極上です。
シマロの美しいメロディを引き立てるヴォーカルとコーラスも申し分なく、
天国に連れて行ってもらえますよ。
ルンバ・コンゴレーズのこの味は、永遠不滅ですね。

サウンドも単なる昔の再現ではなく、うっすらとシンセをカクシ味に使うなど、
現代性を感じさせるプロダクションとなっていて、デリケイトに制作されているのを感じます。
両CDともラストは、ピアノをメインにゆったりとしたアクースティックなルンバで、
女性歌手に歌わせた趣向もとてもいい感じじゃないですか。

O・K・ジャズの詩人、健在なりですね。

Lutumba Simaro & Bana OK "ENCORE & TOUJOURS VOL.1" Diego Music no number (2013)
Lutumba Simaro & Bana OK "ENCORE & TOUJOURS VOL.2" Diego Music no number (2013)
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ビビり太鼓の迫力 マサンカ・サンカイ [中部アフリカ]

Masanka Sankayi  KUTUMBA NKUEYAMANGANA.jpg

太鼓と木琴の鈍く重い響きが打ち鳴らされ、溢れ出る倍音。
ヘヴィーなノイズとともに身体が共鳴して、
奥底の芯をじーんと揺り動かされるような快感をおぼえます。
「これぞアフリカのパーカッション・ミュージック!」という魅力あふれる一枚と出会いました。

マサンカ・サンカイは、コンゴ民主共和国南部のカサイ州、
ルバ人の伝統音楽ムトゥアシを演奏するグループです。
フォルクロールと呼ばれる各民族の伝統音楽グループは星の数ほどありますが、
クラムド・ディスクの「コンゴトロニクス」という仕掛けによって、
広く世界の関心を集めることになりました。

Congotronics 2.jpg

実はこのマサンカ・サンカイも、
“CONGOTRONICS 2 : BUZZ’N’RUMBLE FROM THE URB’N’JUNGLE” の冒頭1曲目と
6曲目にフィーチャーされたグループなんですね。
彼ら単独のCDを初めて聴いたんですが、
クラムド・ディスク盤よりナチュラルで、もっとムキ出しの強烈なビートに圧倒されました。

マサンカ・サンカイは、ジャケット写真にも写るンブヤンバ(左)とカボンゴ(右)を中心に、
70年代から活動しているグループで、二人が弾くリケンベのほか、
木琴、ビビり太鼓、ガラス瓶のアンサンブルとなっています。
リケンベの音は、サワリ音の利いた木琴にかき消されてほとんど聞こえないんですが、
さらに強烈なのが、ビビり太鼓のディトゥンバ。

ディトゥンバは、西アフリカのジェンベのような乾いた高音とはまったく正反対の、
重く鈍い響きを特徴としています。
というのも、太鼓に張る羊皮をジェンベのように締め上げるのでなく、ゆるーく止めるんですね。
皮の中央には練り物を押し付け、ペースト状に丸く伸ばされます。
なんだかインドのタブラを思い出しますけれど、ブルキナ・ファソのモシ人の太鼓ベンドレでも、
太鼓の皮に練り物を塗ってチューニングする技法がありますね。

ディトゥンバは底に穴があいてないので、これだけでは音が出ないんですが、
横に開けられた小さな穴がビニールで覆われ、止めてあります。
これによって、ビーン、ビーンと強烈なバズ音がでるというわけです。
バラフォンの共鳴器であるヒョウタンの穴に、クモの巣を張るのと同じ理屈ですね。
ディトゥンバもその昔はクモの巣が張られていたそうです。

KANYOK AND LUBA, SOUTHERN BELGIAN CONGO.jpg

ビビり太鼓のディトゥンバと木琴マディンブの演奏というと、
忘れられないのが、ヒュー・トレイシーが50年代に残した名録音です。
ここにはルバ人だけでなく、隣接のカニョク人による演奏も収録されています。

演奏のことばかり書いちゃいましたけれど、
説経語りや説教師のような語りもの的なコール・アンド・レスポンスの歌も迫力満点で、
野性味溢れるアフリカ音楽の生命感を堪能できる名盤ですね。

Masanka Sankayi "KUTUMBA NKUEYAMANGANA" Boutique Troifoirien TFR0002
[CD+DVD]Masanka Sankayi, Kasai Allstars, Sobanza Mimanisa, Kisanzi Congo, Bolia We Ndenge, Basokin, Konono No.1
"CONGOTRONICS 2 : BUZZ’N’RUMBLE FROM THE URB’N’JUNGLE" Crammed Discs CRAW29 (2005)
Field Recordings by Hugh Tracey "KANYOK AND LUBA, SOUTHERN BELGIAN CONGO 1952 & 1957" Stichting Sharp Wood Productions SWP011/HT05
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アフリカン・モダン・フォーキー ブリック・バッシー [中部アフリカ]

Blick Bassy  AKÖ.jpg

カメルーンって、面白い才能を生み出す国だなあ。
ヤウンデ生まれのブリック・バッシーは、繊細な感性をうかがわせる、
モダン・フォーキーな歌を歌うシンガー・ソングライター。
ブリックが弾くギターに、チェロ兼バンジョーとトロンボーンの白人演奏家二人による
ユニークなトリオ編成。曲によってはサンプルやハーモニカも加わり、
品のいい室内楽ふうの演奏にのせ、ひ弱な歌い口で、とぼけた味の歌を聞かせます。

ノー・フォーマット!というレーベルらしい、いかにもヨーロッパ人好みの音楽といえますけれど、
ひ弱そうな音楽の根底に、おおらかなアフリカ性が横たわっているのが伝わってくるので、
アフリカン・ポップス・ファンにも十分アピールするものを持っている人です。
といっても、記号化されたアフリカン・サウンドはいっさい登場しないので、
リシャール・ボナにアフリカ性を感じ取ることのできるファン向けといえるかな。
じっさいブリックは、リシャール・ボナのセンシティヴさと共通する資質を感じさせますね。

ブリックは21人兄弟という大家族に生まれ、両親が建てた教会の合唱隊で5歳の時から歌い、
17歳の時に初めての自分のバンド、ザ・ジャズ・クルーを結成しています。
のちにマカズと改名するこのジャズ・フュージョン・グループで10年近く活動したのち、
パリに渡ってソロ活動を始め、05年にデビュー作を出して以降、本作が3作目とのこと。

面白いのが、デルタ・ブルースのスキップ・ジェイムズにインスパイアされて、
本作を制作したというエピソード。なんでまた、スキップ・ジェイムズ???
直接スキップ・ジェイムズの影響を感じさせる部分はありませんけれど、
ファルセットなどを交えながら、繊細な陰りを持つスキップ・ジェイムズの特異な音楽性に、
ブリックが共感したのも、わかるような、わからないような。
子供の頃の情景とダブるものを、スキップ・ジェイムズのブルースに感じているんだそうです。

ほかに影響を受けたミュージシャンに、ニーナ・シモン、マーヴィン・ゲイ、ビートルズに並んで、
カメルーンのギター弾きでマコッサを歌った第一人者のエボア・ロタンや、
アシコの王様ジャン・ビココ・アラディンを挙げているところは、やはりカメルーンの人ですね。
ちなみにブリックは、ジャン・ビココ・アラディンと同じバサ人で、
このアルバムでも全曲バサ語で歌っています。
母語で歌うことにこだわるのも、リシャール・ボナと共通していますね(ボナはドゥアラ語)。

Apple のiPhone 6 のCM で、ぼくもこのアルバムの存在を知ったクチですが、
わずか30分足らずの作品とはいえ、クオリティの高さに驚かされました。
朗らかな音楽の表情とユーモアあふれるステキな作品です。

Blick Bassy "AKÖ" No Format! NOF28 (2015)
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ブラザヴィル伝説の名バンド ネグロ・バンド [中部アフリカ]

Negro Band LES MERVEILLES DU PASSE 1959-1970.jpg   Negro Band  1958-2013 Re-Edition Des Merveilles Du Passe.jpg

アフリカのヴィンテージ録音でリリースされるのは、欧米の研究者による編集盤ばかりで、
当のアフリカからは、まったく登場しなくなってしまいましたね。
ジュジュ、ハイライフ、アパラなどの古いレコードを
せっせとCD化しているナイジェリアが例外中の例外といえますけれど、
ほかの国では、若者が昔の音楽を必要としていないし、
オールディーズを懐かしむ中高年層も存在しないってことなのかなあ。

そんなことに思いを巡らしたのは、
珍しくアフリカ人の手によるリイシュー盤が届いたからなんですね。
コンゴ共和国がフランスから独立した58年にブラザヴィルで結成された伝説のバンド、
ネグロ・バンドの60年代末録音集です。
これまでネグロ・バンドの録音は、60年代前半のシングルから10曲をCD化した
フェモカ盤が1枚ありましたが、貴重な内容ながら、音質には難がありました。

今回CD化したアニサ・ンガパイ・プロダクションというレーベルは、
ブラザヴィル出身のヴェテラン歌手で、
一昨年に亡くなったジャック・ルベロのCDも出しているので、
レーベルを主宰するアニサ・ンガパイという人、おそらくコンゴ(ブラザヴィル)人なんじゃないかな。

ネグロ・バンドは、クラリネット兼サックス奏者の
マックス・マセンゴが中心となって結成されたバンドで、
のちにオルケストル・バントゥーの母体となったロッカ・マンボとともに、
新興のレコード会社エセンゴの専属バンドとして活動し、
60年代前半に数多くのシングル盤を残しました。
68年にはパリのパテ・マルコーニでマラソン・セッションを行い、
69年に初のアルバム“A TOUT CASSER” をリリースしています。

今回CD化されたのは、この69年作に8曲を追加したもの。
このマラソン・セッションは、77年に2枚組LP(2C150-15971/2)として17曲がLP化されていて、
本CDでは2曲が入れ替わっています。
ラテン色の濃いサウンドを堪能できる、ネグロ・バンド黄金期を代表する最高の演奏集です。
日本未入荷なのが残念なんですけれど、グラン・カレあたりが好きな人なら、ゼッタイですよ。
関係各位の皆さま、ぜひ入れてください。

Negro Band "LES MERVEILLES DU PASSE 1959-1970" Anytha Ngapy Production NGAPY13005
Max Massengo & Le Negro-Band "1958-2013 RE-EDITION DES MERVEILLES DU PASSE" Femoca 1301
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ルンバ・コンゴレーズとフレンチ・カリブの出会い バルー・カンタ [中部アフリカ]

Ballou Canta.jpg

コンゴ共和国(ブラザヴィルの方のコンゴです)出身のシンガー、バルー・カンタ。
80年代にパリへ渡り、いわゆるスークースをやっていた人くらいの印象しかなかったんですが、
新作の非ルンバのメロウなサウンドには、びっくりしてしまいました。
ルンバやンドンボロに背を向けて生み出したこのポップ・サウンドは、超・新鮮。
アクーステイックな音づくりで、バルーの歌の上手さもよく映えます。

フレンチ・カリブの香りをたっぷり添えたエレガントなプロダクションに、
いったい誰の仕業かと思えば、音楽監督とアレンジを務めているのは、
ビギン・ジャズの若手ピアニストの注目株エルヴェ・セルカル。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2013-06-09
なーるほど、ナットクな仕上がりになるわけですね。

ここのところ、アンゴラのキゾンバの秀作を立て続けに聴いていたところだったので、
バルー・カンタがここで繰り広げているフレンチ・カリブ色濃いサウンドには、
思わずシンクロニシティを感じてしまいました。
キゾンバだって、アンゴラのセンバにズークやビギンのエッセンスを
取り込んで産み出されたものだから、
ルンバにズークやビギンをミックスしたこのサウンドは、異母兄弟みたいなもんです。

バルー・カンタが脱スークースの方向にかじを切ったのは、
レイ・レマやロクア・カンザとの出会いが大きかったようですが、
それ以前に、グアドループ出身のサックス奏者でプロデューサーの、
エディ・ギュスタヴのもとで仕事をしていたことも、大いに影響があったんじゃないかな。

本作でも、マルチニークのベレや、マラヴォワ風のヴァイオリン・セクションを取り入れても、
なんの違和感もなくしっくりと共演できているところは、
フレンチ・カリブ出身のミュージシャンと交流が長い、バルーの理解があったからこそでしょう。
その一方で、3曲目の早口ヴォーカルをフィーチャーした遊び歌ふうのアフロ・ロック・ナンバーや、
5曲目のポップなロック・ナンバーも、いいアクセントになっています。
マルチ・カルチュラルなバルーのセンスが発揮された快作です。

Ballou Canta "BOBOTO" Ting Bang TB9562916-06 (2015)
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アナザー・サイド・オヴ・ヴェルキス&オルケストル・ヴェヴェ [中部アフリカ]

Verckys Et L’Orchestre Veve.jpg

サミー・ベン・レジェブが、ついにやってくれましたよ。
以前、サミーが主宰するレーベル、アナログ・アフリカについて、
なんでB・C級ミュージシャンばかり復刻するのかと、ブーたれたことがありますけど、
新作はなんと、アフリカン・ポップス大物中の大物、コンゴ・ルンバレーズのヴェルキス。
サミーのしてやったりな顔が目に浮かびます。

LP『パリのヴェルキス』(African 360.032)のジャケットから取った、
ギターを弾くヴェルキスの写真もカッコよく、嬉しくなりますねえ。
このLPからは、ブリッジがエイト・ビートになる“Nakobala Yo Denise” が収録されています。
そして、アルバム・タイトルが『コンゴリーズ・ファンク、アフロビート&サイケデリック・ルンバ』
となっているだけあって、一筋縄ではいかない選曲と想像はしてましたけど、
これほど意外な仕上がりになっているとは。さすがサミーが手がけただけのことはあります。

1曲目からいきなりのアフロビート、さらに怒濤のファンク・チューンや
インストのファンク・ブルース・ナンバーなど、
甘くとろけるハーモニーが売りの美しいルンバとは、がらりと様相を変えた姿を見せてくれます。
当時ジェイズム・ブラウンがコンゴ音楽に与えた影響は大きく、
もっとも感化されたのはロシュローでしたけれど、
あのフランコでさえもJBばりのファンクを録音しているので、
ヴェルキスがファンクをやっていても、確かになんの不思議もありません。

とはいえ、これまでそうした録音が世に出ていなかったので、
じっさいに音として聴くと、びっくりしますね。
こうした録音がケニヤ向けに行われていたことを初めて知りました。

あえて難を言うと、曲順でしょうか。
まったくムードの異なるファンクとルンバが交互に出てくると、
なんともアルバムの流れが悪く感じます。
ファンク系の曲はまとめた方が良かったように思います。

今後もサミーには、一級品のアフリカン・ポップスの発掘をお願いしたいところ。
思えば、アナログ・アフリカの初リリースは、
ジンバブウェのザ・グリーン・アロウズとハレルヤ・チキン・ラン・バンドだったので、
ジンバブウェ独立前の南ローデシア時代に活躍した歌手たち
をフォーカスしてくれると嬉しいんだけれど。
とくに、南ア音楽に影響された南ローデシア時代のタウンシップ・ポップスは
まったく未復刻なので、発掘しなきゃいけません。
そうした音源が明かされれば、オリヴァー・ムトゥクジが登場したのもよく理解できるはずです。

Verckys Et L’Orchestre Veve "CONGOLESE FUNK, AFROBEAT & PSYCHEDELIC RUMBA 1969-1978" Analog African AACD077
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キンシャサのゲットーから ベブソン・ド・ラ・リュ [中部アフリカ]

Bebson De La Rue.jpg

この夏来日したジュピテール・バゴンジ、日本ではなぜか英語でその名が書かれていて、
本人はジュピターでもどっちでもいいよと鷹揚に答えてましたけど、
コンゴ民主共和国の公用語であるフランス語で、ジュピテールと書くべきなんじゃないですかね。
ついでに、カメルーン出身のリシャール・ボナだって、
なんでリチャードと表記するんでしょうか。ぼくにはぜんぜんわかりません。

Jupiter's Dance.jpgカナ表記の問題はさておいて、ジュピテールが
滞在中に開かれたイヴェントで、
彼が主演した06年のドキュメンタリー映画
“JUPITER'S DANCE” が上映されたんですけど、
ベブソン・ド・ラ・リュが出演していてビックリ!
最近この映画のDVDを観ていなかったので、
ベブソンが出ていたことに気付かなかったなあ。

家へ帰ってから慌ててDVDを取り出してみたら、
ライナーにはちゃんと写真付きでベブソンが
紹介されているばかりか、
ボーナス映像で1曲入っていて、
うひゃあ!と思わず叫んじゃいました。

ベブソン・ド・ラ・リュは、ジュピテール・バゴンジに続く
コンゴ音楽の新たな逸材として、ぼくが期待を寄せているシンガー兼ラッパー。
昨年リリースしたアルバムは、ルンバにファンク、ラガマフィン、ヒップ・ホップをミックスした
泥臭くもファンキーなサウンドをバックに、タフなストリート・ロッカーぶりを発揮した痛快作でした。
ベブソン・ド・ラ・リュもジュピテールと同じく、ンドンボロといった現在のメインストリームではなく、
キンシャサのゲットーから飛び出したミュージシャンで、
すでにこの当時から関係があったんですねえ。

濁った声が強烈なストリート臭を撒き散らすベブソンですが、
歌い口やフロウはハードコアでなく、陽性のユーモアに溢れていて、
人なつこいキャラクターが魅力となっています。
2人のチャーミングな女性コーラスをフィーチャーしたポップ・センスが、またいいんだな。

Kinshasa Kids.jpgそのベブソンが、歌手を夢見るストリート・キッズの
兄貴分を演じた映画
“KINSHASA KIDS” もまた見ものです。
キンシャサのハード・ライフを
サヴァイヴする少年たちの物語なんですが、
“JUPITER'S DANCE” の続編ともいうべき、
キンシャサのゲットーの現実を活写した内容になっています。

かつて“THE HARDER THEY COME” が
レゲエを世界に認知させたように、
この2本の映画が一般公開されて、
キンシャサのゲットー・ミュージックが
広く知れ渡ることを望みたいものです。


Bebson De La Rue + Trionyx "CROUPE ÉLECTROGÈNE" Wajnbrosse no number (2013)
[CD+DVD] Jupiter Bokondji & Okwess International "MAN DON’T CRY + JUPITER’S DANCE" Idéale Audience International DVD9DM25 (2006)
[DVD] a film by Marc-Henri Wajnberg "KINSHASA KIDS" Wajnbrosse no number (2013)
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ンドンボロの若きスター ファリー・イプパ [中部アフリカ]

Fally Ipupa  DROIT CHEMIN.jpg

フェレ・ゴラを聴きながら、ンドンボロのシンガーたちが歌うスロー・ルンバも、
あながちアルバムの箸休めだけじゃないんだなと思うようになりました。
アゲアゲの高速ンドンボロだけじゃなく、メロウなルンバもしっかり歌えてこそ、
人気シンガーとしての地位を確かなものにできる、みたいな。

それで思い出したのが、ファリー・イプパのデビュー作です。
『ポップ・アフリカ800』に入れられなかったゴメンナサイ盤なんですけど、
内容は申し分なく、単にページ割の事情でうまくはめ込むことができなかったんですよね。
吉本さんの『アフロ・ポップ・ディスク・ガイド』にはちゃんと選ばれていて、
うん、やっぱりね、とナットクした次第です。

コフィ・オロミデのもとでキャリアを積んだファリー・イプパは、
満を持して06年にこのアルバムでソロ・デビューを果たしたんでした。
お得意のアッパーなダンス・トラックのンドンボロばかりでなく、
アクースティック・ギターによるメロウなスロー・ルンバ、フォルクロール、
ヒップ・ホップR&Bと多彩な要素で彩られたポップ・アルバムに仕上がっていて、
しっかりとプロデュースされた、制作陣の力の入れようが伝わる力作でした。

このデビュー作は各国の音楽賞を総なめにし、
翌年イプパはパリのオランピアでソロ・コンサートも成功させ、
トップ・スターの仲間入りを果たしました。
そんな伸び盛りの才能が世に飛び出した瞬間をパッケージした痛快作です。
う~ん、やっぱり、800枚に入れられなかったのは、残念だったなあ。

[CD+DVD] Fally Ipupa "DROIT CHEMIN" Obouo Productions 861400 (2006)
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ンドンボロからスローなルンバへ フェレ・ゴラ [中部アフリカ]

Ferre Gola.jpg

コンゴ音楽のメインストリームといえば、ンドンボロ。
アゲアゲのそのダンス・ミュージックぶりは、まあレゲトンみたいなもんで、
CD買って部屋で聴くような音楽じゃないよなあと、
ずっと背を向けていたんですけど、
最近ではンドンボロも、少しずつ変化を遂げていることを知りました。

全編セベンの高速ダンス・トラックのンドンボロは、
セックスさながらの腰降りダンスに、禁止令まで出る騒ぎとなりましたけれど、
流行も行くところまで行くと、揺り戻しが来るというか、
いまではスローなルンバが流行になっているというのだから、面白いですね。

今回知ったンドンボロの男性シンガー、フェレ・ゴラは、
ウェンゲ・ムジカ・メゾン・メール、レ・マルキ・ド・メゾン・メール、
コフィ・オロミデのカルティエ・ラタンというトップ・バンドを渡り歩いてきた若手シンガー。
07年にソロ・デビューし、今回聴いた12年のアルバムは、
なんとアンプラグドなプロダクションの異色作となっています。

アクースティック・ギターを中心に、ウッド・ベースとパーカッションが控えめに付き、
曲によりストリングス・セクションが加わるという、まるで室内楽のような編成。
当然サウンドのほうも、アゲアゲのンドンボロであるはずがなく、
うるさいシンセサイザーなど、まったく登場しません。

レパートリーは哀愁に満ちたスローなルンバばかりで、
アフリカ人女性をウットリとさせるのに十分なラヴ・ソングが並ぶという趣向。
フェレの歌も若い色気たっぷりの、セクシーな歌声を聞かせてくれます。
ハイトーンの美しさが絶品で、う~ん、いいシンガーじゃないですか。気に入りました。

アルバムはスタジオ録音に拍手をカブせたニセ・ライヴ仕立てで、
オーヴァーダブ丸わかりなチープな編集ぶりは正直、シラけます。
ベイビーフェイスの『MTV・アンプラグド』を意識したんですかねえ。
意図不明ですけれど、フェレの甘い歌いぶりに許しましょう。

Ferre Gola "ACCOUSTIQUE SHOWCASE 1789" Advancia no number (2012)
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ポップになったルンバ・ロックの大御所 パパ・ウェンバ [中部アフリカ]

Papa Wemba  Maitre D'ecole.jpg

あちゃあ、間に合わなかったぁ。
『ポップ・アフリカ800』の校了までに聴いていれば、
ぜったい入れたのになあ、パパ・ウェンバの新作。うーん、残念。
ウェンバの10年の前作“NOTRE PÈRE RUMBA” を『ポップ・アフリカ800』に入れるかどうか、
さんざん逡巡した末に見送ってしまったんですけど、これだったら迷わずに入れたのに。
(ということで、『ポップ・アフリカ800』8月25日発売です。ぜひお買い求めください。ぺこり)

それにしても2枚組という大作を出すとは、驚きました。
ムショからシャバに出たウェンバは一皮むけたというか、
10年かけてステージを一つ上りましたね。
“NOTRE PÈRE RUMBA” のポップ路線を素直に受け入れられなかったのは、
いつまでも昔のルンバ・ロックのウェンバのイメージを捨てられない、
こちらのアタマの固さのせいだったと反省させられました。

女性ヴォーカルをフィーチャーしてメロウに迫るウェンバなんて、
昔の不良少年のイメージからは考えられないほど、おっとなーなムード。
アクースティック・ギターを核に、キリリと引き締まったハイ・トーンのヴォーカルを放つところは、
単に円熟したというのとはひと味違う魅力を備えたように思います。
ポップなプロダクションも、パワフルなヴォーカルを輝かせるのに
もっともふさわしいお膳立てとなっていますね。
なんか、こんな人がほかにもいたような。そうだ、R&B界の大御所のロナルド・アイズレーですね!
お互いムショ帰りで、ハクが付いたってことでしょうか。

今回の新作が2枚組になったのも、絶好調のあまり、さまざまな曲にトライして、
気付いたら25曲も録音してしまったというふうに聞こえます。
事前にきっちりと2枚組をプランして作り上げたという重厚さがなく、
自然発生的にできてしまったというノリの良さが本作には感じられます。

旧友ニョカ・ロンゴとの共演曲では、ルンバ・ロック魂を炸裂させる
力のこもったすばらしい歌声を聞かせてくれるし、
トレスをフィーチャーしたラテン・ボレーロでは、
前作に続くポップ新境地ともいえるメロウネスを溢れさせています。
キンシャサの暴れん坊からルンバ・ロックの大御所へと歩みを進めたウェンバの、
ヴェテランならではの底力を見せつけた傑作です。

Papa Wemba "MAITRE D’ECOLE" Cornely Malongi no number (2014)
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アフリカ・ヨーロッパ・カリブ海の三角関係 コンゴレーロ [中部アフリカ]

Congolero.jpg

なんとも購買意欲を削がれる、ヤスっぽいジャケット・デザインなんですが、内容はゴキゲン。
正直、偶然耳にしなかったら、ぼくも買おうとは思わなかったろうなあ。
コンゴ共和国(ブラザヴィルの方ね)のサルサ・クレイズ3人のシンガー、
ウィリー・マノロ・モレーノ、ダヴィ・アメリカーノ、エディ・ソネーロによるアフロ・サルサ・アルバム。
タイトルもすばり『ハバナからブラザヴィルへ』。

ロス・バン・バン以降のキューバン・サルサ、特にティンバ系に背をそむけているぼくですけど、
アフロ・サルサなら聴くってのは倒錯じゃないかって?
いやいや、ティンバ系のサウンド自体には、別に抵抗はないんですよ。
ティンバって、がなる歌い方をするシンガーがやたら多いんで、それを嫌ってるんです。
女性シンガーにその傾向が顕著で、セリア・クルースが草葉の陰で泣くっつーもんでしょう。
なので、ヴォーカルがサルサ・マナーでマトモに歌っているのなら、ぜんぜんオッケー。
じっさい、初期のクリマックスとかは大好きでしたから、ハイ。

で、これも、お店で流れてるのを聴いて、お、いいじゃん!と反応したっていうわけ。
典型的なティンバ系のサウンドで、メレンゲのアレンジも斬新で楽しめます。
アフロ・サルサならではの、アニマシオン入りのモントゥーノが燃えますねえ。
ジャジーなバラーダや、ラストのピアノのみをバックに歌った曲まで、
ポップなカリブ系ダンス・ミュージックとしてのアフロ・サルサを楽しめます。

いまやこのテのサウンドを聴いても、キューバ音楽とは別物の、
ダンス・ポップと割り切って聴けるようになったので、抵抗感も昔ほどじゃなくなりました。
それに本作の場合、じっさい演奏しているのがキューバ人じゃないんですね。
サウンドのキーマンであるピアニストは、マルチニークのエルヴェ・セルカル。
エルヴェは全曲の作曲・アレンジのほかめ、プロデュースにも関わっています。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2013-06-09
さらにベースは、グアドループのティエリー・ファンファンですよ。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2011-05-07

パーカッションのマンスフォールド・アブラハム・ロドリゲスだけがキューバ人のようですけど、
コンゴレーロはアフリカ人とフレンチ・カリブ出身者が
パリでタッグを組んだユニットといっていいのかな。
考えてみれば、半世紀昔のグラン・カレの時代から、
アフリカ・ヨーロッパ・カリブ海の三角関係で音楽が作られている構図は今も変わらないわけですね。

Congolero "DE LA HABANA À BRAZZAVILLE" Poker Production no number (2013)
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アフリカン・ポップのマスターピース グラン・カレ [中部アフリカ]

Le Grand Kalle  His Life His Music.jpg

これは全アフリカ音楽ファンの愛顧盤となること必至でしょう。
トロけるようなアフリカン・ポップが詰まった、まさに「至福」の2枚組です。
「コンゴ音楽の父」と呼ばれ、コンゴ独自のポピュラー音楽
ルンバ・コンゴレーズの基礎を確立した、グラン・カレの決定盤がついに登場でっす!

1950年の初録音に始まり、アフリカン・ジャズを率いて
コンゴ民主共和国独立に沸いた60年代の黄金期を経て、
70年の最後の録音までクロノロジカルに収録したこのアンソロジーは、
グラン・カレの決定版といえる内容で、快挙としか言いようがありません。
さすがは名門スターンズ、アフリカ音楽史に名を残す巨人にふさわしい、
最高の復刻の仕事をしてくれました。

これまでもスターンズは、ギネアのシリフォンのアンソロジー、
ベンベヤ・ジャズ・ナシオナル、フランコとTPOK・ジャズなどなど、
アフリカン・ポップのマスターピースと呼ぶべき名編集盤を世に送り出し、
世界中のアフリカ音楽ファンを魅了してきましたが、
今回も詳細な解説やバイオグラフィなどとともに、
知られざるグラン・カレの最初期の曲も満載した内容で、
もうロンドンに足を向けては眠れません。

ここ数年、スターンズのアルバム・リリースにかつての勢いがなくなり、
オンライン・ショップのカタログも扱うタイトルが激減したので、
スターンズも斜陽なのかと心配していたんですけど、ぜひがんばって欲しいですねえ。
心あるアフリカ音楽ファンなら、スターンズのマスターピースは
全部手元にあると思いますけど、DJ向けのくだらないマニア盤ばかり買って、
基本のキのスターンズ盤を持ってないような人は、反省ついでに即買って、
スターンズの売り上げに貢献してください。ほんと、お願いしますよ。

それにしても、グラン・カレの単独リイシューは、本当にひさしぶりですねえ。
ソノディスクがまとめた編集盤はもう20年以上も昔の話で、とっくに廃盤。
そのソノディスク盤といえば、解説の1行すらない、ただ曲が聞けるだけのシロモノで、
それに比べて、今回は104ページに及ぶライナー付きなんだから、クオリティは天と地ほどの差。
スターンズ盤初となるCDブック形式は、レユニオンのタカンバ盤と同じ仕様のもので、
古い貴重な写真やSPレーベルのカラー写真にも目を奪われます。
ライスから出た日本盤には解説の全訳が付いているようなので、オススメですね。

そして、ソノディスク盤を全部聴いているような往年のアフリカ音楽ファンにとっても、
CD1の初CD化曲の数々はオドロキの連続でしょう。
アメリカのジャイヴやパームワインのほか、コンゴの地方の伝統リズムを
取り入れたとおぼしき曲など、多様な音楽がミックスされていて、
こんな録音がキャリア最初期にあったのかという驚きとともに、
その野性味あるサウンドにゾクゾクさせられました。

グラン・カレといえば、キューバ音楽の影響色濃い
60年代のアフロ・ラテンの香り高い演奏がすぐ思い浮かびますけど、
その完成度の高いサウンドを作りあげる以前は、
さまざまな外来音楽を取り入れて、試行錯誤を繰り返していた時期があったんですねえ。
ちょうどガーナのE・T・メンサーが、
洗練されたスウィング・ビートのダンス・バンド・ハイライフを確立する前に、
野性的なビート感を持つハイライフを録音していたのとも通じます。

新たなポピュラー音楽が芽吹き、地表から初芽を現した瞬間、
そしてその幼い芽が背をのばそうとする時に見せる、その時限りの表情は、
のちに音楽が成熟し、スタイルを確固としたあとではけっして聴くことのできない、
マジカルな尊さに満ちあふれています。

Le Grand Kallé "HIS LIFE, HIS MUSIC" Stern’s STCD3058-59
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コンゴ音楽の新たなイノヴェイター ジュピテール&オクウェス・アンテルナシオナル [中部アフリカ]

Jupiter & Okwess International  HOTEL UNIVERS.JPG

スタッフ・ベンダ・ビリリに関しては、音楽の内容そっちのけで、
障碍者であることや、貧しいストリート・ライフの物語ばかりが過剰に語られ、
いつからアフリカ音楽はそんなことを売り物にするようになったんだよと、
どうにもナットクいかず、素直に楽しむことができませんでした。
彼ら自身の問題ではなく、レーベル側の売り出し方への反感だったんですけどね。

スタッフ・ベンダ・ビリリの記事は各方面に山ほど載りましたけど、
音楽についてまともに書かれていたのは、
彼らの来日時に石田昌隆さんがインタビューした記事だけだったしなあ。

というわけで、同じフランス人コンビが見出したキンシャサのゲットー・ミュージックでは、
スタッフ・ベンダ・ビリリより、ぼくはジュピテール・バゴンジに注目していました。
ジュピテール・バゴンジの音楽性には明確な戦略があり、
コンゴ音楽の新たなイノヴェイターとなりうる可能性を感じさせたからです。

その戦略とは、ルンバ・ロックやンドンボロのようなダンス・ミュージックでもなければ、
フォルクロールのような伝統音楽の再構築をめざしたものでもない、
コンゴの多様な伝統リズムとファンクやレゲエなど汎用性の高いグローバル・リズムとの連結です。
ジュピテールは青年期にすごした東ドイツでロック、ソウル、ファンクを知り、
それらがすでにコンゴにあるリズムやメロディと同じことに気付いたといいます。

忘れられた各民族の伝統リズムをブラッシュアップするという手法は、
フォルクロールと同じものですけれど、ファンクやレゲエなどのリズムとの連結は、
単なるリズムの借用でもなければ、ミクスチャーとも異なる音楽的アイディアの深みを感じます。
それを鮮やかに示して見せたのが本作の1曲目で、
コンゴ流アフロビートともいうべきその仕上がりは、あっぱれとしかいいようがありません。

こういう音楽的実験が上手かった人というと、
ヌビア音楽を革新した故アリ・ハッサン・クバーンが思い浮かびます。
クバーンも、ヌビアの多様なリズムとよく似た外国音楽のリズムを使って聞かせるのがうまい人で、
知らない人が聴けば、ジェイムズ・ブラウンに影響されたのかと勘違いさせてましたからね。

07年の前作“MAN DON’T CRY” を大幅にブラッシュ・アップして、
世界的なマーケットに通用する作品として仕上げたのこの最新作。
ボブ・マーリーの“CATCH A FIRE” に匹敵する名盤と、太鼓判を押しましょう!

Jupiter & Okwess International "HOTEL UNIVERS" Out Here OH024 (2013)
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奇跡の音楽家 リシャール・ボナ [中部アフリカ]

Richard Bona Bonafied.JPG

緊張が解けて、ふとリラックスした瞬間の表情を捉えたショット。
モノクロ写真の美しい階調、タイトル文字のロゴタイプと、
絶妙なバランスで構成されたジャケット・デザインの品の良さに、思わず目を奪われました。
派手さはないけれど、その仕立ての良さは、リシャール・ボナの音楽と見事に合致しています。

天使が奏でているかのようなボナの音楽は、ふんわりとした最上級コットンの手触りを思わせます。
ボナの最新作は、そんな彼の音楽性が最高度に発揮された極上の仕上がりとなりました。
これほどまろやかで、優しい音楽を創り出す音楽家は、世界でボナただ一人じゃないでしょうか。

ボナの音楽には、エッジの立った音がいっさい出てきません。
角の取れた、丸みのある柔らかな響きに満ち溢れています。
そのソフトなサウンドは、赤ちゃんのお昼寝も邪魔せず、老人の耳にもやさしく、
年齢・性別・人種あらゆる垣根を越えて愛されるものです。
ボナの音楽からは、世界の誰もが共通して持つ平和への願いが
通奏低音のように流れてくるのを感じますが、それがボナという人なのでしょう。

フレンチ・ポップの女性歌手カミーユとデュエットした1曲を除いて、
全曲、生まれ故郷のカメルーンのドゥアラ語で歌っているとはいえ、
その音楽にアフリカ性がアピールされることはなく、
サウンドはあくまでも無国籍なコンテンポラリー・ポップスとなっています。
しかしそのサウンドを紐解けば、多重録音したコーラスとボディ・パーカッションで聞かせる
“Tumba La Nyama” や、しなやかなリズム・アレンジの“Diba La Bobe” など、
アフリカ人ミュージシャンでなければ生み出せないマジックをそこかしこに見つけることができます。

ま、そうは言っても、ボナのアルバムで耳奪われるのは、やはりメロディの美しさでしょうね。
涙が出そうなほど美しくも哀しいボレーロの“Mut'Esukudu”。
アコーディオンの響きがミュゼットを思わせる“Janjo La Maya”。
センチメンタルといっても差し支えない、切なくも胸に染み入るメロディに魅せられます。

またアルバムの最後では、なんとジェイムズ・テイラーの
“On The 4th Of July” をインスト演奏でカヴァー。
慈しみや儚さがないまぜとなったようなメロディが際立つこの曲は、
ジェイムズ・テイラーの02年作“OCTOBER ROAD” の中でも印象的な一曲でした。
まさかこの曲を取り上げるとは、ますますもってボナに親しみが湧きますよ。

コンテンポラリー・ジャズ・ベーシストとしても空恐ろしいほどの才能を持つボナですが、
最新作はコンポーザー、プロデューサーなどマルチ・タレントな音楽家としての
ボナのスケールが、ひと回り大きくなったのを感じさせます。
05年作の“TIKI” が世界を旅する音楽家の経過報告的なアルバムだったとすれば、
今作は旅の末に、ボナが自己の音楽世界を完成させたものといえるかも。

リシャール・ボナはアフリカの枠を飛び越えたゆいいつのミュージシャンであり、
地域や人種やジャンルをも超えた<奇跡の音楽家>です。

Richard Bona "BONAFIED" Universal Music 3733902 (2013)
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21世紀に甦ったOK・ジャズ モセ・ファンファン [中部アフリカ]

Mose Fanfan  MUSICATELAMA.JPG

今年はアフリカのヴェテランたちが続々と、感涙もののアルバムを出してくれますね。
ギネアのモリ・カンテに続いて、今度はルンバ・コンゴレーズのヴェテラン・ギタリスト、
ファンファンが8年ぶりの新作を届けてくれましたよ。

これがもう身悶えするしかない、すんばらしさなんでっす!
このふくよかさ! このまろやかさ!
こんなに人を幸せな気持ちにさせてくれるダンス・ミュージックが、世界のどこにあろうかってなもの。
ルンバ・コンゴレーズがもっとも輝いていた、60年代末から70年代前半にかけてのサウンド。
3管ホーンはOK・ジャズ往時のメンバーが揃い、なんとヴェルキス御大も参加しています。
まさしくファンファンがフランコのOK・ジャズに在籍していた時代の再現になっているわけですね。

後ろ向きと言わば言え。懐メロ、ソー・ホワット?
どんなヤユにも、もう開き直るしかありませんっ!
むしろルンバ・ロック以降のコンゴ音楽にしか触れていないファンにとっては、
このサウンドは「新しく」聞こえるんじゃないでしょうか。どう?

ファンファンが75年にコンゴを後にし、ルンバ・ロックの洗礼を受けることなく、
ザンビア、ケニヤ、タンザニアなどの東アフリカ諸国を転々として活動したことは、
ルンバ・コンゴレーズ・サウンドのテクスチャーを保ち続けた秘訣だったように思います。
とにもかくにも、この芳醇なサウンドに勝る音楽を、
コンゴの今の若手たちが生み出せていないのは事実なんじゃないかなあ。

ところで本作では、ファンファンが80年代にタンザニアのオーケストラ・マカシーに
在籍していた時代のヒット曲“Mosese” (本作には“Moses”と表示)が再演されているんですけど、
それを聴きながら、ふと疑惑がよぎりました。
ファンファンの名前 Mose Se Sengo Fan Fanのファースト・ネームを、
これまでずっと「モーズ」とフランス語読みしていたんですけれど、それって適切じゃなかったのかも。
“Djemelase” のコーラスも「ファンファン・モセ・セ」と、リンガラ語の発音で歌っているし。

ということで、今後はリンガラ語読みで、「モセ・ファンファン」と書くことにします。

Mose Fanfan "MUSICATELAMA" LAA LAA002 (2012)
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エトンの森から サリィ・ニョロ [中部アフリカ]

Sally Nyolo.JPG

サリィ・ニョロって、すごいな。
ザップ・ママを抜けてからの彼女のソロ活動は、ブレがないというか、ゆるぎがないというか、
自分のやるべきことをわかっている人の確かさを感じさせます。
クオリティの高い作品を作り続ける一方で、
母国カメルーンの若手アーティストの育成にも力を入れていて、
サリィぐらい足下確かに活動しているアフリカのアーティストも、数少ないんじゃないでしょうか。

サリィが一貫してやっているのは、カメルーン南部の伝統音楽ビクツィをベースに、
ピグミーのコーラスなど彼女のルーツに繋がる、
さまざまな伝統の要素を織り上げたポップスを作り出すことですね。
彼女のアルバムは、アンサンブルやアレンジのすみずみまで
繊細な神経が行き届いていて、いつも感心させられます。
凡庸なアイディアの借用や安易なミクスチャーなど、ぜったい出てこないですもんね。
よく練られたプロダクションながら、がっちり作りこんだような窮屈さもなく、
しなやかなサウンドを生み出すところに、サリィの柔軟な才能が示されています。

新作は、母国カメルーンのヤウンデにサリィが設立したスタジオや現在暮らしているノルマンディー、
さらにパリ、ブリュッセルでレコーディングを行っています。
メジャーへ移籍しても、サリィのスタンスは以前と変わりなく、
むしろヒット性とは無縁なアーティストなのに、ソニーがよく契約したものだと思いました。

今回新たな試みとして、子供時代にカメルーン南部のエトンの森でよく聴いたという、
ベティ人の木琴メンドザングを取り上げているところが注目されます。
そのメンドザングの演奏に始まり、アコーディオン、サックスなどが加わって
ビクツィのダンス・チューンへとなだれ込んでいく“Owé” が、アルバム最大のハイライトでしょう。

ポップなレゲエのサウンドで、ピグミーの笛ヒンデウフーをさりげなく聞かせたり、
小型のハープとおぼしき素朴な響きの民俗楽器と女声コーラスの反復による曲で、
サウンド・エフェクトをカクシ味に効かせるデリケイトな手さばきも、さすがです。
アルバムのラストをピグミーのコーラスで締め括ったところも、サリィらしくっていなあ。
カメルーン南部ギネア湾沿岸のリゾート地クリビにほど近い、
密林に暮らすロベのピグミーを取材したようです。

最後に蛇足ぽい話になりますけど、おやと思ったのが、
最近プロジェクトで共演しているサックス奏者デヴィッド・マレイ作曲の“Stolen By Night”。
イントロから曲全体のムードまで、ダン・ヒックスの“I Scare Myself” そっくりなんですね、これが。
まさかサリィがダン・ヒックスの曲を知ってるとは思えませんが、
あまりにも似ているので、何度聴いても不思議な空耳感が残ります。

Sally Nyolo "LA NUIT À FÉBÉ" RCA Victor/Sony Music 88697915062 (2011)
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ルンバ・コンゴレーズの知られざるオルケストル オルケストル・コンチネンタル [中部アフリカ]

Orchestre Continental.jpg

新年の聴き初めをルンバ・ロックで迎えたら、
元日早々ルンバ・コンゴレーズ専門店のバオバブから、新入荷のお知らせメールが届きました。
「こらまた奇遇な」とひとりごちながらカタログをチェックしてみると、
以前品切れで涙をのんだオルケストル・コンチネンタルが再入荷しているじゃないですか。
わーい、やったあー。これはぼくにとっては嬉しいお年玉。う~ん、今年はいいことありそう。

オルケストル・コンチネンタルは、ドクトゥール・ニコ率いるアフリカン・フィエスタ・スキサの
シンガーだったジョスキーが中心になって結成したバンド。
のちにジョスキーとともにTPOK・ジャズに移籍したシンガーのウタ・マイや、
ギタリストのボポールも在籍していたとはいえ、
このオルケストルの存在を知っている人は、マニアくらいのもんでしょうね。
71年から74年頃までのごく短い期間しか活動しなかったため録音が少なく、
ソノ・ディスクのコンピレーションCD2枚(36513, 36534)に
3曲ずつ収録されていたのしか知らなかったので、
単独復刻の10曲入りフル・アルバムが出ていることを知った時は、びっくりでした。

あらためて聴いてみると、
ルンバ・コンゴレーズの群雄割拠時代ならではのオルケストルという感を強くします。
フランコ、ロシュロー、ドクトゥール・ニコといった大物の陰で、
実力あるメンバーたちが集合離散を繰り返しながら、シーンを熱くしていたんですねえ。

ヴォーカル・ハーモニーは甘くとろけるオールド・ファッションなスタイルを保っていながら、
ホーン・セクションはソウルフルで、濁ったトーンを吹き鳴らすテナー・サックスや、
歯切れのよいアルト・サックスのソロが飛び出します。
きびきびとした硬い音色を響かすギターもバンド全体をきりっと引き締めていて、
ルンバ・コンゴレーズの良き時代のサウンドを堪能することができます。

一部の曲では、明らかにジェームズ・ブラウンの影響と思われるホーンのリフも飛び出し、
スウィートなコーラス・ハーモニーとファンキーなサウンドが折衷する
アンサンブルの妙味にも耳を奪われます。
録音当時を考えると、新世代の登場でルンバ・ロックへとなだれ込んでいった時期でもあり、
ホーン・セクションを抱えたルンバ・コンゴレーズ世代のバンドが、
時代遅れとなりつつあった時代とも重なっていました。
こうした録音は、旧世代なりに新しいサウンドへの対応を模索した跡だったのかもしれません。

マニア向けの一枚とはいえ、当時の歴史を深掘りしたいファンには、
あれこれと考えさせられるところの多い、格好のアルバムなのでした。

Orchestre Continental "LES GRANDS SUCCÈS DE L’ORCHESTRE CONTINENTAL" Edition Kaluila KLO174
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ルンバ・ロックで謹賀新年 ストゥーカス [中部アフリカ]

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あけましておめでとうございます。

新年は明るく、楽しく、元気よく、迎えたいもの。
今年は何がいいかなぁと、あれこれ迷いましたが
2011年の聴き初めはストゥーカスにしました。

ストゥーカスといえば、ルンバ・コンゴレーズ世代の予定調和をうち破った
ルンバ・ロックのなかでも、とりわけ型破りな激しさで知られるバンド。
サイレンが飛び出すわ、リヴァーブを深くかけたヴォーカルが暴れ回るわで、
その奇想天外さに耳を奪われがちになりますが、
彼らが歌うメロディーの美しさや、コーラス・ハーモニーの華やかさは、
他のルンバ・ロック世代にない個性でした。

そんなストゥーカスの名曲満載なのが本作。
サイレンが飛び出す奇想天外な曲こそありませんけど、
意表をつく展開をみせるサウンドのアイディアの豊かさに、
溢れんばかりの若い才能がきらきらと輝いている、爽快な傑作です。

このCDの最大の聴きどころは、ラストに収められた“Gida”。
彼らが何度も取り上げている名曲ですけど、
ここで聴けるのは、ルンバ第一世代の大ヴェテラン、
カミーユ・フェルジのアコーディオンをフィーチャーしたヴァージョン。
これを至福といわず、なんといいましょう。

今年一年も、いい音楽とたくさん出会えますように。

Orchestres Stukas De Lita Bembo "LES PLUS GRANDS SUCCÈS VOLUME 2" Ngoyarto NG044
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人生は楽し パパ・ウェンバ [中部アフリカ]

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パパ・ウェンバが主演した映画“LA VIE EST BELLE”(87)がDVD化されました。
日本では一般公開されず、「アフリカ映画祭'89」で3回上映されただけなので、
観た方は少ないかもしれませんが、なかなか面白い映画なんですよ。
芸術祭向けのマジメなテーマが多かった「アフリカ映画祭'89」の参加作のなかでも、
出色の娯楽作品だったことをよく覚えています。

プロ・ミュージシャンを目指して首都キンシャサに上京した田舎出の青年が、
靴磨きやナイトクラブを経営するパトロンのハウス・ボーイをしながら成功を夢見る、
といったあらすじのコメディーです。
音楽と恋愛というエンタメ二大要素を中心に据えながらも、
アフリカの矛盾に満ちた都市生活を見事にあぶり出しているところが秀逸なんですね。
労働者と富裕層の厳然たる貧富の差や、一夫多妻の問題、
近代的な生活をしながら呪術師に頼る日常生活など、近代と伝統の拮抗といったテーマを
実にうまく活写していて、キンシャサの現実を見せてくれました。
田舎出の青年クル演じるウェンバほか、恋人役のカビビ、歌手として登場するペペ・カレなど、
俳優は素人ばかりなのに、皆演技が巧いのには感心させられましたね。

この作品はコンゴとベルギーの共同制作ですが、
監督は50年ブカブに生まれた生粋のコンゴ人、ムエゼ・ンガングラが務めました。
ンガングラ監督初の長編映画であるとともに、
コンゴの一般の映画館で上映された、初の長編映画でもあったそうです。
それまでのコンゴには国産の映画がなかっただけに、大ヒットとなったわけですね。
主役にキンシャサの庶民が憧れるパパ・ウェンバが演じたのだから、なおさらです。
当時サウンドトラック盤もリリースされ、日本にも入ってきたので、映画を観たことはなくても、
ウェンバの歌う“La Vie Est Belle”(人生は楽し)を聴いたことのある人は、
結構いるんじゃないんでしょうか。

DVDには字幕が付いてないので、フランス語がわからない人にはちょっとキビしいかもしれません。
ぼくもフランス語はまったくダメなので、昔観た字幕付映画の記憶でなんとか理解できましたけど、
はじめて観る方は、その点だけご注意ください。

[DVD] Ngangura Mweze "LA VIE EST BELLE" Rue Stendhal 0070-2 (1987)
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2010年アフリカン・ポップの最高作 バロジ [中部アフリカ]

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2010年上半期ベスト? いやいやいや、そんなもんじゃないですよ。
2010年最高作だと、はや宣言しちゃいましょう。
在ベルギーのコンゴ人ラッパー、バロジが、とんでもない傑作をものにしました。

「アフリカの年」から半世紀、コンゴ独立50周年を記念する今年にふさわしい、
コンゴ独立を祝うグラン・カレとアフリカン・ジャズの名曲、
“Indépendence Cha Cha”のカヴァーからアルバムはスタートします。
しかもバックは、故ウェンド・コロソイのバンドというこれ以上ない演出に、
オールド・ファンは泣くしかありません。

ラッパーのアルバムだというのに、全編生演奏なんだから、シビれます。
人力ならではのザラッとした音の質感と、アーシーなサウンドがたまりません。
オールドタイミーなホーンズをフィーチャーしたルンバ・コンゴレーズをはじめ、
バロジの強いこだわりで多くの曲にフィーチャーされたという、
バラフォンの響きも嬉しいじゃありませんか。

そして、なんといってもアルバムの最高の呼びものは、コノノNo.1と共演したトラックです。
YouTubeで話題沸騰となった、埃まみれのキンシャサのストリートでラップする、
バロジのクールなことといったら!
フォルクロールに眠る霊魂が蘇り、バロジに憑依したかのようです。

DVDには、この曲とさきほどの“Indépendence Cha Cha”のPVが収録されていて、
メイキング・ドキュメンタリーともにCD本編の価値を高めています。
そのヴィデオを観るたびにホレボレするのが、バロジのナイス・ガイぶり。
ベルギーでファッション・モデルやってるんじゃないかと思うほど、
立ち姿、歩き姿がキマってます。
ファッション誌に登場したら、日本の女子も注目必至だと思うんですけど、どーでしょう?

バロジの自作曲(共作含め)を中心としつつ、上記「独立チャチャ」のほか、
マヌ・ディバンゴやジョニー・ブリストルにマーヴィン・ゲイのカヴァーもあり、
マーヴィン・ゲイの“I'm Goin' Home”をカヴァーした“Nazongi Ndako (Part 1)”では、
アンプ・フィドラーにザイコ・ランガ=ランガのコーラス隊が参加しています。

ベルギーから連れて行ったミュージシャンと、
キンシャサ現地で起用したミュージシャンとのコラボもツボにはまりまくって、
ゲスト・ミュージシャンの起用も含め、プロジェクト・スタッフが良い仕事をしてます。
なんでもキンシャサのミュージシャンたちに、ロクなギャラを払わなかったとかで、
クラムド・ディスクのプロデューサー、ヴィンセント・ケニスさんが
ボロクソに言ってるとかの話ももれ伝わってきてますけど、
ともあれ今年度最高のアフリカン・ポップ・アルバム、まだの方は、ぜひ。

[CD+DVD] Baloji "KINSHASA SUCCURSALE" EMI 5099962993128 (2010)
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